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翌朝、フレードはいつもと変わらぬ時間に目を開いた。起き抜けの思考で、今日は来店の予定が入っていないはずだと部屋を見回し、祖父の家であると認識し、母親の容態が気になりそこで一気に昨夜からの事を思い出した。
「……母さん!」
ベッドから降りようとして、シーツに足を引っ掛けて転びかけた所でノックの音がした。
「お目覚めでございますか?」
昨夜のメイドが来てくれたらしいので、フレードは扉を開けて挨拶をしつつ母親の事を尋ねた。
「おはようございます。あの、母さんは昨夜から変わりないですか?」
「おはようございます。お嬢様は喘鳴も出ずに、安定しておいでだと。今後の方針についてお医者様とお館様より朝食後にお時間を、とご伝言でございます」
了承の返事をして、部屋に運んでもらった朝食を見咎められない程度に急いで食べると、フレードはナターリエの部屋に向かった。扉をノックして暫くすると、昨夜から詰めていてくれた医師が中へと通してくれた。
「きちんと眠れたようで結構。睡眠は生命活動には欠かせないからね」
「昨夜は有難うございます。母の様子はどうでしょう?側に行っても構いませんか?」
「うむ、先ずは声を掛けて差し上げなさい。容態はオイゲン団長が来られたら話そう。」
医師の許可を貰い、フレードは静かに横たわるナターリエの様子を見た。流石に健康的な顔色とは言えないが、青白くは無く呼吸もしっかりしているように見えた。眠っているようで、その瞳は閉じている。
「母さん、おはよう。苦しくはない?お祖父様も直ぐに部屋に来てくれるって。」
母親の苦しみを代われないもどかしさを内心に、フレードはそっとナターリエの手を握りながら、不安が滲み出ないようにできるだけ明るく声を掛けた。
今日も天気が良い事、もうすぐ店の騎獣が一頭産まれそうだという事……。普段の会話に近い内容を選んで、あえて明るく、けれど声量を抑えて話を続けたのだった。
「フレード、待たせたな。ナターリエもお早う」
静かにダビットがフレードの横に来て、ナターリエの頭を撫でた。妻も亡くし、残された娘もまた病を得ている。こんな状況にダビットも、不安で、運命の理不尽さに対してやり場のない怒りを覚えているのだろう。彼の顔色は心労の大きさを表していて、横顔を見たフレードは普段の力強い祖父との落差につい、顔を歪めてしまった。
「フレード、そんな顔をしてはいけない。ナターリエは勿論、すぐに元気になるとも。お祖父様がお前に嘘を吐く事等、無いだろう?」
フレードの様子に気付いたダビットは、幼い頃と同じ様にその頭を力強く撫でた。成人を迎えても、悲しくなると怒った様に顔を歪める癖はそのままな孫に、少し癒やされたような気がする。ダビットは少しだけフレードに微笑んでみせた。
「では、揃ったので話をしたいが、良いかね?」
医師の声掛けで、祖父と孫はお互いを勇気付ける様に頷き合って、隣室へと場所を移した。




