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フレードは外套を羽織って一番速い騎獣に飛び乗り、魔法の補助杖も兼ねる槍だけを護身用に持ち、家を飛び出した。
昼とは違う、冷えた闇の中を直走る。湯浴みした髪がまだ濡れていて、熱くなった頭を冷やしてくれる様だ。
(先々月に会いに行った時は、茶菓子を幾つも食べられる位に元気だったのに)
ナターリエは肺を痛めてから、北部の山から降りてくる冷たい風がよくないのか酷く辛そうで、カカンナの街の南側に位置する実家にいる時は、防壁もあるお陰か風が和らぎ体調も安定していた。
(防壁に近すぎると良くないな。誰何でもされて時間を取られたくない)
多少顔のきくフレードでも流石に騎乗して全速で街中は通れず、距離が短く済む西回りで、防壁から少し距離を取って速度を落とさず駆けた。夜目の効く『猫の目』の魔法を騎獣と共に掛けてあるので走れるが、空から照らす双子月が有難い。
体感はとても遅く感じたが実際は、フレードが飛び出した後ヴァルターが飛ばしてくれた返事が届いたのと、然程間を置かずに街の南門を通過した。祖父ダビットの手紙をオイゲン邸の門番に渡す間もなく、騎乗したまま敷地へと通され車寄せまで突っ切ると、フレードは騎獣から転げ落ちるように扉へ駆け寄った。
フレードが声を掛けるまでもなく、内側から開かれた扉から煌々とした明かりが照らして、一人夜を掛けた不安が薄れる。
「お孫様、お嬢様のお部屋にてお待ちです」
迎えてくれたメイドが、部屋へと先導しつつナターリエの容態を教えてくれた。
「お嬢様は夕方から喘鳴が酷かったのですが、夜になって意識が朦朧とされたのでお呼びになりました。今は何とか持ち直して眠っておいでです」
母を喪うかもしれず焦っていたフレードだが、その言葉に大きく息を付き、ここへ来て一言も口を開いていないことに漸く気がついた。
「……あの、有難うございます。すみません挨拶もしていなかったですね」
「とんでも御座いません。動転していて当然ですので。……直ぐにお飲み物をご用意します」
まだ息が少し上がっているフレードを部屋に案内し、到着を中へ告げてメイドが下がっていった。
「おお、来てくれたか。よく寝ているよ」
奥のベッド脇で、ナターリエの側に着いていてくれたダビットが迎えてくれた。
寝ている母親を起こさぬように静かに近づき、フレードも顔を確かめるように覗き込んだ。
「お知らせくださって有難うございます、お祖父様。……母さん、心配したよ。早く良くなって、またお菓子を沢山食べよう」
呟く様に語りかけられるナターリエは頬の赤みも戻ってきており、呼吸も落ち着いて見えフレードも少し安心できた。暫く手を握りながら静かな時間を過ごしたが、医師が咳払いをし、退出を促してきた。
「……今夜は詰めてくれるそうだし、部屋を変えて話そう、フレード」
祖父に促され、医師に礼をしてから部屋を出て、ダビットの私室に招かれた。今夜、館の中はまだ明かりを落とせないだろう。
猫の視界で夜の散歩をしてみたい。街頭を眩しいと思っているのだろうか、見えやすいと思っているのだろうか。




