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【第一部完】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里
第一部 魔王討伐編

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43. ワシは先へ行く

 金属と金属が噛み合う、耳をつんざくような音が響き渡る。


 ケイトと剣の門番。

 二人の影が交錯し、火花を散らしている。


 だがワシの目には戦況が悪化していくのがありありと見えた。


「くっ……!」


 ケイトの口から苦悶の声が漏れる。

 剣速、膂力、経験。

 どれをとっても相手が一枚上手。

 なんとか食らいついているが防戦一方だ。


 門番の大剣が唸りを上げて振り下ろされる。

 ケイトはそれを受け流せず、半歩、また半歩と後ろへ下がる。


 ――気持ちで負けとる。


 バックステップを踏んだ先にあるのは安全地帯ではない。敗北という名の崖っぷちだ。

 退けば退くほど、相手の勢いは増す。

 このままじゃ押し切られるのは時間の問題だろう。


「……」


 ワシは一つため息をつくと、スタスタと戦場の真ん中へと歩み寄る。

 ケイトがジリジリと後退し、ついには大きく後ろに飛びのいた、その瞬間。


「ケイト」


 ワシはケイトの背中に声をかけた。


「マフィ王女!?」


 背後に気配を感じていなかったのか、ケイトが肩を震わせる。

 ワシはそんなのお構いなしに続けた。


「お前、まだ負けるかもしれんと思っとるんか」


 言いながら、ワシはケイトの真後ろの地面にどかっとあぐらをかいて座り込む。


「なっ……!?」


 ケイトがギョッとして振り返った。


「姫様!? 何をなさっているのですか! 下がってください!」


 目の前には殺気を放つ門番が立っているのだ。

 常識で考えれば自殺行為だろう。


 だがワシは鼻で笑ってやった。


「危ない? 何がじゃ」


 ワシは地面の小石を拾って弄ぶ。


「お前が勝つから、ここが世界で一番安全な場所じゃ」


「……え?」


 ケイトが呆気にとられた顔をする。

 ワシは弄んでいた小石をピンと弾き飛ばし、ケイトを見上げた。


「何をキョロキョロしとる。前だけ見とけ」


 そして、ワシはニヤリと笑う。



「ワシの前に立つ男はオズ王国の騎士団長。おどれの背中より安全な場所が、この世のどこにあるんじゃ!」



 その言葉を聞いた瞬間、ケイトの瞳が大きく見開かれた。


 ――背後に、王女がいる。

 守るべき主が退路を断つように座り込んでいる。


 それはつまり、これ以上一歩たりとも退がれないということ。

 攻撃を避ければ、後ろの主が斬られることになる。


 ケイトの背中に重圧という名の火が灯った。

 絶対に守るべき聖域が、物理的に固定されたのだ。


「……ふふっ」


 ケイトの肩から力が抜けた。

 乾いた笑いが漏れる。


「姫様には……敵いませんね」


 ケイトが剣を構え直した。

 その構えから、防御の意識が完全に消え失せていた。

 あるのは前の敵を殺すという、純粋な殺意のみ。


 退くという選択肢が消えた人間は強い。

 迷いがなくなる分、判断が一瞬早くなる。

 達人同士の戦いにおいて、その「一瞬」は致命的な差となる。


「……!」


 門番が動いた。

 大剣が大きく振りかぶられる。

 先ほどのフェイントと同じ予備動作。


 だが、ワシには分かった。

 今度は本気じゃ。

 一撃でケイトごとワシを叩き潰す気じゃ。


「――いけぇッ!! ケイト!!」


 ワシの気合いが飛ぶ。


 その声がケイトの背中を弾いた。

 脳が思考するよりも速く、体が反応する。


 ケイトが踏み込んだ。

 防御など考えない、捨て身の突撃。

 門番の大剣が振り下ろされるよりも速く、ケイトの剣速が神速へと至る。




 鮮血が舞った。

 門番の剣先がケイトの左腕を掠め、肉を浅く削ぎ落とす。

 だが、それだけだ。


 対するケイトの剣は、深々と敵将の喉元を貫いていた。


「……見事だ」


 門番が剣を取り落とす。

 その口元には、満足げな笑みすら浮かんでいた。


 巨木が倒れるように、剣の門番は膝から崩れ落ち、動かなくなった。

 ケイトが荒い息を吐きながら剣を納める。


 その背中は最初よりもずっと大きく、頼もしく見えた。



 ◇



 パンクの戦いも佳境を迎えていた。


 槍の門番はまるで流水のように掴みどころがなかった。

 パンクがどれだけ剛腕で戦斧を振るおうとも、槍の石突や柄で巧みに力を逸らされ、決定打を与えられない。


「くそっ、チョコマカと……ッ!」


 パンクの全身には無数の切り傷が刻まれていた。

 致命傷こそ避けているものの、出血が体力を奪っていく。


 対する門番は涼しい顔だ。

 ポニーナが援護射撃として放つ矢も最小限の動きで躱し、あるいは槍で払い落としている。


「……」


 相手の動きに慣れて勝負どころと感じたのか、門番の瞳がスッと細められた。

 空気が凍り付く。

 次の瞬間、門番の姿がブレた。


「速ぇッ!?」


 高速の突き。

 パンクが反応するよりも速く、透明な槍が心臓めがけて繰り出される。

 避けることは不可能。

 戦斧での防御も間に合わない。


 ――死ぬ。


 そう直感した刹那、パンクの脳裏にマフィの言葉がよぎった。


『死んで花実が咲くもんか』


 ここで死ねば、姫様を守る盾が一つなくなる。


「うおおおおッ!」


 パンクは咆哮と共に、あえて防御を捨てた。

 体を半身に捻り、自ら槍の軌道へと飛び込む。


 ドスッ!!


 鈍い音が響いた。

 槍の穂先が、パンクの右肩を深々と貫通した。

 鮮血が噴き出す。

 だが、パンクは倒れない。


「っ……!?」


 門番が驚愕に目を見開く。

 槍を引き抜こうとするが動かない。

 パンクが肩の筋肉を極限まで収縮させ、刺さった槍を万力のように締め付けていたのだ。


「捕まえたぞ……この野郎!」


 パンクが血塗れの歯を見せて笑う。

 門番が焦って槍を捨て、バックステップで逃れようとした、その時。


 ヒュンッ!


 ポニーナの放った矢が、絶妙なタイミングで門番の足元に突き刺さった。


 不意をつかれた門番が、わずかにつんのめる。

 その一瞬の硬直が命取りだった。


 パンクの左拳が握りしめられる。

 パンクは元々、左利きだ。

 姫様との因縁の始まりでもあった、あの左腕。


「右ならくれてやる。だが左は……」


 パンクの瞳が獣のようにギラついた。


「テメェを地獄に送る用だああああ!!」


 渾身の左フックが、門番の顔面にめり込んだ。

 骨が砕けるような音が響き、門番の体がくの字に折れ曲がって吹き飛ぶ。


 門番は地面を転がり、動かなくなる。


 パンクが右肩に槍が刺さったまま立ち尽くす。

 そして、とどめとばかりに左手一本で戦斧を持ち上げ、倒れた門番に振り下ろした。


 ――勝負あり。


 だが、緊張の糸が切れたのか、パンクもまたグラリと揺れた。

 右腕からの失血と全身のダメージは限界を超えている。


 巨体が地面に倒れ込んだ。


「パンクッ!!」


 ポニーナがシロから飛び降り、悲鳴を上げながら駆け寄っていく。



 ◇



 静寂が戻った城門前。

 ワシは倒れたパンクの元へと歩み寄った。

 ポニーナが必死に右肩の止血をしている。

 ワシが覗き込むと、パンクは白目を剥いて気絶していたが、いびきが聞こえてきた。

 どうやら命に別状はないらしい。


「男を見せたの」


 ワシはパンクの頬をペチペチと叩いたが、起きる気配はない。

 これだけの重傷でよく耐えたもんじゃ。


「ポニーナ、こいつの手当てはお前に任せる。――ワシは先へ行く」


 ワシは視線を上げた。

 目の前には不気味なほど白く輝く魔王城の扉がある。

 この奥に、全ての元凶がいる。


 ワシが歩き出すと、背後から足音が聞こえた。

 ズルッ、ズルッという、重い足音。


 振り返ると、全身傷だらけのケイトが立っていた。

 腕からは血が滴り、足元もおぼつかない。

 それでも瞳だけは燃えるように輝いていた。


「……おどれもボロボロじゃろうが。ここで休んで手当てしとけ」


 ワシがそう言うと、ケイトは首を横に振った。


「騎士団は王族を守るためにあるのです」


 ケイトは剣を杖代わりにして、一歩前に出た。


「王女様を、死んでも守り抜きます」


 かつて弱気だった青年騎士は、もうどこにもいなかった。


 そこにいるのは覚悟を決めた一人の(おとこ)だ。


「……フン」


 ワシは口元を歪めて笑った。


「言うようになったのう。なら、ついて来い」

「はっ!」


 ワシは城の扉に手をかけた。

 ひんやりとした冷気が伝わってくる。


 ついに、王手じゃ。


 力いっぱい、その巨大な扉を押し開けた。



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― 新着の感想 ―
おぉっ!  む ね あ つ!! あの、パンクが···涙 ケイトも、騎士団長としても漢魅せた! 二人ともに双璧とたたえられる戦いをしたのだけれど、どうみてもマフィが一番漢らしい。
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