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【連載版】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里


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4. 腕一本


 気が付けば王城にある自室の天井が目に入った。


「王女様がお目覚めになられました!」


 甲高い侍女の声が部屋に響き渡る。バタバタと騒がしい足音が近づいてきて、飛び込んできたのは今生の母である妃殿下だった。


「マフィ!」


 妃はワシの姿を見るなり泣き崩れ、ベッドサイドでワシを抱きしめた。


「急に馬車から飛び降りてどこかへ行ったと思ったら……!帰ってきたらワインを一気飲みして倒れるなんて、どれほど心配したと思っているのですか!」


 どうやらワシは食堂で酒を呷った後、丸一日ほど目を回していたらしい。


 情けない。

 前世なら、あの程度の酒など水のようなもんだったのに。


 妃の後ろには今生の父である国王も立っている。妃にすごい剣幕で叱られたらしく、なんとも居心地の悪そうな顔をしていた。国王ともあろう者が、威厳もあったものじゃない。



 久しぶりに美味い酒だったが……この五歳の体にはちと強すぎたようだ。

 ――今後は控えるようにせんといかんな。



 ワシは内心でため息をついた。


「マフィはまだ五歳なのですから!」


 妃の涙ながらの説教は長く続いた。

 結局、ワシは次の日も丸一日「療養」という名目で部屋に閉じ込められる羽目になった。


 その夜、妃殿下が部屋を離れた隙に国王が一度だけ様子を見に来た。


「騎士団長の件、よくやってくれた」


 短くそう告げると声を潜めて続ける。


「地下牢にいる街の不届き者どもの扱いはお前に任せよう。王女として、何を是とし何を非とするか示してこい」


 そう言い残し、王はすぐに部屋を後にした。


 ……ワシが食堂で暴れたからではあるが、五歳の娘に任せることか?




 外に出してもらえない間、ワシはぼんやりと今後について考えていた。


 先日、王城で気骨のある貴族たちと『兄弟の盃』を交わした。

 あの時、ワシは確かに誓った。「お前らを守る」と。

 あの場で勢いに任せてやったことだが盃を交わした以上、ワシはあいつらのことを何をしてでも守らなければならん。


 あいつらは最前線で魔王軍とやらを食い止める。

 ならばワシはやつらの背中を、この王都を守る。

 奴らが敗走したとき、最悪前線を下げても問題ないように、この王都だけは絶対に安全な場所にしておかなければならない。


 だが、問題がある。

 この国は最前線の小国だ。騎士団長一人をクビにしたところで徴兵逃れのゴロツキなど、いくらでも湧いて出るだろう。腐ったミカンは他にもあるはずだ。


「……手駒が足りんな」


 ワシはこの非力な腕を見下ろした。五歳児のこの体では、前世のように腕っぷしにものを言わすということもできない。ワシの代わりに戦える人間が必要だ。


「どうせなら気骨のある男を手駒にしたいもんじゃのう」


 ワシは一人、薄暗い部屋でニヤリと笑った。

 昨夜、王から「処遇は任せる」とお墨付きももろうとるのだった。



 次の日。

 ようやく安静が解かれたワシは護衛の騎士を数人引き連れて地下牢へ向かった。


 湿っぽくカビ臭い地下牢には、先日捕らえたゴロツキどもが放り込まれていた。ワシの姿を認めるなり、鉄格子の向こうで土下座が始まった。


「王女様!先日は誠に申し訳ございませんでした!」

「どうか命だけは!あれはわざとではなかったのです!」

「すべてあいつがやったことで……!」


 仲間を売る声、泣き喚く声。

 見苦しいことこの上ない。


 ワシはそんなクズどもを一瞥し、牢の奥に視線をやった。


 騒ぎ立てる連中とは別に、一人の男が奥で静かに座っている。ワシに気づくと、そいつは何も言わずに深く頭を下げた。

 ――ワシを殴り飛ばした、あの男だった。


 ふん。

 やはり、この中で一番ましなのは『あれ』ぐらいじゃな。


 ワシは命乞いの声を無視し、その男に向かって声をかけた。


「おい、そこの」


 ビクッ、と男の肩が震えた。


「お前、どうも元気が有り余ってるようじゃのう。その有り余った力を別のことに使わんか?」


 男はゆっくりと顔を上げた。その目には驚きと困惑が浮かんでいる。


「……光栄なことでございます。ですが、王女様。我らのようなクズに……よろしいのですか?」


「おう」


 ワシは鉄格子越しにそいつを真っ直ぐに見据えた。


「もちろん、『ケジメ』はきっちりつけてもらうけえ」




 ワシはその男だけを牢から出させた。護衛たちが厳重に縄で縛り、引き立てる。


 向かったのはあの女が襲われていた路地裏だ。幸い、女は近くのあばら家で無事に暮らしていた。

 ワシの姿を見るなり、女は慌てて家の外に飛び出し、地面に額をこすりつけた。


「王女様!先日はまことにありがとうございました!」

「ええわ。当然のことをしたまでじゃ」


 ワシはそう答え、改めてあたりを見回した。


「これからはここいら一帯、ワシが仕切る。安心して暮らせ」

「へ……?」


 女はワシの言葉の意味が分からんのか、きょとんとしている。


「あ、ありがとうございます……?」


 戸惑いながらも女は再び頭を下げた。ワシは女に構わず本題に入った。


「今日はな、先日お前さんに無礼を働いたこのクズに、ケジメをつけさせようと思うてのう」


 ワシが顎でしゃくると護衛の騎士たちが縛り上げた男を引きずってきた。

 その姿を見て女の体がビクッと怯えたように強張るのが見て取れた。先日、自分に狼藉を働いた相手を忘れるはずがない。

 騎士たちが男を乱暴に押さえつけ、女の目の前に跪かせる。


「王女様……これは、一体……?」


 何が始まるのかと女が困惑する中、ワシは跪く男を見下ろして冷たく言い放った。



「腕一本じゃ」



 その場の空気が凍りついた。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。


もし「面白いな」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下の★マークから評価をいただけますと、作者として大変励みになります。

皆様からの評価が今後の執筆の大きな参考にもなりますので、ぜひお気軽につけていただけると嬉しいです。


これからもマフィ王女の仁義ある戦いを、どうぞよろしくお願いいたします。

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