表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里
第一部 魔王討伐編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/45

32. どこまでもふざけたやつらじゃ


 日が暮れて、月明かりだけが頼りの山道を行く。


 すでに走り続けて二日が過ぎていた。

 さすがのホルシアの名馬シロも呼吸が荒い。

 無尽蔵に見えたスタミナも、ここへ来て底が見え始めている。

 速度が落ちてきたのは明らかだった。


「……気張れよ」


 ワシがシロの首筋を撫でた、その時だった。


 背筋に冷たい氷柱を突き刺されたような感覚が走った。

 何十年も裏社会で命のやり取りをしてきた者だけが感じる、独特の悪寒。


 殺気じゃ。


「伏せろ!」


 ワシが叫んだのと、パンクが反応したのはほぼ同時だった。

 パンクが咄嗟に馬上で上体を低くする。


 ヒュンッ!


 風切り音と共に、何かがパンクの頭があった空間を切り裂いていった。

 矢だ。


「ちっ……!」


 パンクが舌打ちをし、シロの脇腹を蹴る。

 やはり来たか。

 あの関所の兵士の反応を見て覚悟はしていたが、仕事が早い。


 振り返ると、闇に沈む森の奥から黒い影が飛び出してきた。

 黒いフードを目深に被った騎馬の男。

 馬体も黒く塗りつぶされており、闇夜に紛れて音もなく迫ってくる。


 さらに、左右の林の中からもガサガサと草をかき分ける音がする。

 どうやら森の中に射手を配置しているらしい。


 ヒュッ、ヒュンッ!


 再び数本の矢が闇を裂いて飛来する。

 狙いは正確だ。

 だが、パンクもただのゴロツキではない。

 前線で死線をくぐり抜けてきた男だ。


「オラァッ!」


 パンクは護身用と野営のために腰に差していた鉈を引き抜き、飛んでくる矢を叩き落とした。


 だが、黒い騎馬の暗殺者が見る見るうちに距離を詰めてくる。

 疲労困憊のシロに対し、追手の馬は元気いっぱいだ。


 林道は狭く、逃げ場はない。

 暗殺者は最短距離を一直線に追いすがってくる。


「……な、なんだぁ?」


 その時、前方に明かりが見えた。

 街道脇の開けた場所で焚火を囲んでいる数人の人影。

 どうやら行商人の一行が野営をしているらしい。


 ワシらの馬がその脇を駆け抜けるのを、行商人たちが驚いて見上げた直後。


 ワシらを追ってきた黒い騎馬が減速することなく商人の横を通過する。

 その際、暗殺者の腕がわずかに動いた。


 シュッ。


 声を上げた商人が斬り伏せられた。


「「「ひっ!?」」」


 残りの商人たちが悲鳴を上げて間もなく、暗殺者はすれ違いざまに長剣を振るい、二人、三人と斬り伏せていく。

 ほんの一瞬の出来事だった。

 焚火の明かりが、飛び散った鮮血を照らし出す。


「……見境なしじゃな」


 あいつらはただ「目撃者」という理由だけで殺されたのだ。

 自分たちの姿を見られたから。ただそれだけの理由で。

 そこには躊躇いもなければ慈悲もない。


「……気に食わんのう」


 吐き捨てるように呟く。


 極道の世界でも抗争はあるが、堅気には手を出さんのが最低限の仁義じゃ。

 関係のない一般人を巻き込み、虫けらのように殺す。

 それは外道のやることじゃ。


 この国の闇は、思った以上に深いらしい。



 ◇



 幸いなことに、森の中の射手たちは徒歩だったようだ。

 馬の速度にはついてこれず、気配が遠ざかっていく。

 だが、黒い騎馬の暗殺者だけは食らいついて離れない。


 ついに、馬体が並んだ。


 シュッ。


 暗殺者が叫びもせず、無言のまま長剣を振り下ろす。


「うおおおおおおッ!」


 パンクが叫び、鉈でそれを受ける。

 ガギィン!

 重い金属音が夜の森に響き渡る。


 並走する二頭の馬。

 その上で繰り広げられる死闘。

 火花が散り、互いの顔が照らし出される。

 フードの奥にある暗殺者の目は感情のない硝子玉のようだった。


「くっ……!」


 パンクが呻く。

 一合打ち合うたびにパンクの体勢が崩されていく。

 明らかに相手の方が格上だ。


 避けきれない。

 ワシがそう思った瞬間、パンクは常軌を逸した行動に出た。



 避けるのをやめたのだ。


 ズプッ。


 パンクは鉈で相手の剣の勢いを殺したが、あえて弾かない。

 そして、その剣はパンクの左肩に突き刺さった。


「捕まえたぞ……!」


 パンクは脂汗を流しながらニヤリと笑った。

 自らの筋肉で剣を締め付け、相手の動きを封じたのだ。


「俺は死んでも構わねえが、姫様には指一本触れさせねえ!」


 暗殺者の目に初めて動揺の色が走った。

 その思考の空白を見逃すパンクではない。


「降りろやオラァッ!」


 パンクは刺さった剣ごと相手の腕を掴み、馬から引きずり下ろした。

 もつれ合うようにして、二人は地面へと転がり落ちる。


「パンク!」


 ワシの声に反応するようにシロが急停止した。

 ワシは馬から飛び降り、二人が落ちた場所へと駆け寄る。


 地面では泥まみれになりながらの取っ組み合いが続いていた。

 だが、やはり分が悪い。

 暗殺者は落馬の衝撃を受け身で殺していたらしく、すぐに体勢を立て直していた。

 対するパンクは肩に深手を負っている。


 暗殺者が懐から短剣を抜き、パンクの上に馬乗りになった。

 その切っ先がパンクの喉元に振り下ろされようとした、その時。


「おらああぁッ!」


 ゴッ!

 鈍い音が響いた。


 ワシは道端に落ちていた手ごろな岩を、背後から暗殺者の後頭部に全力で叩きつけていた。


「がっ……!?」


 さすがの暗殺者も、護衛対象である幼女が背後から殴りかかってくるとは予想していなかったのだろう。

 脳を揺らされたのか、一瞬動きが止まる。


 だが、その反応は速かった。

 奴は反射的に裏拳を繰り出した。


 バキッ!


 五歳児の軽い体は為す術もなく吹き飛ばされ、近くの古木に叩きつけられた。

 背中に走る激痛。

 額からタラリと熱いものが流れ落ち、視界を赤く染めた。


 だが、ワシは意識を飛ばさなかった。

 むしろ痛みで頭が冴えわたる。


 馬じゃ!

 後ろからは弓兵が来ているかもしれん。

 こいつを()っても、馬が手元になければこれ以上先には進めん!


 ワシは指を口にくわえた。


 ピーーーッ!!


 鋭い指笛が夜の森に響き渡った。



 ワシに殴られて怯み、ワシを殴り返して体勢を崩していた暗殺者。

 その隙をパンクは見逃さなかった。


「うおおおおおおッ!」


 パンクは暗殺者の胸倉を掴み、火事場の馬鹿力で放り投げた。


「なっ!?」


 宙を舞う暗殺者。

 その落下地点に、白い影が猛然と突っ込んできた。


 シロだ。

 ワシの指笛を合図に、主を守るべく全力疾走してきたのだ。


 ドカッ!


 重い衝撃音。

 空中で馬体に跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられたところを、さらに鉄の蹄が踏み抜いた。


「が、はっ……」


 暗殺者は痙攣した後、動かなくなった。


「……ナイスじゃ、シロ」


 ワシは木にもたれかかったまま、荒い息をつくシロに親指を立てた。


「姫様!」


 パンクが腕を押さえながら駆け寄ってきた。

 そしてワシを抱えると、シロに飛び乗って再び走り出した。



 ◇



 しばらく走り、追手の気配が完全に消えたところで小休止を取った。

 パンクの傷の手当てをするためだ。


 ワシは自分のドレスの裾をビリビリと引き裂き、包帯代わりにする。


「……いてて」

「我慢せい。血は止まったようじゃが、無理はできんぞ」


 傷口を強く縛り上げると、パンクが顔をしかめた。

 幸い、筋肉の厚い部分で剣が止まっていたため、骨までは達していないようだ。

 とはいえ、かなりの出血量だ。


「姫様も……大丈夫ですか?」


 パンクがワシの額の傷を気遣う。

 血は固まり始めているが、殴られた頬は青く腫れあがっているだろう。


「ふん」


 ワシは鼻を鳴らした。


「あの暗殺者の一撃より、初めて会った時にお前に殴られた時の方がよっぽど痛かったわ」

「……勘弁してくださいよ」


 パンクが苦笑する。

 そんな軽口を叩きながら、互いの無事を確認する。


 ワシは立ち上がり、シロの鼻先を撫でた。


「よう頑張ってくれた。あと少しじゃ」


 シロがブルルと鼻を鳴らし、ワシの頬に顔を擦り付けてくる。


「行くぞ。夜明けまでには帝都に着く」



 ◇



 そして、四日目の夕方。

 ついにナギナ帝国の帝都に到着した。


 ワシとパンクは血と泥にまみれ、ボロボロの格好をしている。

 だが、この街ではそんな恰好をしていても誰も気に留めない。


 それほどまでに、この帝都の貧民たちは荒んでいるらしい。


「……行くぞ」


 ワシらは人目を避けながら、帝城の正門へと向かった。


 巨大な城門の前には、きらびやかな鎧を着た衛兵たちが立っていた。

 その奥では今夜の夜会に向けて着飾った貴族たちの馬車が次々と吸い込まれていく。


 ワシらは馬を降り、正門へと近づいた。


「止まれ!何奴だ!」


 衛兵が槍を交差させて行く手を阻む。

 当然の反応だ。

 乞食のような風体の男と子供が、城に入ろうとしているのだから。


「オズ王国より参上しました。マフィ・オズです」


 ワシは懐から血と泥で少し汚れた招待状を取り出した。

 間違いなく本物の招待状だ。


「国王の名代として夜会に出席しに来ました」


 衛兵はワシの顔と招待状を交互に見た。

 そして、鼻で笑った。


「はっ!貧民が他国の王族を騙るとは、笑わせるな!」


 ……なんじゃと?


「招待状がある言うとるじゃろ。確認せんか」

「どうせ偽造だろう。あるいはどこかで盗んできたか」


 衛兵は招待状を手に取ろうともしない。

 ワシを見るその目は明らかに泳いでいた。


 ――なるほど。そういうことか。


 上から命令が出ているのだ。

『どのような者が来ようとも、オズ王国の者は通すな』と。


 衛兵もワシが本物かもしれないと薄々感づいている。

 だが、ここで通せば上の命令に背くことになる。

 だから「偽物だ」と決めつけ、門前払いにする腹積もりなのだ。


「……本当に招待された王族を通さなかったとあれば、お前もただじゃ済まんぞ。外交問題になる。それでもええんか?」


 ワシがドスを利かせて凄むと、衛兵は一瞬ひるんだ。

 だが、すぐに開き直ったように槍を突きつけてきた。


「くどい!貴様のような薄汚いガキが王女なわけがあるか!さっさと失せろ、斬り捨てるぞ!」


 取りつく島もない。

 パンクが怒りで一歩踏み出そうとするが、ワシは手で制した。


「……そうか。通さんか」


 ワシは招待状を懐にしまった。


 ここで暴れて強行突破するのは簡単だ。

 だが、それでは「暴漢が押し入ろうとしたので排除した」という口実を与えてしまう。



 ――どこまでもふざけたやつらじゃ。卑怯な真似ばかりしよって。



 この落とし前は、必ずつけさせてやるけぇの……。



「行くぞ、パンク」

「え?いいんですか、姫様」


「正面から入れんのなら、別の手を使うまでじゃ」


 ワシは城門に背を向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんともかんとも、度し難い奴等で···呆 でもこれ、自分の国の出した国書の存在を知らない、他国の王女の顔知らない、しかも国賓途中襲われて、そもそもが日数の計算も出来ないおバカの国な訳で··· そこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ