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【第一部完】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里
第一部 魔王討伐編

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31. なんか面白いこと言え


 さて、道中はトラブルの連続……ということはなく、二日目までは拍子抜けするほど順調だった。

 それには見た目が功を奏していただろう。


 ワシはドレスの上からボロボロのフード付き外套をすっぽりと被っている。

 本来なら帝都に着いてから着替えるべきだが、荷物を増やせばそれだけ馬の負担になるし足も遅くなる。

 ドレスの皺なぞ気にしていられん。夜会に間に合わせることが最優先じゃ。


 結果、はたから見れば「ガラの悪い男と、薄汚い布を被った子供」という組み合わせだ。

 ドレスは外套で隠れているため、金目の物を持っていそうには見えない。その上、その怪しい組み合わせに声をかけようとも思わない。

 山賊や強盗にとっても、襲うだけ時間の無駄に見えたことだろう。

 誰にも止められずに、ワシらはただひたすらに街道を走り続けた。



 日が落ちると、街道を少し外れた森で野営をした。

 ここでもパンクの働きぶりは見事だった。


「へへ、前線では食料調達もしなきゃいけませんでしたからね!野宿は慣れたもんですよ!」


 そう言って手際よく火を起こし、干し肉と携帯食料を温める。

 枯れ枝を集めて簡易的な風よけを作る手際も手慣れている。

 パンクのおかげで、この強行軍にあっても最低限の休息は確保できていた。



 ◇



 だが、あまりにも何事もなさ過ぎるのも考え物だ。

 景色はずっと変わらない森と平原。馬の揺れにも慣れてくるとやることがない。


 ワシは暇つぶしとして背後のパンクに話しかけた。


「おい、暇じゃ。なんか面白いこと言え」


 前世でワシが若い衆にこれを言った時は、全員が青ざめて直立不動になったものだが。

 パンクも御多分に漏れず、素っ頓狂な声を上げた。


「えぇ!?」

「聞こえんかったんか。面白いこと言えって言うとんじゃ!退屈で死にそうなんじゃワシは!」

「そんな急に言われても……」


 パンクは困惑しながらしばらく唸っていたが、やがて絞り出すように口を開いた。


「そうっすね……昔、ガキの頃に捨て犬を拾って可愛がってたんすよ。俺の唯一の友達で」

「おお、可愛いことしよるのう」


 ゴロツキにもそんなピュアな時代があったとはのう。


「でもある日、家に帰ったらいなくなってて、代わりに親父が何かの肉の骨をしゃぶってて……」


「重い上に、まったくおもんないんじゃ!」


 ワシは思わずパンクの腕をバシッと叩いた。

 笑えるかそんなもん!ただのトラウマじゃろうが!


「す、すみません!じゃあ、親父の話で別のやつを……」


 パンクは名誉挽回とばかりに次の話を始めた。


「そんな親父もかくれんぼは上手かったんですよ」

「ほう、遊んでもらった記憶もあるんじゃのう」

「へへ、俺が七つの時に『隠れるぞー』って家を出て行ってから、二十年経った今でもまだ見つかってねぇんです。凄腕でしょ?」


「だから重いんじゃ!それは『蒸発』言うんじゃ!」


 まったく、これだからゴロツキ崩れの話は……。

 笑いのセンスがブラックすぎて胃もたれしそうだ。



 面白い話をせがまれ、罵倒されてはたまらない。

 そう思ったのか、パンクの方から話題を変えてきた。


「そういや、この馬なんて名前なんすか?」

「ポニーナが『シルフィード』とか言うとったが、言いにくいけぇ『シロ』でええわ」


 白銀の毛並みを持つこの馬には、その方が似合っとる。

 それに、シルフィードなどという気取った名前より、シロの方が呼びやすくて親しみが持てる。


「ホルシアの名馬に『シロ』て……」


 パンクが呆れたような声を出す。

 生意気なやつじゃ。


「お前もホルシアの馬を支給されとったのう。あの馬の名前は何じゃ。さぞカッコいい名前なんじゃろ」


 パンクは「待ってました」とばかりに胸を張った。


「『ミッドナイトサンダー』っす」


 確かに漆黒の馬体だったが……中学生みたいな名前つけおって。


「……『クロ』じゃな」


「やめてくださいよ!せっかくカッコいい名前なのに!」


 そんなくだらない会話を延々と繰り返しながら、ワシらは距離を稼いでいった。

 まるで遠足のような気楽さすら漂っていた。



 だが、それもここまでだ。



 ◇



 三日目の夕方。

 ついにナギナ帝国の帝都を目前にした場所で、大きな関所が見えてきた。

 ここを通らねば帝都には入れない。


 関所には十人ほどの兵士が詰めていた。

 ナギナ帝国の兵装だ。質は良さそうだが、着ている中身が伴っていない。

 あくびを噛み殺している者、木陰でサイコロ賭博に興じている者。

 緊張感の欠片もない。


「……止まれ!」


 ワシらが近づくと、賭けをしていた兵士の一人が面倒くさそうに立ち上がった。

 パンクが手綱を引き、馬の足を止める。

 そして卑屈な笑みを浮かべながら懐から金貨を数枚取り出し、そっと差し出した。


 帝国の関所は通行料を払うだけで一般の旅人は通れるはずだ。

 兵士は金貨を確認すると無造作にポケットに突っ込んだ。


「……後ろの子供は?」


 兵士の視線がフードを被ったワシに向けられる。

 鋭い目つきではない。単なる値踏みするような目だ。


「俺の娘です。田舎から帝都の親戚を頼って出てきましてね」


 パンクが即座に答える。

 呼吸をするように嘘をつく。さすがは元ゴロツキだ。


 兵士は鼻を鳴らし、ワシを一瞥しただけで興味を失ったようだった。


「よし、行っていいぞ」


 シッシッ、と手を振る。


 ……上出来じゃ。

 そう思った、その瞬間だった。


 関所の建物の陰で休憩していた別の兵士と、ふと目が合った。


 その兵士の目が、カッ!と見開かれた。

 ワシの顔を見て明らかに動揺したのが分かった。


「なっ!!」


 そいつは短く息を呑むと、慌てた様子で建物の裏へと引っ込んでいく。


 ――気づかれたか。


 おそらく、関所にはオズ王族の人相書きか似顔絵でも回っていたのだろう。

「もしここを通るようなら報告せよ」と。


 ナギナ帝国の上層部も馬鹿ではない。

 万が一の可能性を潰すために、網を張っていたということか。


 パンクは気づいていない。

 安堵した顔で馬を歩かせようとしている。

 ワシはパンクの背中に顔を寄せ、低い声で耳打ちした。


「おい、パンク」

「上手くいきましたね」

「さっき奥の兵士がワシの顔を見て血相変えて引っ込んでった」


 パンクはハッとした顔で振り返ろうとするが、ワシはその脇腹をつねって制した。


「振り返るな。気づいてないフリをして、今のうちに距離を稼ぐんじゃ」


 あの兵士は今ごろ早馬か伝書鳩の準備でもしているのだろう。

 あるいは先回りの部隊に合図を送っているのかもしれない。


 ここから帝都まではあと少し。

 だが、その「あと少し」が勝負どころとなりそうだ。


 ワシはフードを深く被りなおした。


「ここからが本番じゃ。気を引き締めい」


 パンクが無言で頷き、手綱を握る手に力を込めた。

 シロが(いなな)き、再び速度を上げる。


 退屈な遠足は終わった。歓迎の準備をして待っとるようじゃ。



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― 新着の感想 ―
パンクの親父ネタおもろかったよ?特にかくれんぼの話。
「ミッドナイトサンダー」からの 「クロ」  てことは答え、 「チョコレート?」 アレ好き、アイスのも良い!  大喜利か!
漫才かな?
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