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【第一部完】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里
第一部 魔王討伐編

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26. その覚悟に、ついてこれるか?


 競馬場の立ち上げもひと段落した頃。

 客がレースの行方に一喜一憂する様子を、ワシとホルシア王が貴賓室から眺めて茶を飲んでいると……。


 バタン!


 血相を変えた文官が飛び込んできた。


「大変です!陛下!」

「どうした、騒々しい」


 ホルシア王が眉をひそめると、文官は一枚の報告書を差し出した。


「ここ数日、競馬場の売り上げが急激に落ち込んでおります!」

「なんだと?」


 ホルシア王が素っ頓狂な声を上げた。


 ワシも片眉を上げる。

 客足は衰えていない。熱気も十分だ。


 なのになぜ、売り上げが落ちる?


「なぜだ?客は入っているではないか」

「はい。ですが……どうやら、場内で馬券を買わずにレースを見ている者が増えているようで……」


 文官は言い淀みながら続けた。


「なんでも、国のいたるところで『非公式』で賭けの取り次ぎをする商人が相次いでいるようなのです」


 その話を聞いた瞬間、ワシは思わずニヤリと笑ってしまった。



 『ノミ屋』か!

 非公式取次商人――通称『ノミ屋』

 ワシが思うより早う現れたのう!


 賭場が開けば必ず湧いて出る。それがノミ屋だ。



「取り次ぎだと!?どういうことだ?」


 意味が分からないといった様子のホルシア王が文官に詰め寄る。


「商人が客から賭け金を預かるのですが……実際には正規の窓口で馬券を買わず、その金を自分の懐に入れているようなのです」

「それでは客が損をしないか?」

「それが……的中した場合は、正規の馬券と同額を払い戻しているのです」


 そう、ノミ屋は馬券を買わない。


 客から預かった金を懐に入れる。客が外れればその金は丸儲け。

 客が当てた時だけ懐から払えばいい。

 競馬は全員が勝つわけではない。負ける奴の方が圧倒的に多い。

 トータルで見れば、ノミ屋は胴元である競馬場と同じ比率で儲かる仕組みだ。


 それに、客からしてもメリットはある。

 わざわざ混雑した競馬場の窓口に並ばなくても、酒場や裏路地で顔なじみの商人に金を渡すだけで賭けができる。

 ツケ払いを認めるノミ屋もいるだろう。



 ――懐かしいのう。

 前世でもノミ屋はええシノギになっとった。

 客からしても便利だから無くならんのじゃ。


「なんてことだ……。国に入るはずの収益が、その商人たちに横取りされているというのか!」


 ホルシア王が青ざめる。

 競馬の収益はこの国の生命線だ。


「調査によりますと……ナリキニア連合国から流れてきた商人たちが組織的に関与しているようです」


 ナリキニア連合国。

 先日、名馬を買い叩こうとしていた国か。


「そうか、あの国は商人が寄り集まってできた国。商売になると思って我が国に来たのか!」


 ホルシア王は悔しそうに拳を握りしめた。



 ……まあ、それだけではないだろう。

 あいつらは、もう少しでこの国の名馬を二束三文で手に入れられるところだった。

 それをワシの入れ知恵で邪魔されたんじゃ。腹の虫が収まらんのじゃろう。


 ノミ屋で小銭を稼ぎつつ、ホルシア王国の財政を圧迫する嫌がらせ。

 一石二鳥というわけか。


「すべてを摘発するには数が多すぎる。それに、いたちごっこだ。すぐに真似をする商人が出てくるだろう……」


 頭を抱えるホルシア王と文官。

 法で禁止したところで地下に潜るだけだ。目に見えなくなれば、余計にタチが悪くなる。




 絶望的な空気が流れる中、ワシはパン、と手を叩いた。


「まぁ、落ち着きんさい」


「マフィ王女……?」


 ワシは椅子から飛び降り、二人の前に仁王立ちした。

 フリルのスカートを揺らしながら笑う。



「何をされたらノミ屋が困るかなんて、ワシよりも分かっとる人間はこの世におらんけぇ」


「の、のみや……?」



 ◇



 翌日。

 ワシはホルシア王に新たな法令を発布させた。


 それは『闇取次の禁止令』だけではない。

 真逆の法令も作らせた。


「取り次ぎ業務の合法化……だと?」


 ワシが定めたルールはこうだ。

 審査をパスした業者に保証金を積ませ、『公認場外発売所』のライセンスを与える。

 国公認の看板を掲げて堂々と商売することを許可し、売り上げの一部を手数料として国に納めさせる。


「取次業務を認めるのですか!?」


 文官は驚いていたが、ワシは鼻で笑った。


「毒を以て毒を制すんじゃ。地下でやられるぐらいなら、表に引きずり出して管理した方がマシじゃ!」


 そして、ここからがワシの本領発揮だ。


「さあ、掃除の時間じゃ」


 ワシは腕っぷしの強い警備兵を集めさせた。

 狙うは公認ライセンスを取らずにコソコソと営業を続ける、ナリキニア系のノミ屋だ。


「違法な取次の摘発は、人が多くて儲かってそうな商人だけで充分じゃ!」


 王都の酒場、裏路地の賭場。

 次々と警備兵たちが踏み込む。

 ナリキニアの商人たちは金を持って逃げようとするが、ことごとく捕縛された。


「ついでに、その場におる客も捕縛せい!」

「きゃ、客もですか?」

「おうよ!数時間たっぷりと説教して、持っとる掛け金も全額没収じゃ!」



 これが効く。

 ノミ屋にとって一番怖いのは摘発ではない。

 客が離れることだ。



 客にしてみれば、少し便利なだけでリスクは負いたくない。

「あそこで馬券を取引すると、兵士に捕まって金を巻き上げられるらしいぞ」

 そんな噂が広まれば、誰も寄り付かなくなる。


 さらにワシは摘発した空き地に、すかさず『公認場外発売所』を設置させた。


 客はどう動くか?

 逮捕されるリスクのある怪しいノミ屋よりも、堂々と入れて、しかも払い戻しが国に保証されている公認発売所を選ぶに決まっている。


 こうして、ナリキニア系商人たちの「客」は、そっくりそのままホルシア王国の「公認客」へと塗り替えられたのだ。



 さらに、皮肉な結果も生まれた。


 ナリキニアの商人たちは暇つぶしに競馬場へ足を運ぶうちに……。


「差せぇぇ!」


 いつの間にか、彼ら自身が競馬の虜になっていたのだ。


 商人の性分というのはギャンブルと相性がいい。

 リスクを負って利益を得る快感。読みが当たった時の高揚感。

 彼らは商売で培った勘と度胸を、今度は馬券に注ぎ込み始めた。


 やがて、多くの商人がホルシアに移住を決めた。

「競馬のない国なんて住めない」と言って。


 多くの行商を抱えることで成り立っていたナリキニア連合国は、その経済の血液である商人をホルシアに吸い取られて急速に影響力を失っていった。


 数年後、ナリキニア連合国が自然消滅し、ホルシア王国に吸収されることになるのは、また別の話だ。



 ◇



 ノミ屋の摘発もひと段落し、王都に平穏が戻った頃。

 ワシはホルシア王から応接室に招かれていた。


 上等な茶器に注がれた紅茶からは、芳醇な香りが漂っている。


「マフィ王女のおかげでもう懸念もない。競馬場は完全に軌道に乗った。感謝する」


 ホルシア王が穏やかな笑顔で言った。

 だが、その顔がふと曇る。


「競馬場の提案も迅速で最適なものであった。さらに、とても手慣れた様子でノミ屋を摘発してくれた」


 王はそこで言葉を切り、じっとワシの顔を見つめた。

 その瞳には感謝だけでなく、ある種の畏怖が混じっているように見えた。


「……とても幼子の提案とは思えない。まるで裏社会の仕組みを熟知しているかのようだ」


 王の声がわずかに震える。



「本当に、六歳の幼い王女なのか……?」



 ――ふむ。少し、張り切って手を貸しすぎたか。


 ホルシア王は人が良く、ついつい助力に力を入れてしまった。

 これが、ホルシア王が王たる所以かもしれん。

 人を信じ、任せることで相手の本質を引き出す。


 だが――。


 ワシの今回の目的はホルシアの立て直しではない。

 ワシはワシで、オズ王国の利となるように動く必要もある。


 一瞬考えた後、ワシは決断した。

 あえて猫被りの笑みではなく、いつも通りの気迫を出しながら言う。


 本物の極道の気迫を(まと)って。



「……ワシが幼子かどうかは、ホルシア王に関係あるんか?」



 部屋の空気が凍り付いた。

 ゴクリ、とホルシア王が唾を飲み込む音が聞こえる。


 六歳の少女から不釣り合いにも放たれる、歴戦の猛者すら圧倒する殺気。


 だが王は目を逸らさなかった。


「ワシは人類の敵である魔王軍を根絶やしにする。……できんと思うか?」


 ワシは王を射抜くように見据える。


「いや……」


 王は掠れた声で答えた。


「マフィ王女ならば、やってしまうのだろうな。そう信じられる『何か』がある」


 得体が知れん。化け物かもしれん。

 そういう顔をしている。

 だが同時に、その瞳にはどこかワシを認めるような光も宿っていた。


「恩を返せとは言わん。だが、ワシは人類の勝利のために動いとる」


 ワシは立ち上がった。



「その覚悟に、ついてこれるか?」



 ホルシア王の額に冷や汗が伝う。

 しばらくの沈黙。


 やがて、ホルシア王は椅子から立ち上がり――そして、ゆっくりとその場に膝をついた。


「……魔王軍がいる限り、民に真の安寧はない」


 王は胸に手を当て、深く頭を垂れた。


「君がそれを終わらせてくれるなら、王の矜持など惜しくはない」


 その態度は、対等な同盟国のそれではなかった。

 任侠の世界で子が親に盃を受け、生涯の忠誠を誓う――その覚悟を決めた瞬間の態度だった。


 ――ええ覚悟じゃ。


 これでこの王もワシの「家族」じゃ。

 ならば、死ぬ気で守ってやるのが親の務めというもんじゃろう。


 顔を上げたホルシア王の目には、もはや迷いはなかった。



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― 新着の感想 ―
モノホン任侠親分にガンつけられた国王陛下··· は、とにかくミイラとりがミイラになった。 なんか違うけど、しっくり来たことわざ。  自分でも何でだと思っているけど、アコギな真似してホルシア国盗ったろ…
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