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【第一部完】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里
第一部 魔王討伐編

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21. お前はどうすべきだと思うんか


 二日目の朝。


 ワシは再びブレントと()()()()()()名目で、共和国の首都を案内されることになった。

 護衛の騎士を数名連れ、馬車で街を回る。


 ワシは窓の外に広がる光景に改めて感心した。

 石畳の大通りには人が溢れ、露店が軒を連ねている。

 農業大国というだけあって飲食店の数も段違いに多い。


 焼き立てのパンの匂い、肉を焼く煙。

 腹が満たされている国は街の空気そのものが違う。


 隣に座るブレントは、昨日とは打って変わって言葉少なだった。

 時折、こちらをチラチラと窺うような視線を送ってくるが、目が合うとすぐに逸らす。


 ――だいぶ効いとるようじゃの。


 タマを握り潰されかけたのだ。トラウマになっていてもおかしくはない。


 昼食にと案内されたのは、首都でも一、二を争うという高級レストランだった。

 明らかに歓待用に奮発している。


 運ばれてきた料理を一口食べて、ワシは目を見張った。

 肉の質が違う。野菜の鮮度が違う。

 王国の宮廷料理と比べても、二段階か三段階は上等な食材が使われている。


「……なかなかに美味いのう」


 思わず本音が漏れた。


 ブレントが少しだけ嬉しそうな顔をしたが、すぐに引き締めた。

 まだ警戒しているらしい。

 ワシはナイフとフォークを置き、向かいに座るブレントを見据えた。


「さて、働いてもらうと言うたがのう、肉体労働をしてほしいわけじゃない」


 ブレントがビクリと肩を震わせた。


「少し情報を集めてほしいんじゃ」

「じょ、情報……?」


 恐る恐る、といった様子でブレントが首をかしげる。


「まずは現状の確認じゃ。ヒョーラント共和国から王国へ受けとる支援は主に食料で間違いないか?」


 ブレントは少し考えてから答えた。


「ああ……そうだ。こちらでは主に兵糧となっていると聞く。毎年の収穫量の1割程度を支援として渡しているはずだ」


 ――待て。

 ワシは内心で眉をひそめた。


 1割と言ったか?


 事前に調べた資料を思い出す。

 地図で見た農地の広さや気候、土壌の質。

 それらから大体の収穫量は推測できる。


 王国に届いている支援はせいぜいその10分の1……つまり収穫量の100分の1といったところだ。


 多少の中抜きがあるというレベルではない。

 桁が一つ違う。


 しかも、ヒョーラント共和国は農業大国。

 王国が予想しているよりも、さらに効率よく作物を収穫しているに違いない。

 実際の収穫量は予想を上回っている可能性が高い。



 ――こりゃあ、予想以上に腐っとるかもしれん。



 ワシは表情を変えずに次の質問を投げた。


「支援物資の輸送手配などはどのように行われとるんじゃ?」

「基本的にはポーク大臣が仕切っているが……」

「そうか」


 ワシは頷いた。


「ならば支援物資の流れを記録や帳簿から追いかけつつ、そのポークとかいうやつに数日間張り付け」

「え……?」


 ブレントが目を丸くした。


「帳簿をワシに見せてくれとまでは言わん。何か支援物資の流通におかしなところがあれば、教えてくれ」


 そう言うと、ブレントは曖昧に頷いた。

 このガキにどの程度のことができるか分からない。

 だが大臣の動向を探るには外部の人間であるワシよりも、身内である大統領の息子の方が動きやすいのは確かだ。

 有益な情報が得られれば御の字といったところだろう。




 食事を終え、再び街の案内が続いた。

 市場を歩いて広場を見物する。

 その間、ブレントは妙にそわそわしていた。


「と、ところで」


 不意にブレントが口を開いた。


「マフィ王女に好きなものとかないのか?」

「あ?」


 ワシは怪訝な顔をした。

 ブレントは慌てて付け足す。


「ひょ、ヒョーラントは農業大国だ。ぜひとも今後の歓待の参考にさせてもらえないかと思って」


 なんだ、昨日コテンパンにしたからホスト役として真面目に案内する気になったか?

 ワシは少し考えてから答えた。


「そうじゃのう……強いて言えば米が好きか?」

「米は……南の方で少し収穫されるだけだな」


 ブレントは残念そうに首を振った。


「他には、宝飾や服飾はどうだ?」

「石っころにはあまり興味ないの。服はまあ、舐められん程度のものがあれば十分じゃ」


 そんな適当な会話をしながら、その日は一日を過ごした。



 ◇



 それから数日、ブレントには情報を探らせた。


 ワシは国王と共に挨拶や会食に駆り出される日々が続いた。

 共和国の議員たち、有力な商人たち、軍の幹部たち。


 次から次へと現れる人間の顔と名前を覚えるだけでも一苦労だ。

 だが、特に問題も起こらず無難に過ごした。

 父との約束を守り、王女らしく振る舞うことに徹した。




 そして、およそ挨拶も一通り済んだ五日目の夕方。

 交流を深める名目で、再びブレントと応接室で会うことになった。


 部屋に入った瞬間、ワシは異変に気づいた。


 ブレントの顔が暗い。

 初日に見せていた傲慢さとも違う。

 何かに打ちのめされたような、そんな表情だった。


「どうした?死人が出たようなツラしとるのう」


 ワシがソファに座りながら尋ねると、ブレントは重い口を開いた。


「……マフィ王女に言われた通り、支援物資の帳簿を見てみたんだ」


 彼の声は震えていた。


「すると、明らかに送られている支援の量と荷馬車の台数がかみ合わないと思った」


 ワシは黙って続きを促した。


「そして、ポーク大臣の情報を集めているうちに、本人が立ち話をしているのを聞いてしまった」


 ブレントの拳がぎゅっと握りしめられた。


「『不作だと王国には伝えているが、本当は道中で倉庫に溜め込んでいる』と」


 予想通りだ。


「『支援を減らした分、オズ王国は市場から買うしかない。その売り手がうちの息のかかった商人で、オズ王国への輸出で大きく儲けている』と」


 ブレントの声が震えていた。


「『戦争が長引けばもっと儲かる』と……談笑していたんだ」


 ブレントはそこで言葉を切る。

 十歳の子供にとって、自国の汚い裏側を知ることは衝撃だったのだろう。


 ワシに言わせれば典型的な戦争特需というやつだ。

 それに、数字が合わん時点で何かしらの不正があるとは思っていたが、ここまで堂々とやっとるとはな。


 だからこそ、怒りよりも先に冷静な計算が頭を巡った。


「無警戒に重要な話をしていたのう」

「大人たちは僕のことなど眼中にないから、平気で話すんだ」


 ブレントはそう言って、うなだれた。

 自国の大臣が同盟国を食い物にしている。

 その現実を突きつけられて、受け止めきれないのだろう。



 ワシは腕を組み、考えを巡らせた。


 しかし、ワシがこの証拠を持ってそのことを糾弾してどうなる?

 ブレントが先日言っていたように、『乞食の国』と馬鹿にする人間がいる。

 そんな中で「大臣がピンハネしています、証拠はありません」と訴える?

 六歳の王女が?

 そんなに王国は困窮しているのかと、馬鹿にされるだけだ。


 どうすべきか……。



 ワシはブレントに向き直った。


「ブレント」


 名前を呼ぶと、彼はビクリと肩を震わせて顔を上げた。

 その目には涙が滲んでいる。


「お前はこの状態をどう思うんじゃ?」


 ワシは静かに問いかけた。


「その行いは、お前が誇っていた『大国』として矜持ある行いだと思うんか?」


 ブレントは視線を彷徨わせた。


「そ、それは……」


「恥ずかしいとは思わんのか?」


 ワシの言葉に、ブレントが押し黙る。


「隣国が命懸けで戦っとる時に、後ろで舌を出して金を巻き上げる。それがお前の国のやり方か?」


 ブレントは唇を噛みしめ、再び俯いた。

 その肩が小刻みに震えている。



「お前はどうすべきだと思うんか?よう考えて行動せい」



 ブレントは黙ったままだ。


 ――サイコロは振った。出る目はお前次第じゃ。



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― 新着の感想 ―
こりゃ王都も結構腐っとんやないか?
ポーク大臣=豚か? 本来豚は綺麗好きだというのに、こういう奴がいるから二次被害にあってるんだよねー。体脂肪もこういうのの多分半分しかないと思う。 ·····10才と6才··· これはもしかするとも…
「マフィ王女に好きなものとかないのか?」 「あ?」 この即答大好きです♪
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