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【第一部完】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里
第一部 魔王討伐編

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20. どっぷりと沼にハマれ


「丁か半か!」


 二つのサイコロが伏せられたコップの中に収まった。


 向かいに座るブレントの額には脂汗が滲み、穴が開くほどコップを睨みつけている。


 しばしの沈黙。

 部屋の空気が張り詰める。


 ブレントが震える唇を開いた。


「……半!」


「勝負!」


 ワシはコップを勢いよく開けた。


 中から現れたのは、二と二のゾロ目。

 合計は四。


「二ゾロの丁!」

「馬鹿な、なぜだ!なぜこの単純なゲームで負けが続く!」


 ブレントがテーブルを叩いて絶叫した。

 ワシはニヤリと笑いながら、テーブルの中央に積まれたコインを自分の手元へとかき集める。


「いやぁ、ぼっちゃん。これで文無しじゃ!」


 さきほどまでブレントの前に積み上げられていた小遣いの山は、今やすべてワシの目の前にある。

 ブレントは信じられないものを見る目で、空になった自分の手元を見つめていた。




 ワシはサイコロを弄びながら、内心でほくそ笑んだ。


 ――いやぁ、ええカモじゃの!


 サイコロの投げ方は前世でおおよそ極めている。

 自在に狙った出目を出すことなど造作もない。

 伊達に賭場を仕切っていたわけではないのだ。


 だが、ただ勝てばいいというものではない。

 賭け事の極意は、相手を生かさず殺さず、骨の髄までしゃぶり尽くすことにある。


 相手の呼吸、視線の動き、微細な表情筋の揺らぎ。

 そこから「次はどちらに賭けようとしているか」を読み取る。

 そしてあえて勝たせ、大きく賭けた時に負けさせる。


「くそっ……次だ、次は勝てるはずだ!」


 ブレントが血走った目で呟く。


 そう、ここが肝心だ。

「あと少しで負けを取り返せる」「流れが来ている」と錯覚させる。


 ブレントは徐々に負けを取り戻そうと、掛け金を倍々にして増やしていった。

 まさに賭け事で身を滅ぼす典型のような動きだ。


「お?これで賭けるもんがなくなったの?」


 ワシはわざとらしく残念そうな顔を作ってみせた。

 手元のコインをジャラジャラと鳴らす。


「せっかく盛り上がってきたのに()()もこれで終わりか?残念じゃの!」


 ワシが席を立とうとすると、予想通りブレントが食いついてきた。


「待て!」

「なんじゃ?もう賭ける銭はないんじゃろ?」

「金ならある!あとで父上に言えばいくらでも……」

「ツケは利かん。この場にあるもんだけじゃ」


 ワシは冷たく突き放した。

 焦燥感に駆られたブレントの視線が、部屋の中を彷徨う。

 そして、自分の背後に控えていた護衛騎士に止まった。


「おい、お前の剣をちょっと貸せ!」

「ブレント様!?」


 護衛騎士が素っ頓狂な声を上げた。


「すぐに返す!勝ったら返ってくるから大丈夫だ!」

「し、しかしこれは国から支給された装備で……!」

「うるさい!負けてもあとで同じものを支給するように父上に頼むから、早くよこせ!」


 ブレントは半狂乱で騎士の腰から剣を奪い取ると、それをテーブルの上に叩きつけた。


「これでどうだ!」


 ドガン、と重い音が響く。

 装飾が施された剣。なかなかいい値がつきそうだ。


「まあええじゃろ。これならコイン十枚分といったところか」

「たったの十枚だと!?ふざけるな!」

「文句があるならやめてもええんじゃぞ?」

「くっ、いいだろう。やってやる!」



 そうじゃ、それでええ。

 どっぷりと沼にハマれ。



「それじゃあ、ゲームも変えようかの!!」


 ワシはサイコロを三つに増やした。


 チンチロリン。

 さらにレートの高い勝負だ。



 ◇



 一時間後。

 そこには無残な光景が広がっていた。


「おら、ピンゾロじゃ!五倍付けじゃの!」

「そんな馬鹿な!」


 ブレントの絶叫が部屋に響き渡る。


 彼の背後にいた護衛騎士たちは、剣はおろかブーツに至るまで身ぐるみを剥がされた。

 肌着一枚で立ち尽くしている。


 そして、ブレント自身の上等なジャケットはワシの椅子に掛けられている。

 残るはシャツとズボンだけ。

 貧相な姿になった大統領の息子がガタガタと震えていた。


「さあ、掛け金の五倍じゃ!これはもう支払えんなぁ!」


 ワシはテーブルの上の戦利品を指差した。

 もはやブレントが賭けられるものはない。


「待ってくれ……もう賭けるものは……」

「ないなら体で払うしかないのう!」


 ワシは底冷えする声で言った。

 前世ならタコ部屋送りかマグロ漁船行きが決まる場面だ。


 ブレントの顔から血の気が完全に引いた。

 追い詰められたネズミは、恐怖のあまり理性を失った。


「こ、こんなのイカサマだ!」


 ブレントが叫んだ。


「田舎者の猿が!僕が負け続けるなんてありえない!何か仕掛けをしているに決まっている!」


 彼はバンとテーブルを蹴り飛ばし、ワシに向かって掴みかかってきた。


「僕の物を返せ!」


 逆上して暴力に訴える。


「……見苦しいのう」


 ワシはため息をついた。


 ブレントが拳を振り上げて突っ込んでくる。


 十歳と六歳。

 体格差はあるが、動きが遅すぎる。

 喧嘩の場数を踏んでいない素人の動きだ。


 ワシはひらりと身をかわした。

 ブレントの拳が空を切る。

 勢い余ってつんのめるブレントの懐に、ワシは素早く潜り込んだ。

 狙うは急所。


 ガシッ。


 ワシの小さな手がブレントの股間にある二つの球体を鷲掴みにした。


「はうっ!」


 ブレントの口から情けない声が漏れた。

 ビクンと体を硬直させ、そのまま前かがみになる。


 ワシはその隙を逃さず、胸倉を掴んで引き寄せた。


「賭け事に負けて暴れるとは、性根の腐ったやつじゃ!」


 ドスの利いた怒声。

 そして同時に、握りしめた手にグッと力を込める。


「ふあぁッ!!」


 ブレントが悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。

 真っ青な顔をして丸まる。


 部屋にいたヒョーラント側の護衛騎士たちがハッとしたが、武器も鎧もない肌着姿。

 主人がやられたというのに、どう動けばいいのか分からず右往左往するばかりだ。



 ――まずい。ちょっとやりすぎたか?


 冷静になって、少し焦りが湧いてきた。

 外交の場で、相手は大統領の息子。

 タマを潰して再起不能にしてしまってはさすがに国際問題どころではない。戦争になる。


 ワシは恐る恐るブレントの様子を窺った。

 顔色は土色から青、そして赤へと目まぐるしく変わっている。

 涙目でこちらを見上げているが、意識はありそうだ。


 ……よかった。加減はできていたらしい。


 ワシは安堵のため息を密かについて、ソファに座り直した。

 そして足を組み、傲然と見下ろす。


「負けたなら潔く負けを認めい」


 ワシの声にブレントがビクリと震える。


「ワシのために少しばかり働け!それで払えん分はチャラにしてやる」


 ブレントは反発するかと思った。

 さっきまでの傲慢な態度を思えば、素直に従うとは思えなかった。

 だが、やつは赤い顔のまま震える声で答えた。


「は、はい……」


 勝てないと思ったのか、心が折れたのか。


 いずれにせよ、これで当初の目的は果たされた。


 ワシが欲しいのは金でも調度品でもない。

 こいつを使って、この国の内情を探る手がかりが欲しいのだ。

 大統領の息子という立場は情報源として申し分ない。




 大人たちの会合が終わり、今夜の宿泊場所である迎賓館へ移動することになった。

 ワシは父である国王と共に官邸の玄関を出た。

 その背後をワシの護衛騎士たちがついてくる。


 だが、その様子がおかしかった。


 護衛騎士たちの腕には山のような戦利品が抱えられていた。


 宝石のついた短剣、高価そうな壺。

 そしてヒョーラント共和国の紋章が入った騎士の鎧一式。


 まるで略奪の限りを尽くした盗賊団の帰還のような光景だ。


 国王がその光景を見て、一瞬唖然とした。


「……マフィ。それは何だ」

「ブレント様から友好の証に頂きました」


 ……賭け事で勝った品だから、ある意味では友好の証だろう。


 国王はこめかみを揉みながら、深いため息をついた。


「本当に……国際問題になるようなことは控えているのだな?」


 その時、ワシはさすがに王の顔をまともに見ることができなかった。

 視線を逸らし、夕焼け空を眺める。


「……ええ、まあ」



 ◇



 内心では、ブレントがベーコン大統領に言いつけるのではないかと少し心配していた。

 だが、翌日になっても特にお咎めはなかった。

 どうやらブレントは父親に泣きつくことを選ばなかったらしい。


 賭け事で負けて身ぐるみ剥がされ、挙句の果てに六歳の女の子に喧嘩でも負けて屈服した。

 そんな情けない話を、いくら父親相手でも言えなかったのだろう。



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― 新着の感想 ―
ブレントくん、小さな女の子に息子掴まれ悶えちゃったか。キュン(*•ω•)
賭け事はほどほどがいいのです…ほどほどが…。
(≧▽≦)姫様の立ち回り、毎回痺れます!! ブレント君は妙な性癖に目覚めちゃったりして!? 子分になりそうな予感⋯?(笑)
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