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【第一部完】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里
第一部 魔王討伐編

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13. そがいな生き方を『任侠』と言うんじゃ


 着替えさせられて椅子に座ると、目の前に湯気を立てる大皿が運ばれてきた。


「本日はシェフが腕によりをかけて朝食を準備いたしました!」


 甘ったるいパンケーキかと思っていたが、蓋を開けてみて少し驚いた。


 黄色い米料理だ。

 魚介類がたっぷりと乗っている。

 パエリアというやつに近い。


「王女様はご年齢の割に甘いお菓子がお好きではないようですから」


 給仕長の侍女が、にっこりと微笑んだ。


「以前、厨房で『米が食いたい』と仰っていたのを料理長が覚えておりまして。できる限り王女様のお口に合いそうなものをと」


 ……ほう。よう見とる。

 確かにワシはこの世界に来てからというもの米を求めていた。


 米。

 やはり日本人の魂は米じゃ。


 ワシはスプーンを手に取り、その黄色い飯を口に運んだ。

 魚介の出汁が米に染み込んでいる。


「……悪くないのう」


 本当なら熱々の白飯に豆腐とワカメの味噌汁、そして脂の乗った焼き鮭があれば最高なのだが。

 まあ、贅沢は言うまい。


 ワシが黙々と匙を進めていると、侍女たちが嬉しそうに囁き合っているのが聞こえた。


「王女様のおかげで王都の町も歩きやすくなりました」

「以前は市場へ行くのも少し怖かったですもの」

「侍女たちの間でも王女様の改革はすこぶる評判が良いのですよ」


 彼女たちの言葉に嘘やお世辞の色はなかった。


 純粋な感謝と敬愛。

 それが伝わってきて、ワシはスプーンを止めた。


 ――ワシはただ自分のシマを整えただけじゃ。

 だが、その結果としてこいつらが笑って暮らせるようになったのなら、まあ、それも悪くはないか。


 ワシは込み上げてくる感情をごまかすように、水を一気に飲み干した。



 ◇



 食事を終えた頃、扉が開いて国王と妃殿下が姿を現した。


「マフィ、誕生日おめでとう」


 国王が穏やかな笑みを浮かべ、その隣で妃殿下が何やら大きな包みを抱えていた。


「侍女たちから、マフィは『リュウ』や『トラ』という生き物が好きだと聞いたのよ」


 ……は?

 ワシは一瞬、何のことか分からなかった。


 リュウにトラ。

 ――龍と虎か。


 確かに前世では組の事務所に龍虎の掛け軸を飾っていた。

 極道の縁起物として口にしたのを、侍女たちが聞いていたのか。


「リュウという生き物は調べても分からなかったけれど」


 妃殿下が困ったように微笑む。


「トラを調べましたら、南の密林に住む大きな猫のことでしょう?」


 王妃が得意げに箱の中身を取り出した。


 そこに現れたのはワシの背丈よりも大きい、巨大なぬいぐるみだった。

 黄色い毛並みに黒い縞模様。

 つぶらな瞳に、ふかふかの手触り。



 ――ファンシーすぎる。



 どう見ても、幼い娘向けのぬいぐるみだ。

 ワシのような極道の魂を持つ者が抱えるには可愛らしすぎる。


「気に入ってくれたかしら?」


 妃殿下が期待に満ちた目でワシを見つめてくる。

 その瞳には純粋な親心が溢れていた。

 娘のために一生懸命選んでくれたのだろう。


「……ありがとうございます、お母様」


 ワシは素直に受け取った。

 気持ちだけは嬉しく頂戴しておこう。



 国王が一歩前に出た。


「マフィ。改めて、誕生日おめでとう」


 その声にはいつもの威厳とは違う温かみがあった。


「お前のおかげでこの国は確実に変わりつつある。これからも期待しているぞ」


 短い言葉だった。

 だが、その一言には王としての信頼が込められていた。

 ワシは静かに頭を下げた。


「はい。必ずやお父様のご期待に応えてみせます」



 ◇



 昼前、ワシは視察という名目で街へ出た。

 馬車が王都の大通りを進むにつれ、沿道は人だかりとなっていた。


「王女様万歳!」

「お誕生日おめでとうございます!」


 市民たちが手を振り、花を投げてくる。

 まるで凱旋パレードだ。


 馬車を下りて広場へ向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。


 騎士団の鎧を着た男たちと、マフィグループの強面たちが肩を並べて調理をしている。

 元ゴロツキと騎士が一つの鉄板を囲んでヘラを振るう。


 平和の象徴のような光景だった。


「お待ちしておりました!」


 パンクがエプロン姿で駆け寄ってきた。隣には騎士団長のケイトもいる。


「今日は王女様のために新作料理を開発したんです!」

「新作?」


「はい!王女様が常々『麺が恋しい』と言っていると聞いて、麺を調べて作ってみました!」


 ケイトが自信満々に鉄板の上を指差した。

 そこでは茹でたパスタのような麺が、大量の油と共に炒められていた。



 ――焼きそばか!


 ついに、この世界で焼きそばが食えるのか!

 あのソースの焦げる匂い、青のりと紅ショウガのハーモニー。


「さあ、どうぞ!」


 差し出された皿を受け取る。

 見た目は……ソースの色ではない。

 だが、創作料理だ。味付けは塩ダレかもしれない。


 ワシは期待を込めて麺を啜った。


 ……。

 ……ニンニクと、唐辛子と、オリーブオイルの味。


 ワシは咀嚼し、飲み込んだ。


 美味い。

 確かに美味い。



 だがこれは、ペペロンチーノじゃ。

 鉄板で炒めただけのパスタじゃ。



「いかがですか!?」


 パンクとケイトが目を輝かせて感想を求めてくる。ワシは皿を返し、ふんと鼻を鳴らした。


「修行が足らん」

「ええっ!?」

「美味いことは美味いが、ワシが求めてるのはこれじゃないんじゃ!」


 ワシの理不尽なダメ出しに、二人はガックリと肩を落とした。

 だが、その周りでは市民たちがその「鉄板焼きパスタ」を笑顔で頬張っている。


「治安が劇的によくなって、夜でも誰もおびえて歩くことはなくなった」

「王女様は我らの救世主だ!」


 口々に感謝の言葉を述べながら、市民たちがワシを囲む。

 子供は花束を渡してくる。老婆が拝むように手を合わせる。


 くすぐったい。

 ヤクザの親分として恐れられることには慣れていたが、こうも真っ直ぐな善意を向けられることには耐性がない。




 その時だった。

 蹄の音が近づいてくる。

 見れば、騎士団の早馬が全速力でこちらに向かってきた。

 馬上の騎士は汗だくになっている。


「王女殿下!」


 騎士が馬から飛び降り、片膝をついた。


「緊急報告でございます!」


 ワシの背筋に緊張が走る。



「魔王軍が本格的な進軍を開始しました!」



 その言葉に周囲がざわめいた。

 民衆の顔から笑みが消え、不安の色が広がっていく。


 だが、ワシの心は不思議と落ち着いていた。



 ――ついに、この時が来たか。


 半年かけて準備してきた。

 王都の治安は自警団に任せられる。

 騎士団は実戦経験を積み、士気も高い。


 なんとか間に合ったという感じだ。


「王女様」


 傍らにいた侍女が恐る恐る声をかけてきた。


「王城ではお誕生日のケーキの準備ができております。お戻りになられますか?」


 ケーキ。

 そんなものを準備していたのか。


 ワシは侍女を見下ろし、はっきりと告げた。


「そのケーキはここにおるみんなに配れ」

「え?」


「そして、ワシが帰ってくる頃に作り直せ」


 侍女が目を丸くしている。

 だが、すぐに深く頭を下げた。


「かしこまりました」


 周囲の民衆からどよめきが起こった。

 王女が戦場へ向かおうとしている。

 その意味を理解し、不安そうな顔で互いを見つめ合っている。




 ワシは今日一日を振り返った。

 朝から盛大に祝われ、民衆からは感謝の言葉をかけられた。


 めちゃくちゃをやってきたつもりだった。

 騎士団長をクビにし、ゴロツキを手下にし、貴族に酒を飲ませて倒れた。

 騎士団の小隊長は百人近く張り倒した。


 それでも。

 意外と嫌われていなかった。

 むしろ、感謝されていた。



 ――ワシの行いは間違っていなかったのだ。

 そう確信できたことが、今日という日の最大の収穫だった。



 ワシは集まった民衆を見渡した。

 不安そうな顔、心配そうな顔、中には泣きそうな顔もある。


「おう、皆、聞けぇ!」


 ワシは腹の底から声を出した。


「今日はワシの誕生日じゃ。皆でワシの誕生日を祝え!」


 だが民衆の表情は晴れない。

 魔王軍の進軍という報は、彼らの心に重くのしかかっている。

 ワシは一つ息を吐き、言葉を続けた。


「弱きを助け、強きをくじく」


 民衆が静かに聞いているせいか、その声は良く通った。


「家族のためなら死にに行く」


 民衆がワシの言葉に耳を傾けている。



「そがいな生き方を『任侠』と言うんじゃ」



 任侠。

 仁義を重んじ、弱者を守り、己の命を賭して戦う。



 それが極道の、そしてワシの生き様だ。



「ここにおる皆もワシの家族じゃ」


 ワシは民衆を見回した。


「何をしてでも助けちゃる。守っちゃる」


 その言葉に、民衆の目に光が宿り始めた。


「だが今、魔王軍との最前線で助けを求めとる『家族』がおる!」


 ワシは王都の外、国境の方角を見据えた。

 あの先には、盃を交わした貴族たちがいる。

 人類の盾として戦う騎士たちがいる。

 守らなければならない者たちがいる。


「ワシはちょっくら『家族』を助けに行ってくるけぇ!」


 ワシはニヤリと笑った。


「……王女様」


 パンクが一歩前に出た。

 その目には涙が滲んでいる。


「必ず、お帰りください」


 ケイトもそばで跪いた。


「王女殿下、我々騎士団が必ずお守りいたします」


 民衆からも声が上がり始めた。


「王女様、頑張ってください!」

「ご武運を!」

「必ず帰ってきてください!」


 歓声と涙が入り混じった声が、王都の空に響き渡った。

 ワシは手を挙げてそれに応えた。


 五歳の王女改め、六歳王女マフィ。

 これからも、ワシは仁義の道を行く。



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― 新着の感想 ―
王妃からのぬいぐるみ、母親としての切実な思いがこもっているのでは。 大人顔負けな噂も入っているだろうけど、まだ可愛い盛りの6歳の少女には もっと遊んでほしい甘えてほしいという。
今回のエピソードも書いてくださりありがとうございます。 次回のエピソードが楽しみです。王女様が戦場でどのような振る舞いをするのか非常に心を踊らされます!
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