表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完】5歳王女「てめぇら、仁義ってもんを教えちゃる」 ~任侠姫マフィの一代記~  作者: ぜんだ 夕里
第一部 魔王討伐編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/45

11. 首洗って待っとれよ


 腫れ上がった右手の疼きを堪えながら、ワシは再び踏み台の上に立った。

 眼下には、頬を赤く腫らした騎士たちが並んでいる。その瞳には先ほどまでとは違う色が宿り始めていた。

 暴力という名の衝撃が、彼らの腐った根性を叩き起こしたらしい。


 ワシはその中でも一番マシな目つきをしている新団長――ケイトを見下ろした。


「おい、ケイト」

「は、はいっ!」


 ケイトが弾かれたように背筋を伸ばす。


「お前らに一つ問う」


 ワシは静かに尋ねた。


「お前らは、何のためにここにおる」


 ケイトは一瞬戸惑ったようだが、すぐに迷いのない声で答えた。


「守るためであります!」

「何を守るためじゃ」

「王都の民と、この国の平和を守ります!」


 模範解答だ。

 教科書通りの、優等生の答え。

 だがワシは鼻を鳴らした。


「……甘いのう」

「え?」


「王都の民? 平和? そがいな小さい話をしとるんとちゃうぞ」


 ワシは騎士団全体を見渡した。

 数百人の男たちが五歳の少女の言葉を逃すまいと息を呑んでいる。


「ええか、よう聞け!」


 ワシは腹の底から声を張り上げた。


「お前らが守るんは王都だけやない。ワシの『家族』である、この王国の国境に至るまですべてじゃ!」


 騎士たちがざわめいた。

 「家族」という言葉の重みが、彼らの胸に落ちていく。


「今、国境の向こうには魔王軍なる連中がおるそうじゃのう。聞けば我が物顔でうろつき回っとるらしいやないか」


 ワシはギリ、と奥歯を噛みしめた。


「ワシらのシマに土足で踏み込んでくる連中がおる!こんな奴らに舐められたままでええんか!?」


 怒号に近いワシの叫びが練兵場の空気をビリビリと震わせた。


 シマを荒らされる屈辱。メンツを潰される憤り。

 それは極道にとって、死よりも耐えがたい恥辱だ。


「お前らは王都の中でくだらんゴロツキをしょっ引いとる場合じゃないんじゃ!そんなもんはそこらの鼻垂れ小僧にでもやらせとけ!」


 ワシは拳を握りしめ、天を突いた。


「お前らは王国の盾じゃ! 一番強いもんが、一番前で身体張らんでどうするんじゃ!」


 騎士たちの顔つきが変わっていく。

 今まで「公務員」として安穏と暮らしていた彼らの心に熱い火が灯り始めていた。



 そうだ、俺たちは騎士だ。

 戦うために剣を持ったのだ。



 忘れかけていた初期衝動をワシの言葉が揺さぶる。


 だが、まだ足りない。

 こいつらの背骨に、もっと太い芯を通さねばならん。


「よう考えぇ。このオズ王国は人類の最前線じゃ」


 ワシは声を一段低くした。


「もしワシらが崩れればどうなる? 雪崩れ込んでくる魔物は後ろの国々も飲み込むじゃろう。女も、子供も、皆殺しじゃ」


 男たちの脳裏に、最悪の未来予想図が浮かぶ。

 自分たちの背後にいる、守るべき者たちの顔。


「お前らがここを食い止めるということは、全人類の命を背負うとるっちゅうことなんじゃ!」


 ワシはケイトを指差した。


「ケイト! お前は王都の番犬になりたいんか! それとも、人類最後の砦になりたいんか!」

「わ、私は……!」


 ケイトの目から涙が溢れた。

 感極まったのか、あるいは重圧に震えているのか。

 だがその叫びは力強かった。


「私は!皆の盾となりたいです!」


「よう言うた!」


 ワシはニヤリと笑い、全員に向かって吠えた。


「聞いたかお前ら!お前らは全人類の盾になるんじゃ!」



「人類の盾として誇りを持て! 魔王軍ごときに一歩も引くな!ワシらのシマは指一本触れさせんとな!!」



 一瞬の空白。

 そして。


「うおおおおおおおおおおっ!!」


 地鳴りのような歓声が巻き起こった。

 騎士たちが拳を突き上げ、涙を流しながら叫んでいる。


「魔王軍ぶっ殺す!」

「俺たちの国は俺たちが守る!」

「人類の盾!人類の盾!」


 狂熱。

 五歳の少女の演説に、屈強な大男たちが心酔し、熱狂している。

 異様な光景だった。

 だが、これこそがワシの求めていた「組織」の姿だ。


 理屈ではない。感情で動く鉄砲玉。

 親のためなら死ねるという狂信的な忠誠心。

 それがなければ、強大な敵になど勝てはしないのだ。



 ワシはその光景を満足げに眺めながら、内心で冷や汗を流していた。


 ――痛ってぇ……。


 アドレナリンが切れてきたのか、右手の痛みが尋常ではない。

 格好をつけて手を掲げているが、本当は今すぐ氷水に突っ込みたい。

 ワシは引きつりそうになる顔を必死にポーカーフェイスで固め、威厳を保ち続けた。




「……あいたたた」


 その夜、右手は丸いパンのようにパンパンに腫れ上がっていた。

 指を動かすどころか、何かに触れるだけで激痛が走る。

 調子に乗って百人近く張り倒した代償は、五歳児の柔肌には大きすぎたらしい。


「王女殿下……あまり無茶をなさらないでくださいませ……」


 侍女が涙目でワシの手に湿布を貼ってくれている。

 ひんやりとした感触が、熱を持った患部に染み渡る。


「……すまんが、茶を飲ませてくれんか」

「はいはい」


 侍女が呆れたように笑い、カップを口元まで運んでくれる。

 情けない姿だ。

 昼間、人類の盾となれと叫んでいたカリスマが、夜には侍女に介護されているのだから。



 ◇ ◇




 後日。

 ワシの主導のもと、騎士団の大改革が断行された。


 まず、騎士団の役割を明確に分割した。


 王都の治安維持。

 これはもはや騎士団の仕事ではない。

 路地裏を仕切るパンクたち「自警団」にその権限を委譲した。


 ゴロツキの扱い方を一番知っているのは元ゴロツキだ。

 彼らは水を得た魚のように街を巡回し、些細なトラブルを拳……ではなく、話し合いと威圧で解決していった。


 そして騎士団。

 こちらは半数を「近衛」として城に残した。

 王族や貴族の護衛。これはまあ、見栄えの良いエリート共に任せておけばいい。


 問題は残りの半数だ。

 ワシが選抜した気骨のある連中――あの練兵場で涙を流して叫んでいた熱い奴ら。

 彼らを「遠征部隊」として再編した。


 彼らの任務は王都の外へ出ること。

 周辺都市の警護、街道の安全確保、そして魔王軍の斥候や、地方で暴れるならず者の討伐だ。


「王都に引きこもっとる場合じゃない。外へ出て敵を叩くんじゃ!」


 ワシの号令の下、遠征部隊は勇んで出撃していった。

 人類の盾としての誇りを胸に、彼らは獅子奮迅の働きを見せた。

 街道を荒らす盗賊団などを壊滅させて回る。


 そしてここからがワシの描いた絵図の肝だ。


 討伐された盗賊やならず者たち。

 彼らの中で殺すほどでもない、大罪を犯していないような小悪党。

 あるいは食い詰めて仕方なく悪事に手を染めたような連中。


 そういった半端者は王都へ護送される。

 そして、誰の元へ送られるかといえば。


 ――そう、パンクたち自警団だ。


「おう、新入りか。根性叩き直してやるから覚悟しな」


 パンクたちは送られてきたならず者をシメ上げて再教育する。

 そして自警団の一員として、あるいはお好み焼き屋台の店員として再利用する。


 労働力不足の解消と、犯罪者の更生。

 一石二鳥のシステムだ。


 外で騎士団が暴れ、中で自警団が守り、人材が循環する。

 暴力と秩序が綺麗に噛み合った完璧なエコシステム。


 数ヶ月もする頃にはオズ王国の治安と軍事力は、周辺諸国が驚くほどの水準に達していた。


「……フフッ。ええ感じに回ってきたのう」


 執務室の窓から活気に満ちた王都を見下ろした。


 だが、これはまだ始まりに過ぎない。

 国境の向こうには、本物の「敵」がいる。


「どんなやつらなんじゃろうのぉ!」


 魔王軍。

 ワシらのシマを狙う、極悪非道なライバル組織。


「首洗って待っとれよ」


 五歳の幼女は不敵に笑った。

 仮に現代人がその光景を見たら、その背中に龍の刺青が怒り狂っているように見えたことだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔王に気に入られそうな逸材の幼女やわ
五歳か…私は幼稚園の遠足で、親とはぐれて泣き喚いた記憶しかない…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ