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商品レビューで構成されたホラーです  作者: くぐつけいれん


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34/35

投稿者:ニュー太郎

こんにちは。

レビューウォッチャーの殺人ピエロです。


このコンテンツ『殺人ピエロの週替わりcreepyレビューウォッチング』、ではオンラインショップmamasonさんで見つけた面白おかしいレビュー、レビュワーさんを御紹介しております。



投稿者: ニュー太郎

紹介:いろいろなジャンルの掌編小説を書いています。



今回ご紹介するのはちょっと毛色の変わったレビュワーさんです。


本来というか当然のことながらmamasonの商品ページにあるレビューは購入した商品の感想、良し悪しをかくべき場所です。


ですがこのニュー太郎さんは、困ったことにレビュー欄に自前の掌編を書いてまわっている変わった癖の持ち主さんでした。


その目的や意図は計り兼ねまずがおそらくは街の壁にスプレー缶で落書きをしたり電柱に自前のステッカーを貼るような感覚なのかもしれません。


作品は凡そホラーが大半を占めておりますが恋愛ものやSFテイスト、童話などもありジャンルの幅は広く、その数は三百ほど存在しております。


噂によると何度か規約違反によるアカウント停止を受けておりすべてをトータルすると千作品にものぼるとか。


昨今は小説投稿サイトなども多数あり、有名な賞などと連動しているものもあるので正直そちらに投稿した方が良いのではと思わないでもありません。


さて尺の都合もありますので千作品すべてをご紹介することはできませんが今回は実際にどういう掌編なのかを知っていただくべく、私が選んだ一作を掲載させて頂きます(尚、御本人の了解は頂いておりません)。



商品: オレンジ ジュース(果汁100% 200ml×24本)

レビュー評価: ★★★★★

タイトル:ひとりかくれんぼ

本文:



蝉がうるさくてとても暑い夏だった。


僕はだれもいない公園でブランコを漕いでいた。

友達がいない僕は、夏休みがあまりにも暇で何をすべきか悩んでいたのだ。


暫く頭をひねって出てきたのはかくれんぼだった。


ひとりでかくれんぼ。


我ながらおかしなアイデアだったけれど、遊んでみたら意外に楽しいのかもしれない。


「さてまずは隠れる場所をどこにしようかな」


ブランコから飛び降りると近くに手頃な場所がないか検討してみる。

すべり台も、砂場も、ジャングルジムも見て回ったがどれも隠れるのには適してなさそうだ。


困っているとあるものが目についた。

物置だ。

公園の片隅に置いてある町内会の一斉清掃で使う掃除用具が片付けてある納屋である。


「ちょうどいいや」


僕はしめしめと思いながら半開きのとびらに身体をすべり込ませて、薄暗くほこりっぽい物置に身を隠した。


竹ぼうきやちりとりや火バサミがひしめいていてとても狭かったけれど、日差しの下にいるよりは幾分かはマシだ。


さあひとりかくれんぼの始まりだ。


膝を抱えてじっと息をひそめる。

それからしばらくじっと過ごしながら遠くで蝉が鳴いているのを聞いていた。


「……」


あまりにも暇だったのでまぶたを閉じてみた。

それからそっと数をかぞえてみる。


いーち、にーい、さーん。しい。ごお。


何の意味もないただの気まぐれだ。


ろく。しち。はち。くう。じゅーう。


でも聞きつけた誰かが遊び相手になってくれるかもと少しだけ期待していた。


「……もういいかーい?」


……あ……だよ。


蝉の声にまぎれてーーちいさな、かすれた様な、はっきりとしない、けれどもたしかに声が聞こえた。

気がした。


慌てて立ち上がると、そっと外を見回してみた。


扉の隙間から見える公園は無人だ。

人っ子ひとりいない。


暫くじっとして耳を凝らしてみるものの、聞こえてくるのは蝉の鳴き声と時折風が吹いて木の葉が擦れ合う音だけだ。


「やっぱり……聞き間違いかな?」


ひとりで寂しくてあまりにも退屈だったから声が聞こえた気がしただけかもしれない。


まあ返事があるはずがない。


何故ならこれはひとりかくれんぼだ。

かくれるのがぼくで、見つけるのもぼくだけなのだ。


それでも本当に返事をくれた人がいるかもしればいので念の為、もう一度問いかけてみる。


「……もういいかーい?」


……まあ……だよ。


「……声だ」


たしかに人の声だった。


慌てて扉の隙間から覗き込む。


クリーム色のペンキが剥がれ落ちたコンクリートの象の滑り台ーー物陰に誰かが隠れている気配はない。


いつか誰かの作った山がそのままになっている砂場ーーまさか砂に潜り込むことはないだろう。


フェンス傍の樹木から伸びる人が座れそうなふとい枝ーーイチョウの緑の葉っぱが繁っているだけで人影はない。


公園を隅から隅まで探してみるが、誰かが隠れているような姿も、気配もない。


「……どこに隠れているんだろう?」


声の主は「まあだだよ」と言った。


つまり今はまだどこかに隠れる場所を探している最中なのだろう。

こんなにも隠れるのが上手い相手はきっと忍者か透明人間なのかもしれない。


僕はもう一度ゆっくりと十秒数えてから呼びかけてみた。


「もーいーかーい?」


もういいよお……。


返事ーー先ほどよりもずっとはっきりとしたこの公園のどこかにいるのは確かな声だった。


「よし、どうやら準備できたみたいだ」


ぼくは立ち上がると、公園のどこかにいるだろう声の主を探す為に、小屋から出ようとして、


ぎいーー


金属が擦れる音が耳に飛び込んできた。


「……?」


扉の隙間のその向こうーーすこし離れた場所にあるブランコが動いている。

ギイコギイコとまるで数秒前まで誰か漕いでいたかのように鎖と椅子が前後に揺れていた。


たったったっーー


誰かが走っている。

公園の端から端を横断するように砂利を蹴る音と、微かな息遣いとが聞こえてくる。


ぺきぺきっーー


地面やベンチに散らばった小枝が何度も踏まれて、葉が舞う。


カンカンカンーー


滑り台の階段を駆け上がっていく金属製の音が響く。


ザッザッザッーー


砂場の山が乱暴に踏み崩されて、砂がバッと蹴散らかされる。


あはは。

きゃっきゃっ。

ふふふ。

わーっはっはっ。


公園には確かに誰かがいた。

それもひとりではなく幾人もの気配。


遊具やベンチなどあちこちに誰かがいて、それらが立てる物音や気配がずっと続いていた。


「どこに……いるの……?」


けれどもその姿が見えない。


どれだけ見回しても、どれだけ目を凝らしても、誰一人として影すらも見つけることができない。


逃げ足が速いとか、かくれるのが上手いとかそういう問題ではない。

ただ彼らはそこにいて何かをしているはずなのに姿だけが見えないのだ。


もういいよう。

もういいよう。

もういいいよう。

もももいいいよよよおおお。


何人もの声。

子供だけではない大人や年老いた男や女の返事と笑い声が合唱するように、僕に向かって返事をしてくる。


「……うう」


ぼくは気味が悪くなって扉から離れた。


何が起きているのか理解できなかった。

けれど異様な事が起きているのは明らかだった。


このまま外に出てはいけない。

それだけは確かなことだった。

もしそんな迂闊な行動をとればとても良くないことが起こるのは間違えなかった。


できる限り音を立てないように立てかけた掃除道具を避けながら隅に移動してしゃがみ込んだ。


それからひとりかくれんぼなんて遊びをしなければ良かったと後悔した。おかしな遊びを始めたせいでこんなことが起きたのだろう。


いつのまにかものすごく喉が渇いていた。


入り口にある水道で水が飲みたかったけどとにかくここで事が収まるのを待つのが良いい。

じっとしていればきっとあの気味の悪い何かはいなくなるはず。

そうしたら急いでここから出て、家に帰って涼しい部屋でオレンジジュースを飲もう。


「……」


いつの間にか辺りが静まりかえっている。


奇妙な気配をまとわせた靴や遊具などの物音が止み、合唱のような呼びかけもなくなく、それどころか木のざわめきや、蝉の鳴き声すらもなくなっている。


そして凍りついたみたいな空気のなかーー


「「「もういーかーい?」」」


と声がした。

小さな女の子の、青年の、おばさんの、野太い男の、或いは老人の、何人もの人たちが一斉に楽しげに、そう問いかけてくる。


「何で……?」


こちらが探すのをやめたからだろうか。

それとも彼らを見つけることができなかったからだろうか。


いずれにせよかくれんぼの役割が交代になって、今度はあちらが鬼になったのは間違いなかった。


「「「もういいかーい?」」」」


その声は明らかに僕がこの納屋にいることに気付いているようだった。


がたん。


見上げると、半開きの扉のふちに五本の指がかかっていた。

僕と同じくらいの大きさの、子供の手だ。


がたん、がたん、がたん、がたん。


紅いマニキュアの爪の、ゴツゴツした毛むくじゃらの、薬指に指輪のある、皺だらけのーー手という手が次々と扉の縁の至る場所にかかっていく。


そして半開きの扉をスライドさせようと、一斉に力を込め始めたがガタガタと揺れるだけでなかなか動かなかった。


「「「ももももおおおおおおおおいいいいいかかかかかかあああああいいいいい?」」」


悲鳴をあげそうになるのを手で口を塞ぎ堪えた。

膝をぎゅっと抱えて見えなくなるまで小さくなれればいいのにと思いながらその場に縮こまっていた。


次第に扉に手がかかる力が強くなっていく。

思い通りにいかないのか左右に乱暴に動かしたり、終いには上下に揺すり出したりする。


扉自体は何故か開かなかったが、物置全体がまるで大地震が起きたみたいにガタガタと揺れて、ひっくり返ってしまうのではないかと気が気ではなかった。


もし見つかったらどうなるのだろう。


あの手に掴まれてどこかに連れていかれるのだろうか。それとも引き千切られてバラバラに解体されるのだろうか。


ここが安全とはとても思えなかった逃げ道もない。


じっと息をひそめて、ただただじっと動かずに時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。


それからーーー

どれだけの時間が経ったのかは分からない。


「……」


いつの間にか揺れがおさまって、あの恐ろしい声も聞こえなくなっていた。


瞼をあけて恐る恐る顔をあげる。

扉の縁を押さえていた幾つもの手が消えていて、外からの日差しがオレンジ色になっていた。


「いてて……」


膝が硬くなってまっすぐ伸ばせず、立てなかった。

仕方なく埃っぽい床を這う。


慎重に扉に向かって進もうとしたが途中、掃除用具の間をすり抜ける際にうっかりカタンーー


「うわっ!」


箒を倒してしまった。


恐る恐る扉に目を向けるが、何も起きなかった。


代わりに隙間から夕焼け空が見えた。

いつの間にかかなりの時間が経っていたようだ。


耳に入ってくるのはフェンス沿いにある樹木のざざめきと、ひぐらしの鳴き声だけ。


「もう大丈夫なのかな……?」


おっかなびっくり扉に手をかけると大した力を込めずに横に動き、目の前に公園が現れる。


ブランコはひとりでに揺れることもなく、ジャングルジムにも滑り台にもおかしな気配はない。


まるで悪夢のような出来事が嘘だったかのようにありふれた景色に戻っていた。


「うんしょ……っと」


僕は納屋から這い出ると何とか立ち上がった。


縮こまっていたせいで背中が痛かったし、シャツが汗で濡れてしまって気持ち悪かった。心の底から早くお家に帰ってお風呂に入りたい。お風呂上がりには絶対にオレンジジュースが飲みたい。と思った。


僕はうーんと伸びをすると「はあ」と溜息をついた。


あの声や手が、一体何だったのかは分からない。


確かにいえるのは、ひとりかくれんぼ何ておかしな遊びを始めたばっかりにこんな恐ろしい目に遭ってしまったということだ。


「こんな遊びは二度とするものか」


そう心に誓った。


にも関わらず何故そんなことを思いついたのかはあうごく説明しづらかった。


「舌の根も乾かないうちに」とか「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とか最近国語の授業で習った表現に相応しい行為。


例えるなら猛犬注意の看板を無視して犬小屋に腕を入れるような行為。


結局のところ僕は心の底から反省なんかしていなかったのだろう。


安心しきって何も起きないだろうとたかをくくって悪戯半分な気持ちでいたのだ。


「……」


気がつくと辺りをもう一度見回して誰もいないことを確認してから、小声で余計なことを呟いていた。


「もーいーよう」


カタン。


背後で掃除用具が倒れる音がして振り返った。


ついさっきまで僕が隠れていた納屋ーーその扉が開いた向こう側に詰め込まれた暗闇から、すっと何かが伸びていた。


次に訪れたのは自分がいかに愚かであるかを答え合わせする為だけの時間だ。


ひとつではない。

ふたつでもない。

子供の。

大人の。

女性の。

老人の。

様々な特徴を持った無数の。


手だ。

手だ。

手が。


僕のシャツの襟を、腕を、喉を、手を、指を、ズボンを、一斉に掴む。


逃げ道を探す為の視界が塞がれ、

逃げる為の足首も囚われ、

助けを呼ぶ口も塞がれる。


何ひとつ抗うことすら叶わず、どうすることもできないまま、ただただ納屋へと引き摺り戻されていく。


それからあちこちで声が上がるのを聞いた。


嬉しそうに、楽しそうに、無邪気に、喜ばしげに悲鳴や歓声に似たその声を聞いた。


それはこの遊びの終わりに相応しい言葉でーー


「「「みいつけた!!」」」







挿絵(By みてみん)

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