謝罪の件につきまして
いつも『殺人ピエロの週替わりcreepyレビューウォッチング』をご視聴下さりありがとうございます。
今回は皆様に謝罪したいことがあり投稿しました。
動画を楽しみにされている方々におかれましては不快な気持ちにさせてしまうかもしれませんが何卒ご容赦ください。
実はこの『殺人ピエロの週替わりcreepyレビューウォッチング』は僕のアカウントではありません。
そして僕は殺人ピエロというユーザネームでもなく、ましてやこのチャンネルの管理人でもないのです。
これまで多くの方々を騙すようなことをしてしまい申し訳ありませんでした。
恐らくこの事だけを伝えるとおまえは何を言っているのだと困惑される方々が大半だとは思います。
これから順を追ってことの次第を説明させて頂きますが、余計な混乱を招いてしまうかもしれません。
別におまえのことなんて知らないよ。レビューウォッチの動画だけ視聴ができればそれでいいんだという方はどうぞこの動画を閉じて頂ければと思います。
まず僕が何者かという話をさせて頂きます。
はっきりしたプロフィールは明かせませんが東京都内の大学に通うどこにでもいる大学生です。
何かに熱心に打ち込むこともなく派遣バイトでお小遣いを稼いでは休みの日にはひとりでゲームをやったり動画を観て時間を潰すだけの凡庸な人間です。
元々オカルトには多少の興味はありましたが、人に見せるような面白い動画を作って投稿するような技術も企画力も持ち合わせてはいませんでした。今だってそうです。
すべての始まりは一台のスマホでした。mamason経由で購入した格安の中古です。販売相手はよくある中古デジタル機器を専門にする業者でした。
届いた商品を起動したところ、おそらく業者のミスなのでしょう。スマホには前の持ち主の個人情報がひとしきり残ったままになっているようでした。
初めはちょっとした好奇心からでした。
取るべき単位をすべて取得し卒業を待つだけの身で暇を持て余していたのも悪かったのだと思います。
気がつくと単調なソシャゲをこなす要領でパスワードを解除し、どんな人がどんな情報を残しているのかを調べていました。電話帳やSNSアプリ、メモ帳、ウェブブラウザなど手当たり次第に漁りました。
そこで見つけたのが殺人ピエロというユーザーネームの配信チャンネルアカウントのIDとパスワード、そして未投稿状態の動画でした。
履歴などを確認する限り、前の持ち主は暫くの間ログインすらしていないようでした。恐らくこのチャンネルのことをすっかり忘れてしまったのか或いは飽きたのかアカウントを放置したままの状態だったのです。
未投稿の動画はなかなか良くできていて、どうしてこれを投稿しないままでいるのか僕は不思議に思いました。
殺人ピエロが見つけたというmamasonの奇妙なレビューの存在が事実かどうかは分かりませんでしたが、これを眠らせておくのは勿体無いなと思いました。
今にしてみればただ思ったままにして、そっとスマホを初期化してしまえば良かったのだと思います。けれどもあの時の僕は投稿してみたらきっと面白いことになるんじゃないかという短略的な思考に支配されていました。これは他人に見せるべきだとある種の使命感みたいなものすら抱いていたのです。
結果どのようになったかは多くの登録者の方々が知ることでしょう。
最初に投稿したご褒美アイスさんの動画が元々オカルト掲示板界隈で有名だったことも手伝って、SNSでプチバズしました。
投稿のタイミングも良かったのだと思います。
例のお悔やみ事件……有名オカルト系動画配信者の一斉更新途絶によってあぶれた視聴者が流れ込んできました。
おかげで動画の視聴回数は無名投稿者であるにも関わらずかなり良いもので、登録者数のカウンターも景気良く回り出し、チャンネルはそこそこの知名度を得ることができたのです。
言うまでもないことですがそれは僕の手柄ではありません。僕は他人のアカウントに無断で侵入して、了承も得ず勝手に動画を投稿をしただけ。罪状はよく分かりませんが犯罪者と変わらないのでしょう。
そうであるにも関わらず、『僕の動画が好評だ』という間違った認識のもとに僕は喜びと興奮を覚えました。そして調子に乗って残りの動画を投稿し続けることにしたのです。
動画を投稿することで身の回りに起きた変化が二つありました。それは僕を取り巻く周囲のネット環境です。
SNSアカウントを設けて殺人ピエロを名乗ることでオカルト好きな方々との交流が生まれるようになりました。ネットでもぼっちだった僕にはそれはとても心地よい空間でした。
もうひとつの変化はその反対で、登録者数が増えるに従って、次第に誹謗中傷みたいなものがコメント欄やSNSに届き始めるようになったことです。
そのなかには花███子を騙るなという警告めいたものや、花███子へのよく分からない賛辞だったり噂話だったりとバリエーションは様々でしたがいずれも誰とも知れない人物を絡めた内容のメッセージも含まれていました。それはただのやっかみという感じのものとは毛色の違う怪文めいたどうにも気味の悪いものでした。
花███子という人物がおそらく中古スマホの前の所有者で、恐らくはこのチャンネルの本当の管理人の本名なのだと気づいたのはたまたまスマホの設定を開いて所有者の欄に同じ名前が出てきたからです。
もしかしたら誹謗中傷の犯人は花███子さん自身で、僕が乗っ取ったこのアカウントへの嫌がらせなのかもしれない。そう思い至った僕は非常にまずいなと思いました。もしこのまま僕の身元がバレ、彼女に訴えられでもしたら何も申開きはできません。
すぐに謝罪をすべく連絡を取ろうと試みましたがDMでの会話が上手くいかず、スマホに残った情報を手がかりに本人の身元を調べることにしました。
そしてその過程で花███子さんが既に他界されていることを知りました。詳しいことは個人情報なので語れませんがご病気だったそうです。
彼女が、殺人ピエロさんがこのアカウントを放置したままでいたのは、動画投稿しなかったのは、そもそもそれができなかったからなのかもしれません。
僕は誹謗中傷をした人物が花███子さん本人ではないことに安心すると同時に、自分のおかれた状況を再認識しました。こんなことが世間に知られたら就職活動どころか大学卒業もできなくなるのではないか。
そうしてこのアカウントから手を引く決意をしました。既に投稿してしまっていた『誹謗中傷の件につきまして』という動画は削除しようか迷いましたがそのまま残し、何もかもを放置して忘れることにしたのでした。
何を言っているんだ。『殺人ピエロの週替わりcreepyレビューウォッチング』の動画投稿はまだ続いているだろう。タイトル通りしっかりと週刊ペースの更新を守っているじゃないか。そして今やこのチャンネルは登録者数も伸びていきいよいよ八十万人に手が届く勢いじゃないか。このチャンネルをよく知る登録者の方々はそう思っていることでしょう。
僕もつい最近知りました。
就活の合間にたまたまネットサーフィンをしていて偶然にこのチャンネルが話題になっていること、あの後もどういうわけか動画が続いていることなどを知り驚愕しました。
誰なのかは分かりません。けれども何者かが殺人ピエロとしてこのチャンネルで動画投稿を続けているのは確かでした。投稿動画はどれもあのスマホのメモ帳に書き溜めてあったシナリオと同じものでしたが、なかには僕の知らない新作もありました。
どの動画も非常に良くできていてまるで最初から作り置きしてあったかのような出来映えでした。それらを視聴している間も僕は何が起きているのかわからずずっと恐怖していました。今もそうです。毎週水曜日が近づいて更新が行われるのかと思うとそれが恐ろしくて仕方ありません。
本当の管理者である花███子さんはもうこの世には存在しません。であるなら殺人ピエロとなって動画を作り上げ、投稿を行ったのは一体誰なのでしょうか。
たまたま彼女のIDとパスワードを手に入れた人物が仕掛けた悪戯でしょうか。だとするとメモ帳にあったシナリオのストックはどうやって入手したのでしょう。あのスマホはもうありません。このチャンネルから手を引くと決めた日、念入りに破壊して不燃ごみに出したはずです。
もうこれ以上、余計なことは考えたくないのです。
視聴者の皆さん本当にすいませんでした。僕はもうこの件からは手を引くつもりでした。二度と関わるつもりはありませんでした。それでもこうして最後に動画を投稿したのは謝りたかったからです。
これまで騙してすいませんでした。そして毎週動画を楽しみにして下さっているのにこれからそれを奪ってしまうことを深くお詫び申し上げます。
花███子さん、貴女のアカウントを勝手に私物化して申し訳ありませんでした。
これがもし貴女の望みだとしても、呪いだとしても、僕はもうこれ以上、更新が続くことに心が耐えられそうにありません。
暫くしたらこのアカウントは削除します。本当にごめんなさい。




