第8話 牛飼い娘スカイ
「それで、スカイ様。昨日話していたあれとは何ですか?」
メーアは、昨日マヤの話していたあれのことが気になりスカイに尋ねていた。
「ん? あー、あれのことね! 実は昨日──」
そう言うと、スカイはあれについて話し出した。
◆
「えっ? マッサージ……ですか?」
「そうそう! マッサージ! でも今回はオイルマッサージだけどね。いつも人食べたら、マヤとお互いにマッサージしあいっこしてるんだ~!」
(……か、可愛い)
無邪気で嬉しそうな顔をして話すスカイの姿を見たメーアは不覚にも頬を赤らめ意識してしまった。
(何と言えば良いのだろうか……動物的な可愛さ、的な?!)
「ん? メーア、顔を背けてどうしたの?」
メーアの気持ちなどお構いなしにズカズカと顔を覗き込むで来るご主人様。
「な、何でもないっ! ──ですっ」
「え〜、それ絶対何かあるやつ〜!」
「ほんとに何でもないからっ! ──ですっ」
(スカイ様と居るとたまに堅苦しい敬語が外れて、感情的になって語尾に「ですっ」と付けてしまう。これから注意しないと──)
「そ〜お〜?」
訝しげな視線を送りながらも、スカイは頬を紅く染める可愛いメイドから離れた。
「みんな〜、餌の時間だよ〜っ!」
スカイは牧場にいる牛たちに大きな声で呼び掛け始める。
(いつもあんな感じならいいのに……)
「よしよし、みんな仲良く食べるんだよ〜〜」
牧草がたくさん積まれた山に集まる牛たちを見ながら、スカイはみんなの健康チェックを行う。
「よしっ、異常なしっ! みんな〜、食べ終わったら遊んで来ていいよ〜」
その声を聞いた牛たちは食べ終わったものから、再度牧場に散り散りになった。
「スカイ“様”いつも牧場のお世話をされているのですか?」
「メーアがここに来てからずっと思ってたんだけど、そのスカイ“様”っていうのを止めてくれないかな」
「えっ?」
「その様付けする呼び方、私嫌いなんだよね〜〜」
「し、しかし、奥様が……」
「もー、ダメだよ〜メーア? メイドは主の言う事をちゃんと聞かなきゃ。それが例え、お母さんの言い付けだとし・て・も。そうじゃないと──」
その瞬間、メーアの口元にふわっと柔らかい感触が襲った。
「こんな風に襲われちゃうから、ねっ?」
「〜〜〜〜〜!!!!」
スカイはメーアに有無を言わさずに、いきなり接吻したのだ。しかも、堂々と唇に。
「えっ……えっ……えっ?」
一体何が起きたのか理解が追い付いていないメーアの耳元でスカイは色っぽく告げる。
「もし、このことをお母さんに告げ口しなかったら、もっと愉しいこと教えてあ・げ・る♡」
「ほぁっ……!」
そうして、スカイはメーアの耳を甘噛して、せっせと家へ戻って行った。
暴力を振るわれ、メイドにされ、あまつさえファーストキスまで奪われた憐れな少女を牧場にただ一人残して…………。