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人喰い少女  作者: マロ
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第5話 キャハハ、弱い弱い!!

「やっぱり、お風呂はいいねー」

「そうね〜、疲れが癒やされるわ〜」

 スカイはマリアにもたれかかる形で浴槽に二人で湯船に浸かっている。

「「あ〜、極楽、極楽〜〜」」

 頭にタオルを乗せた母娘おやこは、液状のスライムのような溶けた表情で気持ち良さそうに二人して呟いた。

「ねぇ、お母さん」

「なあ〜に?」

「スカイね、今日三人も人間を喰らったんだよっ! スゴいでしょー?」

「それはスゴいわ〜、スカイ。この年で三人も喰らうなんて異例だわ。流石、私の娘だわ!」

 マリアはスカイの成長をとても喜んだ。

「……でもね──」

「ん? どうしたの?」

 スカイの表情が突然暗くなった。

「スカイね、衛兵さんに見つかっちゃったの」

「大丈夫だった!?」

 愛しの娘の突然なカミングアウトに思わず母は立ち上がる。

「うん、幸い距離があってノロマだったから何とかなったよ」

「よ、良かったあ〜」

 その言葉を聞いたマリアは脱力し再び湯船に浸かる。

「いい、スカイ。人間を狩るのは良いけど昼間は止めなさい。やるなら、夜にやりなさい。夜なら人間にとっては、暗くて視界も悪いからバレにくいわ」

「は〜い。分かったよ、お母さん」

「あ、あともう一つ。勝てない相手だと判断したらすぐに逃げなさい。私たちは再生出来るとはいえ、それには限度があるから過信してはダメよ。それに命あっての狩りなんだから──いい?」

「うん!」

「良い子ね」

 マリアは正面からスカイを優しく抱き締めた。



「さあ〜て、美味しそうなお肉歩いて無いかな〜」

 翌日、スカイはまだ見ぬ美味しいごはん《にんげん》を求めて王都にある路地を歩いていた。

 すると、路地裏の突き当たりに大柄な三人の男たちが自分と同じくらいの歳の少女を逃げられないように、取り囲んでいるのを見つけた。

 そして、その男たちの上質な筋肉を見た途端──

「お肉ぅぅうううっーー!!」

 スカイは目をキラキラさせて《お肉》の下に、勢いよく走り出した。



「や、止めて!」


 一人の少女は今、大柄な男たち三人に囲まれていた。

「お嬢ちゃん、今俺たちはち~と暇してんだわ~、少しだけ付き合ってくれよ、なぁ~?」

 男はうす気持ち悪い笑みを浮かべ、少女に手を掛けようとした瞬間──


「お肉ぅぅうううっーー!!」


 と、なんとも可愛らしい元気な声が響いた後少女に伸ばしていた男の腕が突如失くなり、気が付けば血が溢れ出ていた。


「うあああぁぁぁぁーーっっ!!」


 自分の腕の状況を見た男は悲鳴を上げる。


「う~ん、期待してたのとちょっとちが~う。がっかり」


 ルビーのような赤い瞳に、まるでバラのように美しい赤髪の少女が、男の左腕を食べながら愚痴を溢していた。

「テ、テメェッ! な、何しやがる!」

 男は痛みを我慢し、ボロ布で失くなった腕を巻き反対の手で持ったナイフの切っ先を赤髪の少女に向け、声を荒げて言った。

「う〜ん、何の香辛料を使えば美味しくなるかな〜? こしょうとか? でもあれは貴重だし──」

 男の話には気にも留めず、赤髪の少女はそんなことを呟く。

「俺様のことをあまり舐めんじゃねえーぞ!」

 我慢が出来ず男は少女に向かって、襲い掛かった。


「食事の邪魔したね~?」


 赤髪の少女は不適な笑みを浮かべながら、男の攻撃を軽々と受け止める。


「はっ?」


 男は自分の攻撃を少女に受け止められ、素っ頓狂な声を漏らした。


 そして少女は笑顔でこう言った放った──


「いっただっきまーす!!」


 ガブリッと音を立てて男の腕にかぶりついた。

「い、いーでででで!!」

 噛まれた痛さのあまり男は悲鳴を上げた。

 赤髪の少女はそのまま男の右腕を引きちぎり、左手で男の心臓をひと突きして絶命させた。


「はほはえがはいへぇ(歯応えがないねぇ)〜」


 赤髪の少女は右手で男の腕を食べながら、男の反対の腕を引きちぎりニヤニヤと笑っていた。


 その様子を見ていた残りの二人の男たちのうちの一人は恐怖で尻餅をつき、もう一人はナイフを構える。


「バ、バ、バケモノッ!!」


 と言いながら、がむしゃらに斬りかかってきた。


「バケモノって……面白いこというじゃん」


 赤髪の少女は華麗な身のこなしで男の攻撃を躱しながら、


「あなたたちも豚や牛、鶏なんかの命を奪って生きてるのに、どうして私は人間を食べちゃだめなの? 教えてよ人間さん」


 赤髪の少女はたのしそうに男に問う。

「そ、そそそ、そんなの俺たち人間様がそいつらより上だからだッ!!」

 男は赤髪の少女にナイフで斬りかかりながら答える。


「そっか……なら、私はあんたたち人間より上の存在、そう私は食物連鎖の頂点よっ!!」


 赤髪の少女は、ニヤリと笑みを浮かべ高らかに言った。

まるで、自分が人間ではないかのように……


「そんな単調な攻撃じゃ、私には当たらないよ?」


 赤髪の少女は挑発しながら、男の攻撃を避ける。

「ちょこまか、ちょこまかと動きやがって……」


 男は攻撃が当たらず、息を切らしだんだんとイラツイていた。


「どうしたの、おじさん? こっちはまだ全然疲れてないんだけど?」

 少女は口元に手を当てて煽り挑発する。

「じゃあ、──これならどうだッ!」

 男は持っていたナイフを少女に投げつけた。

 そのナイフを赤髪の少女は避けたが、舐めて掛かっていたからかナイフが僅かにかすり、頬から血が流れた。


「きゃはははっ、あはははっ!! 血だ、血だ、血だ、血だ、血だーーッッ!!」


 赤髪の少女は自分の頬から流れた血を見て、狂ったように突然笑い出した。


「……っ!! し、死ねーー!!」


 血を見た途端、狂ったように笑い出した少女を見た男は再度斬りかかる…………が、それが当たることはなかった──


「……ぐはぁっ!!」


「おじさ~ん中々楽しかったよ~、で〜も、 そろそろ飽きて来たから……じゃあね~」


 少女は楽しそうに呟き、男の心臓に突き刺していた腕を引き抜くと、男は地面に倒れ伏した。

 地面に倒れた男の近くに、歩み寄り美味しそうに少女は男の肉を食べ始めた。


「あーむっ♡ うーん!! やっぱり脂肪が一%違うだけでもこんなに美味しさが変わるなんてっ!!」


「いっ、今のうちに……」


 最後に残った男は腰が抜けながらも、お肉て夢中の少女にバレないようゆっくりと四っつん這いになりながら逃げ出した。


 その刹那──ザシュッっと嫌な音が路地に響いた。


 何の音かと思ったが男はすぐに理解した。


「ゲホッ、ゴホッゴホッ!!」

 自分の心臓にナイフが突刺さっていたのだ。


「な〜に、逃げようとしてるの? お・じ・さ・ん♡」


 少女は、ゆっくりとこちらに歩いてきた。


「……っ。クッ、ソが……」


 男は最後にそう赤髪少女に溢して力尽きた。

 その様子を傍観していた一人の少女は、男たちを自分と同じくらいの少女が一掃したその姿に見惚れていた。






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