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ジュエリカ・コマンドネス  作者: Lewis "Uta" Graves
3/3

What a hell?



「ああ、────だ‼︎ 勇者様方が────された!」

 薄い意識に朦朧もうろうとする《さなか》最中、何者かの荒げたような叫んでいるような声が、恨めしいほどに耳に刺さってくる。

 冷たいコンクリートのような床の感触。鼻に突き刺さってくる香辛料のような香り。さっきまでいた戦場の雰囲気とは、大きくかけ離れて……

(そうだ……任務が…‼︎)

 体に充分な力が入らないまま、それでも今出せる最大限の力を使い、俺は勢いよく体を起こす。

 ホスルターからハンドガンを抜き、掠れた目を擦りながら、辺りを見渡した。


「……どうなって……やがる……」

 

 俺の目に写っているものは、本当に現実か?

 いや、そんなはずがない。これが現実なはずがない。


 石造の部屋の中に、黒いフードを被り魔杖のようなものを持った男達。まるでハロウィーンの魔法使いのようなコスチューム。そういう連中が数人集まり、俺の周りを囲っている。

 彼らの背後は暗くてよく見えないが、うっすらと、ある一人の男が見えた。その男は赤いマントに、豪勢な王冠。大量の指輪やネックレスを付けている。歳は60代ほどで、白く長い髭からは威厳すら感じてくる。それはまるで絵本に出てくるよな、王様の姿だった。


(なんだ……一体何が起きてやがる……ハロウィーンか? バカ言うな……ここは戦場だぞ……⁉︎)

「あんたら誰なんだ⁉︎ ここはどこだ⁉︎」

「お、落ち着いてください、勇者様……」

 

 パァンッ!


 石造りの建物の中を、乾いた銃声が響く。

「次は当てるからなッ‼︎ 」

 銃声に度肝を抜かれたのか、目の前の魔法使いの風貌をした男たちは一斉に怯え始め、一歩二歩と後退し始めている。

「勇者よ、混乱する気持ちもわかるが、まずは一度落ち着かれては如何(いかが)かな? 」

 後ろにいた王様のような男が、今度は口を開く。まただ、また《《勇者様》》だ。このクソ野郎どもはさっきから何を言っているんだ。

「あんたはッ?! 」

「我はこのジュエリカ王国、国王。シャルヘン・ブリト・ジュエリカ。そしてここは私の城の地下。勇者召喚の間である。」

 ジュエリカ? そんな国、地球にあったか? ……いや、それ以前に……

「その勇者召喚って何なんだよ⁈」

「文字通り、勇者を召喚することだ。こんな簡単なことも理解できなかったか? 」

「っ……テメェ……‼︎」

(限界だ……こいつら全員ここで殺すか? あとで軍事裁判にかけられるのは勘弁だが……)

「……ぐっ……ここは……」

 俺の2メートル程後方から、聞き馴染みのある声のうめき声が聞こえてくる。振り向くとそこにはAlpha1やAlpha2、さらにはSierraたちの姿があった。

 うめき声をあげているのは大尉だった。意識を取り戻したらしく、俺と同じようにハンドガンを抜いて辺りを警戒し始める。

「こ、これは……一体何が起こってやがる……」

(大尉、どうやらめんどくさいことになっているようですッ‼︎)

(ルカ⁉︎ ……こいつらはッ⁈)

(わかりません。敵ではないようですが……)

「そちらの御仁も、一旦武器を納めて話そうではないか。」

(……こいつは?)

(ジュエリカとかいう国の…国王だそうです。)

(ジュエリカ? )

(……ここは、こいつらに従ってみますか? )

 大尉は辺りを見渡し、ある程度の情報を探っている。

 相変わらず視界の中にたたずむのは、奇妙なハロウィーン連中と石造りの部屋。地面には魔法陣のようなものも見える。

(テレビのドキュメンタリー……或いは、コメディ番組の何か……のようには見えない。もしこれがテレビの何かなら、さっき俺が撃ったところでカットが入るはずだ。ならこれは……本当に召喚されて……? )

「ルカ……一度こいつらに従おう。武器から手を離すなよ。」

「わかりました。俺はこいつらを起こします。大尉はあの男を。」

「了解。」

 ピストルをホルスターに納め、仲間を起こすために声をかける。

(拘束なし。外傷なし。こいつらは敵対しているわけではない? ならなんのために……)

 脳みそのあちこちで『勇者』と言う言葉が、何度も何度も反芻はんすうし始める。

 基地で感じたあの違和感。作戦中に感じた悪い予感。家屋–4で見つけた日本の小説。最後の部屋にあった、デカい謎の機械。

 全ての点が、線となり、様々な可能性をかたどり始める。

「おいニコ、イーサン。起きろ。」

「ル、ルカ……? ッ! 作戦は⁉︎ どうなった⁈ 」

「わからねぇ……今は他の奴らを起こすことに集中しろ。詳しいことは大尉が聞いてくれている。」

 俺は自身の背後を親指で指す。そこには我らが大尉と王様の姿があるはずだ。

「……分かった。ニコ、他の連中を起こすぞ。」

 俺とニコ、そしてイーサンは、他の仲間達を起こし始める。

 持っていた装備は、全て部屋の中にあった。《《無造作》》に、だ。

 もし俺たちがあの兵器工場からここまで運ばれてきたのであれば、こんな風に無造作には置かれないはずだ。別の場所に保管されるか、どこかに立てかけられるか、置かれるか。

 現状から導き出される考察:


・1:『勇者召喚』が事実であり、装備と一緒に召喚されたがためにこのように無造作に散らかることになった。

   →あまりに非現実的。信頼性ゼロ。


・2:『勇者召喚』が嘘であり、戦場から運ばれた後、無造作に見えるように人の手によって散らかった。

   →なんのために? 殺すためならもう死んでいる。拷問をして情報引き出すためなら、装備は全て引き剥がされているはずだ。可能性としては低い。


・3:家屋–4の最後の部屋にあった謎の機械の爆発により、俺たちはすでに死んでいる。 

   →最も可能性がある。とすると、ここは地獄か、天国か。


(……いや、人を殺しておいて天国行きだなんて、ちょっと都合が良すぎるな。)

「ルカ、全員起きたぞ。」

「……装備を持て、大尉の元に集まるぞ。」

 かたわらに落ちていたライフルを拾い、薬室を確認。

(クソッ、死ぬ前に親の顔でも拝みたかったぜ。)

「なあ、ルカよ。」

「あ? どうしたよ、フィン。」

「俺たち死んだのか? さっきいた場所(作戦区域)と随分違うようだが。」

「さぁな。だが、どうやら俺たち、勇者様になったようだぜ? 」

「はぁ? どういうことだよ。」

「あそこ。豚みてぇに太った偉そうなおっさんがいるだろ。」

「ああ、あの。」

「ああ。あいつが俺たちのことを『勇者』と呼んでやがった。他にもほら、あいつを取り囲むローブの連中。あいつらが俺たちをここに『召喚』したそうだ。」

「……へぇ。」

 フィンは「俄には信じがたい」とでも言いたそうな表情だ。だが今に分かるさ。タイミングよく大尉と王様のような男が会話を終え、大尉がこちらに戻ってくる。

「どうでした? 大尉。」

 大尉は首を横に振り、眉をしかめる。

「駄目だ。連中の言ってることはまったく理解できん。……それより、あいつらが飯を振舞ってくれるそうだ。どうだ? 食うか? 」

「飯ですか。信用できそうですか? 」

「2度毒見役を通したとしても、まだ信用できんな。」

「……あいつらの目的も、なんもわかってないんだろう? 」

「いや、一つわかったことがある。」

 彼は自身の足元に視線を落とし、一度大きなため息を吐いたのち、言うことに躊躇うように口を開いてこういった。

「……連中が言うには、俺たちにこの国を、救って欲しいそうだ。」

「は、はぁ?どういうことだよ、大尉。」

 フィンが一歩前に出て、大尉に尋ねる。フィンは同じチームではあるものの、俺の属する班とは別の班、Alpha-2に所属しており、またその班長でもある。ゆえに彼にも、大尉と同等のプレッシャー、緊張感が、彼の肩に常にのしかかっているのだ。

「まあ待て、軍曹。とにかく今は情報が必要だ。連中の食事に参加して、上手いごと聞き出そう。」

「……了解した、大尉。」

「勇者達よ、何をしておる。こっちだ、早く来るのだ。」



*応接間*

 

 広く豪勢な応接間に広がる食器の音。不揃いではあるが、どこか心地の良い音。しかし食べ物に手をつけているのは、ドレスを身に纏った少女や、『品行方正』を生きがいにしていそうないけすかない青年。キング、クイーン、そのしもべ、その子供。

 この場にはあまりにも不恰好な軍服を身に纏った14人は、目の前に広がる豪華な食事には一切の手を付けず、ただただ食器の音色が鳴り止むのをひたすらに待ち続けていた。


(おいルカ、見てみろよこの肉。めちゃくちゃ美味そうだぜ。)

(毒見役に率先して立候補してくださるとは、さすがソロコフ様だな。ほら食えよ。美味そうだぞ。)

(……大尉がこっち見てる。めっちゃ睨んでるぞ。)

(……『絶対に食うなよ』って言いたそうな顔だな。食うなよ、ソロコフ。)

 身動きを一つたりともしない姿を気味悪く思ったのか、キングが口を開き、この静寂を切り開く。


「……勇者達よ、この食事はこのくに(いち)のシェフが作った最高傑作だ。毒は入っておらん。食え。」

「……悪いがその誘いに乗ることはできない。俺も隊員たちの人生を預かっているのでな。」

「貴様! 我が王の誘いを断るというのかッ⁉︎ 」

 突如、いけすかない青年が席を立ち、声を荒げる。大尉のセリフが琴線に触れたらしい。ははーん? さてはこの連中、ワガママなタイプだな? こりゃめんどくさいことになりそうだ。

「よい、ヴァルヴェル。勇者方も突然召喚され、戸惑っているのだろう。多少の無礼は許す。」


(無礼者はどっちだよ豚野郎)

 隣に座っていたソロコフとフィンが吹き出す。俺のジョークが刺さったようだ。

(黙っとけってお前マジで……)

「貴様らァ……‼︎」

 ヴァルヴェルと呼ばれていた、いけすかない青年。顔面はタコのように真っ赤に染まり、拳を握っている腕はプルプルと震えている。事実を言ったまでなんだが。

 この状況を見かねた大尉が割って入ってくるように、キングに質問を投げかける。

「……うちの仲間がすまない。ところでこの国を救って欲しいと聞いたが、何かあったのか? 」

「……ああ。実は───────




第4話:『What a HELL!?』終

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