表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

玉ねぎは内から外へ剥いてもキリがない

 果実を食害するムシはごまんといます。特に過保護な親ムシは果肉の深くに産み付けるものもいるそうで、しかし子は果肉のほんの少しを、外に出る通り道程度を喰うばかりで、むしろどうせなら丸ごといってくれた方が潔く快いと思うのですが、幼く小さいムシに世界を喰らえとは無茶な話です。みなは皮を脱ぎ捨て蛹となりあるいは番と羽ばたくのを自分はただ揺りかごで腐りながら思うだけとは。(A自治区長失踪事件で発見された日記より抜粋)


 こうして夜風にあたり、少し歩くコンビニまでの細い遊歩道は、明滅する街灯に浮き沈みする闇の中に何かを潜ませていそうな感じがある。酔いがつま先に巡りアタマに返るジンジンとした響きは傾いたグラスの飲みさしがとろとろうねる様にまたつま先へと沁みてゆく。すると頬のほてりはかえって鋭くなり、産毛と無精ひげの一本一本が指先のように風をつかみ、近所のノラのヒゲはいじめるべきじゃあなかったなと、治った手の甲を撫でたあとをまた風が撫でる。歩道の浮いたタイルに足を取られて急いで逆の足を出すと今度は自分の足に足を取られてしまった。ブートストラップはやはり会社の開発環境の中だけだ。砂を払いながら思い出す無茶なハード要件とスケジュールと仕様変更と……。度数だけの安酒がまだ不味くなるとは思わなかった。いくらインディーだのベンチャーだの言ったところで――ヤなこと思い出すと記憶の酒まで不味くなる。

 エナドリとチョコバーのストック数を思い出しながら陳列棚を眺めていると、パーカーのフードを深くかぶった男が入ってきた。ちょうど後ろにある雑誌コーナーからいくつか手に取りパラパラめくっているようだが何か探しているのだろうか。レジに行こうとしたとき呼び止められた。

「すィません、突然。ワタクシ売れない芸人やっております者ですが、週刊誌なんかでワタクシの写真か文章か、なんかで見たとか、ございませんか?」

男の顔は笑いにできるほどブスじゃないし、言葉もセリフをなぞるようでぎこちない感じがする。また迷惑な動画配信者か何かだろうか。

「あんたの顔も名前も知りませんよ。急いでるんで、それじゃ」

レジで会計中も店を出るときもその男はずっと雑誌をめくり自分の評判を探しているようだった。家の方向はその雑誌コーナーの前を通るのだが「見つけた」と男の声が聞こえた気がした。明るい店内を横目に見ると男はもういなくなっていた。奥の食品棚に行ったか帰ったか、まあどうでもいいか。しかし何か浮世離れした雰囲気を匂わせる言葉?恰好?ともかく一週間くらいは覚えていそうなヤツだった。

 隣の席と融合したエナドリ山は甘ったるい臭いを垂れ流している。何徹目か数えてないから分からないが眠気と肌寒いのに出る汗の感じからすると四日くらいか。曜日的には三か、いや過ぎた時間の話は生産性が無いが今から寝ずにやるのと少し寝るのとは間に合うか効率的かの有意義な時間を考えるよりもコピペでもいいからコードを埋めるためにカフェインを入れなくては。朦朧とする酔うより酷い頭では見えている画面が目に映ってちゃんと見えている画面なのかすら怪しいが幻視幻聴はたまにあっても分からないコードが分からないことは幻覚に珍しいので今は起きていて仕事しているように見えているのかとも思う。あるいはいよいよ自分が自分を操縦する感じは離人感と言うのかそれこそゲーム開発的職業病の発症だろうと思いつつ頬杖を突けば頬杖を突き、組みなおした足は組みなおされていた。もしかしたらシミュレーション仮説のプログラミングをコードに書いているのを動かして書かせている可能性だって条件分岐としてありうるか。なんてどっかで読んだような有名な哲学問題はどうしようもなかったら無意味で何も変わりなく変わらないのと違わないってことだろ。変な方向に悪態を飛ばしつつスッキリしてきたコードはもしかしたら夢なのかとも思えたが、次第に霧が霧散するかのように晴れ渡るころには何もかもが本当で、ただどこからかと訊かれたら多分あのコンビニから気配はあったような気はすると曖昧にしか答えられない。そして、どこまでと訊かれたなら、見つけてしまった外側から冴えてきた頭を今すぐアルコールで押し留めたい、願わくは押し戻したい欲求、本能、恐怖があった。今ここにこうして体がある。少し前と同じように。つまり、もう少しあるいはかなり先では、また、同じようになる。ああ、自分の心の声さえ恐ろしい。「クソッ あのインターフェース先月バックレた担当じゃないか」これは自分の内から出た声か? それとも外からの声なのか?

 この画面で動く「キャラ」に俺の声が聞こえているんじゃないのか

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ