魔王様の怒りを鎮めたのは一人の天才美容師でした
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品です。テーマは「天才」。
※再び、汐の音様(ID:1476257)から素敵な魔王イラストをお借りして書き下ろしました。
前回同様、この素晴らしい絵から連想した胸キュンな話を書く筈だったのに……またやっちまった……なんで……どうして……。
勇者一行は魔王城の最深部まで到達した。
しかし魔王は途方もなく強く、勇者達はなす術もなかった。
「ここは一旦退く!」
勇者が味方へ言った言葉を魔王は鼻で笑う。
「ふっ、ここでお前達は屍となるのだ。氷の牢獄!」
瞬時に何十本もの氷柱が宙に形成され、勇者達めがけて落ちてゆく。直撃は何とか免れたが周りを氷で囲まれ退路を断たれた。
「くっ、どうしたら……」
「私に任せて!」
そう言ったのは魔法使い。彼女は『上級魔法を使えぬ無能』と蔑まれていたが魔力の高さを買われ勇者に拾われた過去を持つ。
「最大火力の火球!」
「ハハハハ! 火球如きで我が牢獄を破……うわあああ!?」
魔王の高笑いと氷柱は部屋一杯に膨れ上がった火球によって消し飛ばされた。……が。
「やったか?」
「……赦さん」
「駄目だ、逃げろ!」
揺らめく炎の向こうに魔王の黒い陰を認め、勇者一行は結局逃げ帰った。
それからだ。魔王軍が明らかに人間界に侵攻してくる様になったのは。
魔王は「勇者一行を差し出せば侵攻を止めてやる」と声明まで出した。
勇者達は慌てた。このままでは人間の王に売られる。その前に魔王を倒すしかない。
今一度魔王城の最深部に辿り着いた彼らが見たものは、醜く姿を変えた魔王。
「小娘えええ! お前を八つ裂きにする!」
「きゃあああ! 火球!」
魔法使いに対して殊更に憎しみをぶつける魔王に、彼女は怯えて最大火力の魔法を撃つ。勇者達はその憎しみの理由がわかり、愕然としながらも隙を見て再び逃げ帰ったのだった。
三度目の挑戦。
勇者達はある人物を助っ人として連れていた。戦闘能力は皆無の為、彼を守りながらの魔王城攻略は難しかったが何とか最深部に辿り着いた。
「貴様ら赦さんぞ!」
「いや待て! まずはこの人の話を聞いてくれ!」
勇者が助っ人を前に出す。
「あらぁイイ男♪ でも酷い髪ね」
「何?」
「大丈夫、何とかしてあげる♪」
彼はカリスマ天才美容師。そう、魔王は火球で髪を焼かれチリチリになっていたのだ。一度目はまだ半分だけであったが二度目で完全に焼かれ、アフロ状態であった。
美容師はその凄腕で魔王の髪を前以上に美しくサラサラにした。月明かりを受け満足する魔王。
「よし、お前が魔界に留まるなら赦してやる」
「えぇ~アタシも生活があるし♪」
「では人間界と魔界の境界線に店を構えろ」
斯くして、魔王は人間と和平を結び、魔王様御用達の天才美容師の店は人間にも魔族にも大人気となったのだった。
めでたしめでたし。
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