2.猫のご飯
「ユーイ、美味しい?」
そう言って、彼は満面の笑みで私がご飯を食べる所を見ていた。
食べずらいので、自分の食事に目を向けてもらいたい。
彼が食事の準備に向かった後、私は深刻な問題がある事に気付いてしまった。
猫のご飯とは?
前世のようなドライフードならまだカリカリとスナック感覚で食べられるかもしれない。
でも、ここは異世界だ。生肉とか丸ごと生魚とか出てきたら、食べられる気がしないんだけど!
せめて焼いて!魚は切り身にして!とか猫の身でどう伝えればいいんだろう。
言葉が通じない事にもどかしさを感じながら、頭を悩ませる。
「おまたせ、一緒に食べよう」
私の心配は杞憂に終わった。
目の前に出された食事は、彼と同じ物だった。
野菜の入ったスープと少し硬そうなパン。
それから、口の広いカップに入った白い飲み物と、薄く切られたハムのような物が並べられた皿が目の前に並んだ。
どうやって食べるのかと、首をかしげて彼を見上げれば、何も言わずにパンを細かく千切ってくれた。
とりあえずパンを口に運んでみたけど、やっぱり硬かった。
ガリガリガリ、噛めば噛むほど旨味が出るけど顎が疲れそうだ。
「ユーイ、今日はパンをスープに浸して食べないのか?」
「ニャ?」
にゃんと!私はパンをスープに浸して食べていたの!?
でも口でパンをスープに浸したら顔が濡れちゃうよね……。
まさかと思い、片手を大きく広げパンに爪を引っ掛けて握り込んだ。
持ったパンをスープに浸して……あ、手で食べれた。
意外と器用に動く肉球がついた手を見て考える。
目の前に小さなスプーンとフォークも用意されてるんだけど、これも使えるのかもしれない。
まず、フォークを両手で持ってハムらしき物を刺して、フォークの先が上になるように持ち替えて口へと運ぶ。
やはり、見た目通り塩味を抑えたハムの味がした。
白い飲み物は牛乳で、両手でカップを傾けて普通に飲めたし、スープの中にある野菜は、スプーンですくい上げて食べる事ができた。
「はぁ、ユーイは食べてる姿も可愛いなぁ」
私がスプーンやフォーク使っても驚かないんだ……。
え、猫ってこんな事もできるの?
前世人の記憶があっても無理じゃない?
そう疑問に思いながらも、きっと異世界だから何でもありなんだと自分に言い聞かせ、気にしない事にする。
彼は私が食べ終わるまで食事に手を付けず、何度も『可愛い』と言いながら私を見ていた。
これが猫可愛がりってやつですか?