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第3話 いなり消失バグ起きたんですけど

 ────


 店を出て昼食を手にした僕は、神社の方へと足を進めていた。もちろんこのまま駅に戻るのも手ではあったが……店主の言う通り、こんなとこ普段なら絶対来ないし。それにちょっと狐の神様ってのにも興味が出てきたから、そこに行ってみたくなったのだ。当然、学校のことはほとんど頭から抜け落ちていたんだ。


「えっと……ここか?」


 神社にたどり着いた僕は、スマホに開いていたマップから顔を上げ、正面を見る。そこには石畳の階段が、はるか高く連なっていたんだ。この位置からは頂上は見えてなくて……これ100段近くはあるんじゃないのか?


「はぁ……マジかよ」


 その予想外の階段の長さに、僕はため息を吐く。でもここまで来て戻れる訳もなかったので……仕方なく僕は、その階段を1段ずつ上って行くのだった。


 ────


「あぁ……やっと着いた」


 最上段を上りきると、大きな鳥居が待ち構えていた。更にそれをくぐって進んでいくと、石碑や灯篭が並んでいて、奥の方に本殿が見えたんだ。


 それで辺りは木々に囲まれており、思ったよりも落ち着ける雰囲気の良い場所だった……だが、今の僕には森林浴を楽しむ気力などは持ち合わせていなかったんだ。


「はぁ……とりあえず座ろう……」


 僕は近くにあったベンチに腰かけて、一息ついた。そこでゆっくり辺りを見渡してみたが、人の気配は無かったんだ。まぁ、平日の昼間だし当然か……思いながら僕は買ったサイダーを開け、一気に口に流し込んだんだ。


「っ、ぱぁっ、ああーっ……!」


 炭酸の刺激が心地良い。火照った身体が冷やされ、体力が復活していくのを感じる。そうやって夢中でサイダーを飲み続けてると、あっという間に中身が無くなってしまった。ああ、あともう1本くらい買っとけばよかったな……まぁ水分補給は出来たし、とりあえずはいいか。


「せっかくならこれも食べよう」


 呟いて僕はパックのいなり寿司も取り出した。周りに人も居ないし、出たゴミも持ち帰ればいいと判断した僕は、ここで昼食を取ろうとしたんだ。


「よし」


 僕はパックを開き、いなり寿司を手に取る。そして口まで持ってきた所で────


「…………えっ?」


 持っていたいなりが突然《《消えた》》のだ。もちろんうっかり落とした訳でも、鳥とかに奪われた訳でも無い。ただぽっかりといなりだけが消滅していて、僕は元々いなりがあったであろう空間を、掴むような手の形をしていたんだ。


「ど、どういうことだよ……?」


 僕は困惑しながら膝を見ると、置いていたいなりのパックその物まで消えていたのに気付いたんだ。あまりの不可解な出来事に、僕は寒気がしたんだ……。


「…………」


 それと同時に少し怒りが溢れてきた。いやだって、僕の自腹で買った昼食が突然消えたんだぞ。そんなこと、易々と受け入れれる訳がないだろ。ともかく……この近くを探してみよう。


 そう決めた僕はこの現象を解き明かそうと、立ち上がって周囲を捜索し始めたんだ。左右は……特に問題はない。後ろは……灯篭が並んでいるだけだ。下は……砂利が敷かれているだけ。おかしな物が落ちている訳でもなかった。


「……」


 これは万事休すってヤツか……? こんな不思議な体験を誰かに話しても、信じてくれないだろうし……そもそも話す相手が居ないし。やっぱり謎のままで終わらせたくはないよな……。


 思った僕は、消えたいなりの捜索を続けたんだ。でも……あと見ていない場所なんて、もう上ぐらいしか残っていないんだけど。


「はぁ……」


 僕は可能性のひとつを消すためだけに、首を傾けて上を見た。「やっぱり何も無いな」と思うつもり満々でいたのだが……何かその光景に違和感を感じたんだ。なんか鳥居の上に何か見えるような……いや、鳥にしてはシルエットが大きすぎるし……。


 気になった僕は、その鳥居のある入り口の方に近づいて行ったんだ。すると段々その影は大きくなっていって。ちょっとずつ正体が分かってきたんだ────


「んー! やっぱりいなりは美味しいのぉー!」


「……」


 ────


 ……とまぁ、そんな訳で。ここで冒頭のシーンに繋がる訳なんだ。

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