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第1話 エモを感じていても、結局は孤独なんだな

 ────5時間前。


 僕は動かなかった。


『伏川高校前ー、伏川高校前ー。お出口は左側です』


 5月下旬。朝の通学電車内。駅に到着したことを知らせるアナウンスが流れてくる。その音声の後に扉が開かれて、同じ車両にいた制服姿の学生はぞろぞろと電車から降りて行くのだった……だが僕は動かなかった。


 その内の生徒の1人が、電車を出る時こちらを振り返ってきて、僕と視線が合ってしまった。その少年は何とも不思議そうな表情をしていたんだ……まぁそれはそうだ。僕らの通う高校の最寄りの駅は、まさにここなのだから。この紺色の伏川高校の制服を着てる者は、この場所で降りる必要があるのだから。


 ……だが僕は動かなかった。座席に座ったままでいたんだ。


 別に急に足が動かなくなったとか、そんな深刻な理由じゃない。ただ毎日同じようなことを繰り返す生活に飽き飽きしてしまって、学校に行くという行為に疲れてしまったんだ。


 ……こうやって言葉に表してみると、いかにもチープで皆が抱えていそうな悩みだな。でも多くの人が同じことを思っていても、僕みたいにそれを実行する者は少ないだろう。何故なら皆には理性が残っているから。ここでサボってしまったら、更に面倒なことになることが容易に想像出来るだろうからだ。


 でも今日の僕は違った。前日、ゲームのイベント最終日で夜通しプレイしていた僕は、眠気で想像力が欠如していたのだ。だから僕は「学校に来てないことがバレて、親に電話される」とか「無断欠席をしたことによって、要注意人物だと教師にマークされる」とか、そういった考えにまだ、たどり着けていなかったんだ。


『プーー』


 高い警告音が鳴り、電車の扉が閉まる。僕を見ていた少年も背を向け、学校へと進んだようだった。


 そうだ、それでいい。気にしなくていい。僕が学校に行こうが行かなかろうが、世界は平気な顔して回っていくんだ。僕が欠けていようが、誰も気にすることなんて、気付くことなんてないんだ……そう思いながら僕はまた進み始めた電車に揺られ、窓を眺め。今まで知らなかった路線の先を旅していくのだった。


 ────


「……嘘だろ?」


 終点までたどり着いた僕は立ち尽くしていた。何故かって……着いた駅がめちゃくちゃ寂れていたからだ。正面には塗装の剥がれたベンチ、その隣には錆びついた時刻表。自動販売機には売り切れの赤字がいくつも光っており、ゴミ箱からはペットボトルが溢れていた。


 考えるまでも無く、この駅はかなり長い期間整備されていないことが分かったんだ……ああ、終点駅がこんなにも田舎だったとは知らなかったよ。道理で乗客が俺以外居ない訳だ。


 無意味だと分かっていながら僕は辺りを見回してみるが、当然僕以外の人の姿は見られなかった。今思えば、この駅の3つ前くらいでもう俺の車両ガラガラだったもんな……みんなよく知ってるもんだね。はぁ……さーてと。


「どーすっかなぁ」


 ポツンと1人、ホームに立った僕はかなり冷静さを取り戻していた。ポケットに入れていたスマホを取り出して時刻を確認してみると、そこには『9:04』と表示されていた。9時過ぎ……これはもう1限が始まったことを意味する。確か今日の1限は体育だったっけ……うわ、早速僕が居ないことがクラス中にバレるじゃないか。


「……」


 いや、自惚れも大概にするべきだ。案外誰も気付かず、普通に授業が始まってるかもしれない。ああ、きっとそうだ。そもそもその答え合わせをする友達すら居ないし。だったら体育中で誰もいない教室にしれーっと入っておいて「最初から居たけど何か?」的な感じを醸し出しておくべきだろうか? 幸い、今すぐ来た駅を戻れば、2限には間に合う筈だ。


 うん、そうしよう。そうやって考えた僕はすぐに引き返そうと、時刻表を調べたんだ……えーっと次の電車は、電車は…………えっ?


「12時発……だと?」

 

 ……いや。いやいやいや、おかしいって。何で次の電車が3時間後なんだよ。そんなに乗客少ないの? ……少ないんだろうなぁ。僕は勝手にキレて勝手に納得していた。この間、僅か数秒である。


「はぁ……」


 僕はこの時点でかなり後悔をしていた……ああ、マジでこんなアホなことするんじゃなかったよ。一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすって銀さんも言ってたし、ホントにその通りだよ。勝手に感傷に浸って、孤独の高校生でしか得られないエモを感じて旅しようが……待っている現実は、教師のお叱りと親の失望だもんなぁ。


 ……ま。やってしまったものは仕方ないので、これからどうするかを考えよう。このまま無為にホームで3時間潰すのも手ではあるが、それはクールじゃない。というかクールどうこうの前に、そんなことしたら僕がまともでいられなくなる。何より僕は待つと言う行為が、とても苦手なのだから。


 それならせっかくだから駅から出て、町の散策でもしてみようか。まぁ、町と言うより村と言った方が正しいかもしれんが……そんなのはどうだっていいや。


 そうやって決めた僕は歩いて、1つしかない改札にICカードを押し当てて……この終点駅から出て行ったのだった。

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