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リア充死すべし慈悲は無い

発掘作品です。

彼女は困惑していた。

ただ一人困惑していた。


「どうして…?」


思わずそう呟いてしまうほどに困惑していた。

もっと言ってしまえば、困惑するのは今回が初めてではない。以前にもあった。


「どうして…屋上のドアが開いてないの…!?」


ガチャガチャとドアノブを捻って押し引きをするが、ドアはうんともすんとも言わない。当然だ。何故ならカギがかかっているのだから。カギがかかっているのに開いたら問題である。


「そんな……このままじゃ、推しのルートに行けないじゃない!!」


彼女にとってあんまりな事実に、思わず彼女はキーっと頭をバリバリとかきむしり、地団太を踏む。その姿は実に滑稽である。


そう、滑稽なのだ。彼女の姿をこっそり覗いている彼にとっては。


「フフフ……これで攻略対象の初期イベントをすべて潰したな」


そう言ってほくそ笑む彼はこの学園の教師をしている。担当は英語。発音が流暢であり、授業も分かり易いため、そこそこに生徒から人気である。


「哀れな主人公に転生した者よ……この作品には俗にいう悪役令嬢がいないからって油断したな? ゲームに登場しない名も無きキャラというイレギュラーを…」


そうそれっぽいことを言って彼は小さくつぶやいた。


―――リア充死すべし慈悲は無い。存在すること、それそのものが罪だ。






さて、傍から見れば不審者そのものの彼は言ってしまえば転生者である。そしてこの世界はとある乙女ゲームの世界なのだ。

その世界の名も無きモブキャラ、言うならば一般人。それが彼が転生した立ち位置である。

白状してしまえば、別に彼はそれで良かった。問題も何もない。男だから主人公――乙女ゲームなので当然主人公の性別は女である――に転生なぞ論外。TSマジキメェ。カッコよく言ってもオカマみたいなもんだろ。当然主要キャラもいやである。この手の作品の主要キャラあるあるな謎設定やら微妙な重い過去なぞゴメン被る。

だから名も無きモブキャラに転生は正に最良だった。普通に頑張って、普通に生きていれば何も問題は無いのだ。これを幸福と言わずしてなんと言う。


ならなんで作品の舞台の学園で教師してるんだよ、って話だが、これは単純に以前の高校から異動した結果に過ぎなかった。モブキャラなのだから、作品の修正力とかは関係ない。


しかし、しかしだ。この学園で今後起きる展開はハッキリ言って容認できない。

前世で見たニヨニヨ動画でのプレイ動画はハッキリ言って突っ込みどころ満載だった。

例えば――


授業中に何故か24時間開放されている校舎の屋上にある給水タンクの上で寝ている空色の髪の男子とか。(なお、ソイツはとある一流企業の御曹司な俺様。お前が偉いわけじゃないだろ。ついでに髪色は地毛。ついでに目は赤)



夏以外でもやはり24時間開放されているプールに裸ワイシャツで浮かんでいる金髪の男子とか。(なお、ソイツは江戸時代から続く医者の家系の不思議クン。不思議クンな医者とか不安でしかない。なお、髪色は地毛。ついでに目は青。外国の血は一滴も入っていない純日本人な模様)



校則で禁じられているバイクでの通学を我が物顔でやる革ジャンの紫髪の不良の男子とか。(なお、大型バイクでノーヘルなうえに無免許。コンバットナイフ所持という歩く法律違反。髪色は地毛。ついでに目は緑)



学校に来ているのに教室に行かずにそのまま音楽室のピアノに直行して放課後までピアノを弾き続けているピンク髪の男子とか。(なお、ソイツは天才音楽家家系に生まれた10男。ハッスルしすぎだろ親。なお、髪色は地毛。ついでに目はオレンジ)



学園の図書館の隠し部屋(!?)で創作活動を勤しんでいる若き天才作家な銀髪の男子とか。(どうやって隠し部屋なんて見つけた。というかなぜある。つーか授業出ろ。なお、髪色は地毛。ついでに目は紫)



もうツッコミどころのオンパレードである。

しかもキャラ設定でコレである。

こんな奇天烈な連中が、しかも全員ろくに授業に出ていない連中が、主人公と恋愛をやるだなんてふざけている。

というか曲がりなりにも学校は勉強をするところである。勉強しないなら帰れ。つかさっさと退学しろ。高校なんだからもう義務教育終わってるんだし。


ともあれ、この事実に彼はすぐさま行動を起こした。


屋上の常時閉鎖。

季節外でのプールの施錠、およびフェンスに有刺鉄線。ついでに水を抜く。

警察への突き出しによる退学処分。

成績不良による落第からの退学処分。

隠し部屋の完全封鎖。つーかなんだ、あの培養液の入ったデカい容器。


迅速な行動によって、二名ほど退学者が出たが問題ない。

残った攻略対象は一応授業に出ているようだ。


これにより主人公との接点が事実上なくなり、主人公はフラグを建てることは事実上できなくなった。なお、主人公も転生者であることは完全に偶然だった。


「非リアの妬みじゃないし? 普通に考えりゃおかしいのはアッチだし? というか俺は普通の教師人生を送りたいんだ。断じて恋愛する連中が妬ましいわけじゃないし。彼女いない歴=年齢とか関係ないし?あぁ、関係ないし…!!」


彼はそうぶつくさ言いながら職員室までの道を歩いていく。

彼の行動原理。それは言うまでもなく、嫉妬である。

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