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女性冒険者

 翌日になっても女性冒険者が目を覚ますことはなく、ジルたちはしばらくスぺリーナで過ごすことにした。

 アトラからの言葉も気になってはいるものの、どうしても放り出して旅を続けることができなかったのだ。

 そして──ジルたちが女性冒険者を助け出してから三日が経った時である。


「──……ぅぅ」


 メリとリザが教会の一室へ様子を見に来ている時に意識が戻ったのだ。

 リザは部屋を飛び出すと神父を呼びに向かい、メリは女性冒険者の手を握ると優しく声を掛けた。


「大丈夫ですか?」

「…………こ、ここ、は?」

「ここはスペリーナの教会です。あなたの名前を教えてくれませんか?」

「……フィア・アルプス」

「フィアさんね、私はメリよ。……フィアさん、無事で本当によかったです」

「……無事。私は、どうして、ここに?」


 フィアが質問を口にした時、リザが神父を連れて戻ってきた。

 神父は笑顔を浮かべたままフィアの顔色を診ると、問題ないと判断したのか二人へ視線を移して一つ頷いた。


「フィアさん。私はスペリーナ教会の神父でございます。今から一つずつ質問をしていきますが、とても辛い過去を思い出すことがあると思います」

「辛い、過去?」


 いまだに記憶が曖昧な状態のフィアを見て、メリはゴクリと唾を飲み込み覚悟を決める。それはリザも同じだった。


「堪えてください。そして、心の傷を少しずつ癒していきましょう」

「心の、傷……」


 それから神父は最初に当たり障りない質問から始めていった。改めて名前を言ってもらい、そこから年齢、職業、出身地などを聞いていく。

 そうしていくうちに徐々にではあるが質問を記憶を探る方向へと近づけていった。そして──


「では、あなたの友人の名前を教えてください」

「友人……友人……そうだ、ジェイド。グレイに、ハルク。……みんな、どこに行ったの? わ、私たち、パーティじゃないの? ねえ、みんな、どこにいるの!」

「落ち着いて、フィアさん」

「うるさい! 私は……そうだ、思い出した。私は、ジェイドたちと迷宮を見つけて、それで潜った。止めたのに、行こうって。そしたら、そしたら……あぁぁ、ああっ!」


 仲間の死を思い出したフィアは頭を抱えてベッドに顔を埋めてしまった。

 何故自分一人だけ生き残ってしまったのか。自分も死ぬべきではなかったのか。自分が、ジェイドを殺してしまったのか。

 フィアが生き残れたのは奇跡に等しい。オーガファイターに片足を握り潰されながら振り回され、自身の肉体でジェイドを粉砕してしまったのだから。


「フィアさんは、止めようとしたのね」

「わ、私がもっと強く、止めていたら、こんなことには!」

「フィアさん」

「ジェイドも、グレイも、ハルクも、みんな死ななかった!」

「フィアさん」

「なんで私だけ、生き残ったの? 助けたりしたの? 私もあそこで、みんなと死んだ方が──」

「フィアさん!」


 自暴自棄になっていたフィアを、メリが優しく、それでいて力強く抱きしめた。

 突然のことにフィアは自分を罵るのも忘れて動きを止めてしまう。


「……フィアさん。あなたが生き残ったのには、きっと何かしらの理由があるわ」

「……理由なんて、ない。たまたま、生き残っただけだもの」

「そんなことはない。私たちが発見した時、本当にひどい傷だった。それでもフィアさんは生きていた、生き残ろうとしていたの。それにはきっと何か理由がある、意味があるわ」

「……私が生き残った、理由?」

「そう、理由」


 暗く淀んでいたフィアの瞳に、少しずつ生気が戻り始めている。


「私、ジェイドの指示で、逃げ出そうとしていたの。だけど、オーガファイターに待ち伏せされて、死んだと思った。足を掴まれて、痛かった。それに、振り回されて、私がジェイドを……」

「そう、辛かったね、怖かったね」


 語り始めたフィアに対して、メリはずっと優しい言葉を掛け続けている。

 その言葉に背中を押されているのか、フィアの言葉も徐々にではあるが滑らかになっていく。


「だけど、意識が朦朧とする中で、ジェイドにぶつかる直前だったのに、あの人は……私を避けなかった。それどころか、受け止めようてしてくれた。それだけは、間違いないのよ」

「ジェイドさんは、フィアさんを助けようとしていたんだね」

「そんな気がするの。自分が死ぬかもって時に、変な人なんだもの。でも、だからこそ──好きだった!」


 最後はメリの胸の中に顔を埋めて泣き出した。

 大粒の涙がしばらく止まることはなく、メリはずっとフィアを優しく抱きしめているのだった。

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