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迷宮⑩

 何が起こっているのか、それはこの場にいる誰にも分からなかった。

 だが、危険なことが起きるだろうことは誰の目から見ても明らかである。


「……ジ、ジル君! 今の内に帰還玉を使って上層へ戻ろう!」

「はっ! わ、分かりました!」


 ヴィールの指示を受けてメリたちの下に戻ったジル。

 遅れてヴィールもやってくるとすぐに帰還玉を使用した。だが――


「……な、なんで戻れないんだ!」

「まさか、五階層以上も下に来てしまったということか?」

「ど、どういうことですか?」

「帰還玉というのは、五階層ごとに任意の場所を指定しておかなければ使っても意味がない。ここが転移陣に乗った二階層から五階層以上も下なら効果を発揮しないんだ!」

「そ、そんな!」

「帰還玉は諦めるしかないみたいだな。オーガファイターが、出てくる!」


 ジルは帰還玉で上層へ戻ることを諦め立ち上がるとジルヴァードを構える。

 ヴィールもシルスライドを握り直して前に出た。


「メリ」

「分かってるわ。大きい魔法を初手で放つ! 今度は、出し惜しみはしない!」

「頼む」


 黒い霧がオーガファイターへと集束、そして弾けて広がると――中から別の魔獣が姿を現した。


「アシッドレイン!」


 魔獣の上空に毒々しい色の水球が顕現すると、その一帯にだけ豪雨を降らせた。

 その一粒一粒が鋭利な槍となり、そして触れた者を溶かす強酸になっている。

 アシッドレインの範囲外にでなければ絶対に助からない上級魔法をメリは行使していた。


『グルオオオオアアアアアアッ!』


 それは痛みに対しての悲鳴だったのか、それとも自身を鼓舞する咆哮だったのか。

 ジルたちはその声を聞いた途端に何故か足が竦むような感覚を覚えていた。

 ――絶対強者の大咆哮(ハウル)

 ジルとヴィールはなんとか動ける状態にはあったが、それでも本調子とは程遠い状態にまで落ち込んでいる。

 メリは何とか魔法を維持しているものの、この場から動くことはできなくなっていた。

 そしてリザは――


「はあ! はあ! はあ! はあ!」


 呼吸をすることが困難となり、胸を押さえながらその場に膝を付いてしまう。


「くっ! リ、リザ!」

「……ヴィールさんは、三人のことをお願いします」

「ジル君、何を言っているんだ!」

「父さんから、聞いたことがあるんです。大咆哮を受けて混乱状態に陥った人には、信頼できる人が寄り添ってあげれば回復するって」

「し、しかし……」

「メリ、すまないが魔法での援護を頼めるか?」

「も、もちろん、だよ!」

「……リザの意識が戻ったら、僕もすぐに加勢する!」

「お願い、します!」


 ジルは止まらない汗を拭いながら一歩前に出る。

 魔獣はアシッドレインの中から動いていない。普通なら強酸に溶かされて死んでいてもおかしくはないのだが、豪雨に移るシルエットはいまだにその場で立ったまま動かない。

 メリへ振り返りお互いに頷くと、新たな魔法が発動された。


「セイントヴェール! ジル、これでアシッドレインの中でもダメージなく動けるよ!」

「あぁ、助かった!」


 魔力の衣に包まれたジルは一気に駆け出すとアシッドレインの中へと飛び込んで行く。

 そして――見てしまった。

 目の前にいる魔獣が先ほどまでのオーガファイターではなく、さらに上位種に進化した魔獣になっている姿を。


「こいつは――オーガキング!」

『……コロス、ニンゲン!』

「まさか、こいつも人語を!」

『グルオオオオアアアアアアッ!』


 オーガキングは魔法も何も使っていなかった。

 その身をアシッドレインに晒しているのだが、強靭な皮膚が強酸の浸透を妨げ、ダメージを皆無にしている。

 この事実をメリに伝えるべきだということは理解しているが、ここで後退してしまえばオーガキングの標的がジルから変わる可能性もあった。


「ここで、決めてやる!」


 やるべきことは決まっている。そのための策もいくつか考えている。それらが通用するかしないかを今は考える必要なんてない。


「俺ができる全てを、全力でお前にぶつける!」

『コロオオオオオオスッ!』


 降りしきる強酸の中、ジルとオーガキングの戦いの火ぶたが切って落とされた。

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