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いざ、迷宮へ

 ついにスペリーナを経つ日がやって来た。

 ジルとメリは一時の滞在だったので特別な準備は必要なかったのだが、リザとヴィールは異なってくる。

 家があり、仕事があり、付き合いがある。


 特に大変だったのがリザだ。

 家を長く空けることになるので不要な食材は挨拶がてら近所に配って回り、商人ギルドに声を掛けて定期的に屋敷を掃除してもらえるよう手配する。

 もちろん無報酬というわけではなく、やって来た家政婦には相応の給金がリザのギルド口座から支払われる仕組みだ。


 さらに仕事関係でも挨拶回りを行った。

 贔屓にしてくれていた冒険者、近所のお客さん、必要な素材を卸してくれていた業者など、リザの鍛冶屋を利用してくれている人は多いのだ。


 ヴィールは冒険者に戻ったことで仕事に関しては問題なく、家に関してもリザの屋敷に移り住む予定だったことから引き払う準備も進めていた。

 やることと言えば良くしてくれた人たちへの挨拶回りくらいだった。


 昨日から今日の午前中まで時間を掛けて、全ての用事が終わった。

 北門が見えてきたところで、見覚えのある人物が門の前に立っているのが見え、ジルとメリは嬉しくなっていた。


「ピエーリカさん!」

「ゼルド様まで!」

「見送りですか、ギルドマスター?」

「あぁ。三人には私から依頼をしたようなものだからな」


 エミリアだけではなく、ゼルドまで来ていたことにヴィールは驚いていた。


「だが、まさかリザ君まで行くとは思わなかったよ」

「パートナーと弟分に妹分が行くって言うなら、私も行かないといけませんよね」

「挨拶に来られた時はビックリしたんですからね、リザさん!」

「あはは、ごめんね、エミリア」


 親友と呼べる関係を築いているリザの出発に、エミリアは涙を浮かべている。


「ちょっと、泣かないでよ! 今生の別れになるわけじゃないんだからね!」

「そうですけど、いきなり過ぎなんですよ」

「……もう、ありがとね」


 リザはエミリアの涙を拭い優しく抱きしめた。

 誰かからこれだけ大切に思ってもらえるリザのことを、ジルは羨ましく思う。

 これはリザがスペリーナを拠点にして仕事へ真面目に取り組んでいたからだろう。

 もちろん、ヨルドのことで手を組んでいたからという理由もあるだろうが、それだけでは涙を流すほどの仲にはなれないと思っている。


「……よし、もう大丈夫だね!」

「……すみません、大丈夫です」


 腕をほどきエミリアの顔を見つめながら満面の笑みを浮かべたリザ。

 つられるようにしてエミリアも笑い、振り返って三人に大きく頷いた。


「それじゃあ、俺たちは行きます」

「お世話になりました!」

「いってきます、エミリアさん、ギルドマスター」

「またね、エミリア!」


 四人がそれぞれ声を掛けて手を振る。


「気をつけて行ってこい」

「また戻ってくるのをお待ちしていますね!」


 二人が激励と再訪で応える。

 こうして、ジルたちはスペリーナを後にした。


「……本当によかったんですか、ギルドマスター?」

「何がだ?」

「ジル君やメリちゃんは仕方ないとしても、ヴィールさんはスペリーナでも貴重な二級の天職だったじゃないですか」


 残された二人は冒険者ギルドに向かいながらそんな会話をしている。


「ヨルドが死んだ今では、ヴィールがスペリーナの最強戦力だったことに間違いはない」

「でしたら──」

「だが、それ以上に私は彼に償いをしなければならないのだ」

「償い、ですか?」

「あぁ。行動を起こしてくれた君なら分かるだろう?」


 ヴィールはゼルドの息子で二級の天職を持っていたヨルドの愚行によって、一時期は冒険者を追放されていた。

 ゼルドの差配によって冒険者に復帰することができたヴィールだが、その間の時間を取り戻すことはできない。


「私は彼に、冒険者としての全てを経験してほしいと思っているんだよ」

「……そうでしたか」

「それに、ヨルドがいない今なら、二級の天職を持つ新人がやって来ることもあるだろう。その時に大事に育ててあげれば、ヴィールが戻ってくるまでの穴を埋められると考えているよ」

「無用な心配でしたか、失礼いたしました」

「いや、これからも気になることがあれば発言してくれ。私だけでは気づけないこともあるだろうからな」


 冒険者ギルドの雰囲気も昔と今では全く変わっている。

 良い方向へと向かっているのだ。

 ヨルドに与していた職員は処罰され、大きな配置転換も行われた。

 今のエミリアとゼルドのように、ちょっとした世間話もできるほどに雰囲気は良くなっている。


「……スペリーナの冒険者ギルドを、私たち職員を、よろしくお願いいたします」

「任せておけ。これでも元翠玉(エメラルド)等級の冒険者だからな」


 ニヤリと笑みを刻んだゼルドに苦笑を浮かべたエミリア。

 二人は冒険者ギルドに到着すると、そのまま業務に励むのだった。

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