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閑話:一二人の英雄

 ──彼は、一級の天職を授かっている。

 ──彼は、一二人の英雄(トゥエルブヒーロー)の一人だ。

 ──彼は、国家騎士である。


 それ以上でも、それ以下でもない。

 彼は、彼である。


 そんな彼だが、天職によって様々な恩恵を与えられているけれど、預言者や占い師のように自分以外のことに関して知り得る立場ではない。

 しかし、彼は何かを感じ取っている。その何かというのは──


「……強者が、生まれたか?」


 ──彼は、強者である。

 ──彼は、戦いを求めている。

 ──彼は、自分を殺してくれる相手を探している。


 そんな彼が感じ取った強者の気配。

 それはヴィールだったのか? いや、違う。二級の天職など、彼から見れば山のようにいるのだから。

 それはメリだったのか? いや、違う。彼は強者を求めているが、遠距離から撃ち合う戦いには興味がない。

 それはジルだったのか? その通りだ。


「……この感覚、以前にも感じた事があった気がするな」


 彼が感じている強者の気配は、天職など関係がない彼特有の感覚だった。

 そして、以前に感じたと言っているそのタイミングで、ミリアが暗黒騎士(ダークナイト)の天職を授かっていた。

 彼はそのことを知らないが、それは関係のないことだ。

 なぜなら彼が求めているのは、ただ強者のみだから。


「……せめて、俺が生きている間に出会いたいものだな」


 彼は大剣を眺めながら刀身に映る自分の表情を見つめている。

 その表情は自然と笑みを浮かべ、その後には獰猛なものへと変わった。


「我、ガジェット・バルザリオンの名のもとに、出会えた暁には命を賭した殺し合いをしようではないか!」


 一二人の英雄が一人、ガジェットは愛剣であるユグドラシルを眺めながら独り言を呟くのだった。


 ※※※※


 ──彼女は、一級の天職を授かっている。

 ──彼女は、一二人の英雄(トゥエルブヒーロー)の一人だ。

 ──彼女は、大規模クランを運営する金剛石(ダイヤモンド)等級の冒険者である。


 それ以上でも、それ以下でもない。

 彼女は、彼女である。


 そんな彼女は、風の噂でこんな内容を耳にしていた。

 それは耳を疑うような噂なのだが、彼女には嘘ではないと確信を持っていた。


『──スぺリーナに魔族が出現!』

『──衛兵と冒険者総出で撃退!』

『──謎の冒険者現れたって本当?』


 謎の冒険者。

 彼女は謎の冒険者が現れたのは偶然ではなく必然だったのだと確信を持っている。


「へぇー、これってもしかして、もしかするのかな?」


 彼女は冒険者だ。金剛石等級の冒険者だ。

 多くの冒険者と顔見知りであり、情報網はとても広い。

 その情報網の中には同じ一二人の英雄も含まれているのだが、彼女が確信を得るに至った理由となる一二人の英雄の一人は情報をくれるような人物ではない。

 情報はくれないが、その人物の生い立ちが確信を得るに至ったのだ。


「ミリアちゃんも気づいているのかな? 似たような人が現れたってこと」


 ──彼女は、ミリアを知っていた。

 ──彼女は、ミリアの友人だ。

 ──彼女は、ミリアの生い立ちを知っていた。


 ミリアのことを知っているからこそ、風の噂でスぺリーナのことを知った時には自然と胸が高鳴った。


「ミリアちゃんと同じ境遇の子がいるなんて……知り合いになれたら嬉しいな」


 彼女はミリアのことをとても、とても心配している。

 一二人の英雄にも選ばれる実力者なのだからそう簡単に殺されることはないだろうと分かってはいるものの、単独行動では予想外の出来事に遭遇してしまうと誰の助けも借りることができないのだ。

 彼女は、ミリアが誰かとパーティを組んでほしいと心の底から願っている。

 だが、それが自分ではないことも理解していた。


「私じゃあ、ミリアの力になれない。同じ境遇の子なら、同じくらいの力を手に入れているはずだもんね」


 彼女は立ち上がる。自らの目で謎の冒険者を見つけるために。

 彼女──エリン・マジルーカは愛杖であるエーテリオンロッドを握りしめてクランの自室を後にした。

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