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天職の再確認

 神の像から淡い金色の光が立ち上ぼり全体を包み込んでいく。

 誰もが経験したことのあることだろう、金色の光は神の像から離れてヴィールに降り注ぐ。

 ジルの時には──三級の天職の時には見られなかった現象が起こる。


「ひ、光が、舞い上がった?」


 三級の天職の時には光が降り注ぐだけで終わりなのだが、今回は降り注いだ光がヴィールを中心にして舞い上がってきた。


「ほほほ、これは二級の天職ですな」

「……に、二級、ですか?」

「そうじゃが……んっ? 違うのかい?」


 ヴィールの元々の天職は槍術士(ランサー)で三級の天職だった。

 それが二級の天職に進化したのだから驚くのも無理はない。


「それで、二級の何の天職なんですか?」

「なんじゃ、お主がせっつくでない。ヴィール・フォルダー、お主の天職は──二級の銀槍騎士(シルバーランサー)は」

「……銀槍騎士」


 二級の戦闘職である銀槍騎士。

 槍術士の上位天職であり、槍を使った戦闘でその真価を発揮する。

 ヴィールが実感したように自身の反応速度が上がるのもそうだが、一番のメリットは身体能力の高補正だろう。

 力強さ、速度、耐久力などの高補正がディアドラに外皮に傷を作り、攻撃に耐えきることができたと言っていいだろう。


「す、凄いですよ、ヴィールさん!」

「本当に、凄いです!」

「あ、ありがとう、ジル君、メリちゃん」

「んっ? ……んっ?」


 事情を知らない神父だけが首を傾げ、じろりとギルドマスターを睨んでいる。


「……あとで説明します」

「……絶対じゃぞ?」


 溜息を漏らしながら、ギルドマスターはメリに前へ出るように伝える。


「は、はい!」


 元々が二級の高魔導師(ハイマジシャン)だったメリが進化したらどうなるのか。

 メリもそうだが、ジルもドキドキしながら儀式の結果を待っていた。


「それでは始めるぞ」


 最初はヴィールと同じで神の像から淡い金色の光が立ち昇っていき、その光がメリへと降り注ぐ。

 同じ二級の天職であればここで光が舞い上がるのだが──


「きゃあっ!」


 だが、次に起きた現象はギルドマスターと神父以外は見たことがなかった。

 発光が激しくなり、さらに数を増して部屋中に溢れ出したのだ。

 目の前の減少からは三級でも二級でもない天職がメリに授けられたことが誰の目に見ても明らかだった。


「……おぉ、これは、本当なのですか、神よ!」


 誰よりも先に天職を知ることができた神父が両手を額の前で組み歓喜の声をあげている。

 単に一級の天職だった、ということではこれほどの反応を見せないだろう。この場にいる全員がメリの天職に注目していた。


「おぉぉ、メリル・ブライトよ。お主の天職は──一級の賢者(ソロモン)じゃあ!」

「……ソ、賢者?」

「おぉぉ、スぺリーナで新たな賢者が現れた、これは運命じゃ!」

「……メリが、一級の、賢者?」

「……ジ、ジル」


 喜びの声をあげている神父とは異なり、メリとジルは困惑していた。

 メリは一級の天職というだけでも驚きだったのだが、それが賢者——アトラと同じ天職ということでさらなる驚きを覚えている。

 一方のジルは幼馴染であるメリが突如として一級の天職になってしまったことで、置いて行かれてしまった感じを受けてしまう。


 ジルとメリ。

 パペル村から一緒に出てきて、一緒に冒険者となり、一緒に困難を乗り越えて、生き残ってきた。

 ここでお互いの関係にほころびができてしまうのかどうか。


「……メリ、おめでとう!」

「……ジル、ありがとう!」


 もちろん、そのようなこと起こりはしない。

 天職を授かったばかりのジルであれば嫉妬することもあったかもしれないが、今の二人は幼馴染というだけではなく、一緒に死線を潜り抜けてきた戦友であり、心と心がつながっている親友なのだ。


「ブ、ブライト様よ! お主はスぺリーナにて我々を導いてくれるのだろう? そうじゃろう?」

「えっ! あの、その、私は冒険者で──」

「何を言っておる! そんなもったいないこと言わんでくだされ! 賢者ブライト様、あなた様は──ぐえっ!」


 興奮する神父の襟首をあろうことか掴み上げてしまったのはギルドマスターだ。


「あー、すまなかった、メリル君。神父様よ、仕事は終わったので出て行ってくれるかな?」

「き、貴様! 神父である儂になんという愚弄を! 降ろさんか、そして出て行かすな! おい、おーい、止めん──」


 ──バンッ!


 ギルドマスターは神父を外に放り投げるとドアを閉めて鍵まで掛けてしまった。


「──貴様! 罰が下るぞ! それと、絶対に理由を教えるんじゃぞ! そうでなければ、付きまとうからのう!」

「はいはい、分かりましたから、今日は帰ってください」

「──ぐぬぬっ! 覚えておれよ!」


 ドスドスという大きな足音が離れていくのをドア越しに聞いて、ギルドマスターは大きく溜息をついた。


「……本当にすまない、メリル君」

「いえ、その、ありがとうございました。でも、よかったんですか?」


 神父の扱いがあまりにもひどかったのでメリは心配になってしまった。


「あぁ、あのやり取りはいつものことだから気にしないでくれ」

「は、はぁ」

「それよりもだ。ヴィールは二級の銀槍騎士。そして、メリル君は一級の賢者か」

「……なんだか、すごいことになっちゃったわね」


 蚊帳の外だったリザが呆れた声を漏らす。


「でも、あの神父様を見ていたらジルが再確認をしなかったのは正解だったかもね」

「そうだな。天職が無い、なんてことになったら何を言われるか想像もつかないよ」


 そして、メリの言葉にジルは激しく同意を示していた。


「二人の天職が進化していることは分かった。メリル君は先ほども言っていたがそのまま冒険者としてジルベルト君と活動するのだろう?」

「は、はい!」


 ギルドマスターの質問にメリは力強く頷く。

 そして、全員の視線がヴィールへに集まった。

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