表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/96

第五九話 ニッターへの補給(ニッター支持フレーム、補給作業、女性生理)

前話は、第五八話 タンカーとニッター到着(食事情、タンカー、ニッター、売店)です。

 稼働〇一日目、十五:制御、十六:休み、十七:補給、十八:足場、十九:足場、二十:足場。


『グーン、見てみろ』

『ウッス』


 〇〇〇〇(マルマルマルマル)の交代後、グーンは船長と一緒に船の荷台から、ニッター(スタンダードサイズ()パイプフレーム()ニッター()、規格寸法単管足場織り機)が足場を編んでいく様子を上空から眺めた。

 ニッターがすでに稼働しているというのに、十五号船の周りに大勢の作業員が集まって、十五号船を中心に何かを作ろうとしている。


『アレ、何作ろうとしてっか、お前ガッコで習ったか』

『いえ』

『そっか。ありゃな、ニッター支持フレームがタレんの防ぐための、追加フレーム作りだ。今は要らねぇけど後で必要になるモンを、今から作ってんだ』


 十五号船から赤道リングに直行して生えているフレームは、それぞれフレーム長の中ほどにニッターを噛ませている。この支持フレームには様々な利点がある。


 一、十五号船の電力、制御信号の他、運動エネルギーも伝達できる。

 二、単一の軌道周回オブジェクトとして計算できるようになる。

 三、ニッターにかかる遠心力と引力のベクトルのずれを、吸収して支える。

 四、精度の高いニッターの横移動ができる。


 しかし欠点もある。


 一、引力や遠心力でフレーム自体がたわむ。

 二、フレーム基部にニッターの重量分の応力が集中する。


 この欠点を潰すために、フレーム自体の補強工事をしなければならないのだ。

 今は単管パイプ三本で間に合っているが、ポッキリ折れてから慌てては遅いのだ。


『直接の建設じゃなく、建設のための建設ってことッスね』

『そ。完成したら撤去すっから無駄に見えっけど、あれが大事なんだ』


 十五号船の周りには、一辺が五メートルの正四面体がいくつも折り重なった、頑丈そうなフレームが出来つつあった。しかしそれだけではなく、十五号船の周回前方と後方にもブームが伸ばされていた。いずれこのブームをも一辺とした巨大なトラスが作られて、緯度が上がってズレていく引力と遠心力バランスを強引にねじ伏せることだろう。

 それを作るのはグーンを含めた作業員なので、全く他人事ではないのだが。


 荷台から船内に戻った船長とグーンは、サルバが温めた第一食に迎えられた。


「さっきソフィ姐さんがタンカーから買ってきた保存食、早速温めてみたっすよぉ。味見しましょ」

「おう、そうだな。どれ」


 ロリエも交えて四人で食事の挨拶を行い、食べ始めた。


「んー、ビミョー」

「美味からず、不味からず、ッスね」

「元は高価な軍払い下げのレーションと、場末の安いレトルトを比べちゃダメだぁよ」

「サル、残りやる」


 たぶんこれを温めたのが、あのフードコートの日替わり定食なのだろう。確か一食当たりの販売価格が四ダラーだったはずだから、九ダラーの定食は倍以上で売っていたことになる。もっともこの保存食に味噌汁は付いていないので、そのぶん追加ということだろうが。

 そんなわけで、食えなくもない程度に美味しくない食事を済ませ、いささかテンションが低いまま食後となった。


「先輩、タンカー見に行ってみるッスか?」

「んー、どうせ明日は休みだから、そん時に行ってみようぜ。正直金欠だし」

「ウッス」

「それより鳶試験だ。キッチリ合格しねぇと給料上がんねぇからなぁ」


 第一回補給(補給一)を控え、〇二〇〇(マルフタマルマル)には船長の操船によって資材置き場軌道の資材パッケージを受け取った。

 その間サルバは鳶試験の実技対策をしていたが、グーンは操縦席から作業の流れを見学させてもらった。


 〇二三〇(マルフタサンマル)には補給一だ。ロリエが操船とロボットアーム操作を担当し、船長が船外活動を担当するコンビは、さすがの連携を見せつけた。

 時間外ではあるがグーンは船長の下回り仕事を見学するために、あえて外に出ていた。


『船長、このニッターの資材マガジンって、ぶっちゃけただのカゴっすよね』

『そうだな』

『すごくジャムり易そうに見えるんスけど、なんでこんなカゴになってるんスか』


 そこにロリエの操作によるパイプの補給が雨のように降ってきた。宇宙空間なので音はしないが、さぞや喧しいことだろう。そして微妙にナナメになったパイプに弾かれて他のパイプがナナメになり、キチンとマガジンに装填されないジャムが発生した。

 そこに船長が、手に持った二メートルほどの足場パイプの切れっ端で、ナナメになったパイプを適正位置に押し込んだ。ジャムは解消し、次から次へと降ってくるパイプはまたナナメになっては船長に直され、やがて全てのパイプがカゴの中に収まった。


『こんな風に、パイプを突っ込んでジャムを直せるように、スキマが空いてるのさ。ホレグーン、紐受け取れ』

『了解ッス、受け取りました。手を突っ込んじゃいけないってのは知ってたッスけど、パイプは良いんスね』

『メーカーの推奨使用方法じゃ、一本一本手で装填するように書かれてるんだけどよ、やってらんねぇだろ。今までこの方法で問題が起きたりはしてねぇから、いんじゃねっかなってな。ホレ次の紐』

『ウッス、受取、装着、できました』


 資材マガジンがカゴなのは、メーカー純正パーツではなかったせいらしい。

 装填が終わったら、それらパイプの山にバネ紐をかけて終了した。無重力での漂流防止と装填口へのパイプ流し込みのためだ。


『それより水と油だ。まだ減ってるはずがねぇけど、今のうちにチェック方法を教えといてやんよ』

『ウッス』

『ほれ、ここの覗き窓を懐中電灯で照らすと、水圧フロートの位置がわかるんだよ。隣は潤滑油の油圧フロートだ』

『なるほどッス』


 船長の持つペンライトに照らされて、フロート位置が確認できた。冷却水も潤滑油もほぼ満タンだ。


『んでこれが減ってたら、ここのバルブと水パックのバルブを合わせて、パックを絞って給水するんッシタよね』

『おう、そうだ。あとコレな、ゴミ袋』


 パイプのカッティングにより、鉄ゴミが出るのだが、それらは全てゴミ袋に入れられてニッターの排出カゴに溜まっていく仕組みになっていた。ゴミをまき散らすわけにはいかないメインベルトの資源事情と、宇宙デブリに対する配慮のためだ。


『ゴミ袋のストックはここに入ってんぞ。ゴミ袋は一杯まで貯めようとせず、補給のたびに新しい袋にかぶせ直すように心がけろ。ゴミがオーバーフローするとニッターが自動停止すっから、再稼働に何時間か無駄が出来ちまう』

『ウッス』


 資材の補給を行うポイントを教えて貰い、グーンは船長とともにニッター表面を蹴って船に到着した。そのまま回収した鉄ゴミを荷台のパッケージ空き容器に収めて、エアロックをくぐって中に入った。


「おかえりっすぅ」

「おう、ただいま」


 出迎えはサルバのみだ。ロリエは操船の真っ最中だからだ。

 ニッターに異常が出た場合に対処しやすくするため、担当の船は安全距離ぶん離れた中での最短距離にいなければならない。それは足場の低軌道でも資材の高軌道でもない、中間ほどの軌道となる。補給後すぐは船を動かす時間に割かれるため、操縦士が操縦席(コックピット)を離れて歩くわけにはいかなかった。


 その後は、サルバもグーンも鳶試験の問題のおさらいだ。

 そして頭を使って眠くなった夜勤の二人は、ロリピストンを繰り返した。今は秒間二・五往復くらいなら物音を立てずに往復できるようになっていた。グーンはそのテンポに会う曲を口笛で吹きながら、三曲分くらいロリピストンを楽しんだ。

 人力リアクションホイールのクランク運動も、ただ回すだけではなく、スクワットのようにしてみたり、壁に足を着いて石臼挽きのような動きでやってみたりと、刺激する筋肉の部位を変えて運動した。

 そうこうしていると、〇五〇〇(マルゴーマルマル)の補給二が近づいていた。ロリエの操船によって資材の軌道に移り、ロボットアームで資材パッケージを掴んで、再び足場の軌道に戻ってきた。

 グーンは補給での下回り仕事を、実際にやらせてもらった。パイプのジャム直しは、ナナメになったパイプの突き方ひとつで復帰したり、余計酷くなったりしたが、反対側に回った船長がパイプで直してくれた。何度か失敗しつつなんとか装填を終えたグーンは、船長に教えられた通り、接手の補充、水のチェック、油のチェック、ゴミ袋の交換を行って、一通り済んだ。


『あとこれは絶対って訳じゃねぇけどな』


 船長はグーンにちょっとしたコツのようなものを一つ披露した。


『ニッターの上に立ってる間は、つっつきパイプをニッター表面とハードスーツの固い所に当てて、ニッターの動作音も聞くようにしとけ』

『ああ、靴底の樹脂で聞き取りづらくなるからッスね』

『そうだ。(とび)仕事にゃ、音を聞き取る能力も必要だぜ。異音を感じたら先輩に報告しろ』

『ウッス、アザッス』


 船長とグーンが船に戻ると、もう就寝時間間際だった。グーンはハードスーツを脱いでトイレで用足し、清拭(せいしき)、オムツ交換を済ませ、出てきてからもハードスーツの清掃を軽く行った。その間あくびが連発して出てきて、一日の疲れを実感した。

 あとは昼勤二班を起こして、寝起きのコーヒーを振舞ったら就寝だ。

 〇六〇〇(マルロクマルマル)、グーンは起床の声掛けを始めた。ソフィはすぐに起こきてくれたが、エリスは起こすのにかなり苦労した。


「エリっさん、朝ッスよー、早く起きないと強引に起こすッスよー」

「ん……具合悪い……」

「具合悪いなら、いっぺん寝袋から出て薬飲みましょ」

「ごめん……出して」

「いいんスか? じゃあファスナーあけますよ。ちょっと失礼」


 グーンは寝袋から引き出したエリスを、通称お姫様抱っこの状態のまま、調理室(ギャレー)まで直接向かった。そこにエリスを降ろしてから、戻って毛布を肩から掛けてあげ、暖かいミルクを与えた。

 寝袋から出たエリスは、いつもと違う独特の匂いがした。

 ギャレーでちょっとした会話を楽しんだ後、グーンは就寝した。


 見れば、サルバはすでに寝袋に入っていた。彼は先日エリスが寝た後の寝袋(シュラフ)で寝たことがあったが、それ以降はエリスの寝袋で寝ようとはしなかった。自分とグーンとで女性の好みが分かれていることを、ようやく理解したのかもしれないと、グーンは推察した。

 そんな訳でグーンは、先ほどまでエリスが寝ていた寝袋にそのまま入った。また始まったエリスの体調不良を心配しながら、彼は眠りについた。


 一四〇〇(ヒトヨンマルマル)きっちりに、グーンはロリエに起こされた。快調だ。

 この会社は社員にデタラメな働かせ方をするが、食事と睡眠を確実に確保しているおかげもあって、グーンは体調を崩すことはなかった。

 だが女性の体調は、どうやら規則正しい生活だけで改善されるわけではないらしい。

 グーンを起こしたついでに、ロリエは言葉を残した。


「仕事始まるまで、エリスをマッサージしてやんな」


 あ、やっぱり。ロリエのその忠告だけでピンときた。きっと二か月前と同じような、酷い生理痛がエリスを襲っているのだろう。

 ひょっとして排卵する卵巣の左右によって、生理が酷くなるのだろうか。先月は軽かったはずだったが。

 というか、ナニ排卵の左右の心配までしてるんだ俺は、とグーンは頭を振り、乗務員室(キャビン)内にエリスの姿を探した。すると普段ソフィが使っている真ん中の寝袋で、苦悶の表情で目をつぶっていた。隣に寝ていたとは気が付かなかった。


「エリっさんオザッス。辛そうッスね、マッサージするんで下に来れます?」

「……うん……」


 エリスは気だるげに寝袋のファスナーを開けて、漂い出した。途端にあたりに濃密な血の匂いがたちこめるが、先日感じたロリエの血の匂いほど不快ではなかった。

 その間に、寝起きですぐに正操縦席に座らされてショボショボしているサルバに、グーンは事の次第を手早く説明した。今のエリスは病欠扱いなので、時間までマッサージをすることは問題ないらしい。


「どこでやりますかね、テーブルの上ッスかね。ここに横に……ああ、俺が寝かせたげるッス」

「ごめんね、ありがと」

「言いっこなしッスよ」


 グーンは自分の荷物からハンドタオルを手早く取り出して、テーブルとエリスの間に敷いた。冷たいテーブルにじかに寝かされるよりはマシだろう。

 無重力なのでマッサージをするにも反力を気にしなければならないため、グーンはテーブルの下に突っ込んだ膝と左手の肘で自分の身体をテーブルに固定して、エリスの背中、腰、尻を中心に軽めのマッサージを始めた。


「今までも生理痛、酷いのは二か月ごとだったんスか?」

「うん……良く分かるね……」

「俺の姉ちゃんもそうだったんスよ」


 ちなみにこれはグーンのウソだ。八歳離れた彼の姉が高校に入ったのは彼が七歳の時だ。姉の生理がどうだったかなんて知る筈もないし、気にもしないだろう。

 グーンがやったのは、出会ってからそうなった訳ではなく以前からそうだったという、エリスの生理痛に関する持論の確認であった。それを思わず嘘で誤魔化したくなる程度には、彼もまたウブだったのだ。

 背骨の腰にあたる左右を軽く指圧しながら、徐々に尾てい骨の方に移動させた。骨盤との繋ぎ目のあたりを軽く刺激すると、エリスは少し痛みが楽になるようだった。


 マッサージしている間に船が動き、操縦席(コックピット)のロリエとサルバが一五〇〇(ヒトゴーマルマル)の六回目の補給(補給六)を行った。船外活動はソフィがやっているのだろう。グーンはエリスの身体が浮かないように押さえながら、優しくマッサージを続けた。


「病気でも無い生理痛で、仕事休んじゃったよ……」

「しゃーないしゃーない、ッスよ」


 グーンはエリスの腰に手を当てて温めながら、猫を撫でるような速度で背中をさすっていた。何となくだが、無重力のせいで上半身に血液が滞っている予感がしたためだ。根拠はない。

 そのうち補給が終わり、ソフィと船長がエアロックから中に入ってきた。


「お疲れ様ッス、船長と姐さん。就寝時間過ぎてんのにサーセン」

「おう、そりゃいいんだけどよ」

「大丈夫かいエリス」

「はい……」

「駄目そだね、こりゃ」


 ソフィは、エリスがいつも寝ていた寝袋をベリベリっと剥がすと、テーブルのグーンに放った。


「これに寝かせておきな」

「え、テーブル占有しちまうことになるッスよ?」

「いいさ、食事はギャレーでも摂れるんだし。それとも壁でマッサージができるのかい?」


 グーンはそこで壁でマッサージをする光景を思い描いた。

 壁という平面ではマッサージに必要な力をかけることが難しい。もし強行するとしたら、エリスの上にグーンがまたがって、股下に向かって指圧するしかない。そしてそれは、訓練校時代に地下モノ動画で見た、いわゆる寝バックの体勢だ。

 その想像に行きついたとともにグーンは顔を赤くした。

 とてもとても魅力的な提案だったが、しかしグーンは涙を呑んで断った。

 ソフィの顔つきがイタズラっぽいニヤニヤ顔だったのが、なんとも(しゃく)(さわ)った。これ絶対わざとだ。


 エリスを促して、グーンはテーブルと彼女の間に寝袋を敷いた。その前に敷いていたグーンのタオルは、なぜかそのまま彼女が寝袋との間に敷いていた。

 マジックテープベルトでテーブルを巻いて、寝袋のマジックテープと貼り合わせて固定した。これで勝手に漂い出したりはしないはず。

 そこまでやって、再びグーンはマッサージを続行した。


「エリス、補給七は一七三〇(ヒトナナサンマル)だから、その三十分前になったらグーンを解放するんだよ」

「……はい、ご迷惑をおかけします」

「体調不良は仕方ないさ。眠くなったらそのままそこで寝ていいから」

「はい」


 ソフィの寄こした目くばせに、グーンは無言でうなずいた。

 そして壁に残ったふたつの寝袋のうちの片方に、ロリエが潜り込んだ。就寝時間を一時間半も超過させてしまった。

 船長はもう片方の寝袋をはがして部屋の対角線に貼り付け、ハードスーツを脱いで中に入った。

 ソフィは聞こえない声で二言三言船長と言葉を交わして、軽い口づけをして副操縦席に座った。


 グーンのマッサージにエリスが反応を返さなくなって久しかった。ふと顔を見ると、エリスはタオルに顔をうずめて、目をつぶっていた。眠ったようだ。

 グーンはタオルの奪還を諦めて肩口までファスナーを上げ、エリスの髪の毛をしばらく撫でつけた。


「ソフィ姐さん、アザッシタ。残業させちってサーセン」

「いいってことよ。アタシも生理痛がシンドい時に、ライフリーに世話してもらうの好きだったしねー。……ここしばらくして貰ってないけど」


 サルバがいつもの癖なのか、運行中でもないのに当直監視任務(ワッチキープ)を手早く行いながら、ソフィに口を開いた。


「船長が倦怠期のはずねぇっすけどねぇ、何でっすかねぇ?」

「……んー、なんでだろな」


 突然くくくっと声を潜めてソフィは笑った。


「ああ、そういやぁここんとこ生理来てねぇなぁ……。だから覚えがねぇのかもな」

「生理不順ッスかね、姐さんも疲れてんならマッサージするッスよ?」

「バカ、アンタのマッサージはエリスにとっときな」

「えー、別にこれそういうつもりじゃ無ぇッスよ? 金取るし」


 若い二人を見守る慈愛の顔は、金取るのグーンの言葉に一瞬で歪んだ。


「マジ」

「マジッスよ、三〇分一〇ダラーッス」

「中途半端に高ぇなおい」

「値段決めたのサルバ先輩ッス」

「お前後輩にナニ教えてんだ」


 ソフィはそれを聞いて、頭上のサルバの頭をコツンと小突いた。

 グーンは批難がサルバに集中しそうな気配を感じ、流石に可哀想になって助け舟を出した。

 二か月前に、エリスが酷い生理痛で本社屋で自習中に倒れた後、男女が同時にいられる場所で、かつふしだらな行為と見られない場所として、サルバに玄関ホールをオススメされたこと。そして玄関ホールでマッサージをしていても不思議ではないように、三〇分一〇ダラーの張り紙を出すアイディアをサルバが出してくれたこと。中途半端に高いからこそ、冷やかしやからかいが来ないこと。

 これをソフィに説明した。


「お前、なんかこういう事には頭が回るよなぁ」

「俺、頭脳派ですしねぇ」

「なんか寮監夫妻がマッサージのお得意様になっちゃったんス」

「ああ、トシだしねぇ。孫がわりに可愛がられてんだろ」


 その後二〇〇〇(フタマルマルマル)の補給八も無事済ませて、夜勤三班の二人だけでも補給ができると判断されたらしい。第六食のあとはソフィは残業から抜けて、一日を終える後始末をしていた。

 一方エリスは食事で起こした時にまた辛そうにしていたので、グーンは再びマッサージを始めた。

 ふと思い立ち、エリスの首筋に触れてみた。


「ちょっと失礼。……やっぱ体温低いッスね」


 エリスはピクリと身体を動かしたが、その後は成すがままにしている。首筋は冷たかった。

 右手で腰をさすりながら、左手で首の後ろを温めることを、グーンは試してみた。


「暖かくて気持ちいい、なんかお風呂に入っているみたい」

「エリっさん冷え性気味なんすかねぇ」


 そうして首の付け根を体温で温めていると、まるで落ちるようにすぅっと眠っていった。


 二二三〇(フタフタサンマル)の補給九は、サルバとグーンの二人でやってみて、成功した。

 あとは〇〇〇〇(マルマルマルマル)を迎えれば、同時に船のシフトが変わって、十七号船は休暇となる。


「なんとか俺一人で補給の下回りもできたッスよ」

「そう」


 その返事をした後、エリスはしばらく黙った。グーンはただエリスの腰と背中をさすっていた。


「どんどんグーンに離されて行っちゃう」

「大丈夫ッスよ、待ってるッスから」

「うん」


 早い時間から寝込んでいたため、就寝時間を過ぎてからもエリスはたびたび目を覚ました。そのたびにグーンはエリスの腰を温め、さすり、静かに語りかけていた。

 マッサージを切り上げたあとは、濡れタオルを電子レンジにかけた即席蒸しタオルで首筋や手首を温めてみた。どうやらエリスはこれも気持ちよかったらしく、また眠りに落ちた。タオルが冷めるたびにレンジで温め直し、グーンはエリスを起こさない程度にせっせと世話をした。


 そうして夜勤三班は、船の中で就業時間を終了した。日付が変わった現在、十七号船は休暇に入っていた。


次話は、第六〇話 セクハラから始まる男女交際(生理痛マッサージ、セクハラ、訓練校、爆発案件、社内報告)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ