第三二話 着陸後のミーティング(ハードスーツ、独身寮、ソフトスーツ、排泄インナー)
前話は、第三一話 初帰還(航路・航海)です。
「新人二人は、荷ほどきしてエアロックから外に荷物を運んで」
「了解ッス」「了解」
グーンとエリスは着陸早々、荷物の運び出しを命じられた。とはいえキャビンやギャレーにあった荷物で最も大きかったのは、現在二人が着ているハードスーツだったので、他は段ボール箱リレーで済んでしまった。それらの荷物は一時荷台に積まれた。
ロリエは早々に外に出て、荷台のものを運び出す準備を行っていた。
やがてサルバとソフィの着陸後チェックリストが終了すると、ちょうどその頃に船体を格納庫まで引っ張り運ぶ誘導車両が十七号船までやってきた。これも船長が操っていた。
「うーし、降ろし方はじめー」
「ウッス」
あとは荷台の荷物を格納庫内に降ろしていくだけだ。十七号クルーは全員でバケツリレー式に荷物降ろしを行い、あっという間に全てを完了させた。
荷物の片づけはミーティングのあと、仕分けをしてから行うらしい。
「終わったな。お疲れ様っした」
「お疲れ様でしたっ」
「あい解散ー」
「こぉらライフリー!」
「わかったよぅ……」
遠征帰還後のミーティングをこれだけで済まそうとしていた船長に、ソフィの怒声が響いた。
クルー全員の前に出た船長は、ミーティング開始の宣言をした。それを合図に、全員は気を付けの姿勢から挙手の敬礼を行った。遊泳帽もフェイスガードも帽子扱いだし、たとえ民間でも帽子をかぶる職種は挙手の敬礼をするものだった。当然船長も答礼した。
ひとりエリスはちょっと戸惑って動作が遅れていたが。
「なおれ、休め。えー、まずは遠征ご苦労さんっした。今回はグーンとエリスの初仕事ってことで、仕事の進みはボチボチで止めておいたが、結果は一日前倒しで完了できたことは、喜ばしかった。今回の仕事も、事故もなく違反もなく問題も起こさず……」
「んんっ」
船長の挨拶の言葉に咳払いでツッコミを入れたのは、ソフィだ。サルバのオナニー事件、グーンの彗星のカケラ直撃事件は、船長の耳にまでは届いていないが、船長自身がやらかしたロリエ秘密暴露事件のことまでは、誤魔化すつもりはなかったようだ。
「……ま多少のお茶目はあったが、仕事を完遂して全員無事に帰ってこれた。休暇はおそらく四日間だと思うが、詳しくは後日連絡する。次の仕事に向けて英気を養ってほしい。
で、連絡事項。なんかある人」
「はい」
「ほいソフィ」
「新人の訓練についての指示を、今のうちにしておきたい」
「そんじゃどうぞ」
船長から発言を許可されたソフィは、新人二人に宛てて話し始めた。
「グーン、エリス」
「はい」
「二人はお互いに、自分と相手それぞれの苦手分野をリストアップして、先輩方の誰かに提出するように。期限はできれば一時間後ほど、最終でも今晩の就寝まで。相談禁止な」
「はい」
そしてソフィは新人から目を離し、ライフリー、ロリエ、サルバに向き直った。
「次に新人以外。二人のリストを参考に二人共通の訓練メニューを相談したいので、場を設けてほしい」
「了解。善処する。次の人」
「あい」
「んじゃサルバ」
サルバが発言を許可されて、一歩前に出て口を開いた。
「十七号の新人歓迎会を催したいと思います。この後相談に乗ってください」
「うい、次誰か。……ないか、そんじゃ気を付け。お疲れ様っした」
「お疲れ様でしたっ」
「なおれ、解散」
最後も挙手の礼で締めた船長。そしてソフィからは白い紙を渡された。先輩方四人が歓迎会の打合せをしている間に、先ほどの新人二人の訓練が必要な部分のリストアップを書いておけ、ということだった。
他の四人が格納庫の隅で話し合っているのをよそに、新人二人は積み上げられた荷物のコンテナをテーブルにして、白い紙を前にして何を書こうか迷っていた。
グーンは少し悩んだ。自分とエリスは明らかに、航海マナー、ロープワーク、ハードスーツ操作、鳶仕事全般について訓練が必要だ。加えてエリスは免許と基礎体力、自分は知識と勉強テクニックが足りていない。
指折り数えてこれ以外になさそうだと確認して、カリカリと紙に記入していった。
書き終わったグーンがエリスを見ると、まだ書いていた。遠目に書いた文字が見えるが、何が書いてあるかまでは判別できなかった。自分の評価も気になるが、書き物に集中しているエリスの姿を、つい眺めてしまった。
しかしエリスはその行動を覗き見と解釈し、覆いかぶさるようにして紙を隠した。
「見ちゃダメだよグーン、相談禁止って言われたんだから、覗き見だって禁止だよ」
「紙まで見えないッスよ、それに俺書き終わったッスから」
「それでも禁止」
「了解ッス。紙提出して、ハードスーツ脱いでくるッス」
グーンは苦笑いしながら、紙を持って立ち上がった。そんな姿をエリスが紙に覆いかぶさったまま睨んだ。ちょっと膨れた顔が可愛い。
そしてソフィに紙を提出して、そのままコンテナの横に戻って着替えを始めた。
エリスはまだもうちょっと悩むようだ。
ハードスーツを脱ぎ終わったグーンは、コンテナに腰かけて、スーツを分解したパーツを雑巾で拭き始めた。
ほんの少しの溶剤を染み込ませたウエスは、どこか香しい揮発臭をあたりに漂わせていた。
エリスはその香りを嗅ぎながら、課題リストの紙を書き終わった。
そして戻ってくると、荷物の影に行ってハードスーツを脱ぎ始めた。
やがて、何往復かしてハードスーツのパーツを持ってきたエリスは、そばのコンテナにグーンと同じように腰かけて、ウエスを手に取っていた。しかし何をどうすればいいか良く分かっていないようで、乾いたウエスで補器類の付いたままのスーツを磨こうとした。
そのままでは細かい傷がついてしまうな、とグーンは瞬間に考えた。しかしその行為を咎めるような物言いを最初からすることは気が引けたので、代わりの言葉を口に出した。
「エリっさん、ハードスーツのメンテナンス、俺一緒にやっとくッスよ」
「え、いや、悪いよ」
「なんもなんも、ついでッスよ?」
「ううん、勉強になんないから自分でやる」
「わかりました。そんじゃエリっさん、まず補器類外してください」
「うん、ありがと」
エリスはハードスーツの補器類を外し終わってから、どこかバツの悪そうな声音でグーンに言った。
「……それと磨き方教えてくれる?」
「ウッス」
グーンはエリスにハードスーツの分解清掃方法を、自分のハードスーツを実例に教えていった。
電源コードと電源ユニットの取り外し。飲料水ユニットとパイピング取り外し。貼り付けディスプレイや孫の手など補器類の取り外し。スーツスラスターの推進剤缶の取り外し。生命維持装置の空気缶とパイピング取り外しと、本体分離。
外装の細かい部分の歯ブラシでの掻き出しと、溶剤ウエスでの拭き取り。内張りを裏返しに外装から出しての、清拭シートでの拭き取り。
関節部と接続ネジの清掃グリスアップ。生命維持パイプ取付フランジの清掃グリスアップ。生命維持装置本体のフィルター清掃。パイプやコードの拭き取り。
約一週間の遠征の間にこびりついた汚れを落とす作業。その一工程ごとに綺麗になっていく様子は、無我の境地での作業を続けられる喜びを感じ、何か心までもが洗われていくようで、グーンは好きだった。もっともやり始めるまではその手間が億劫に感じるのは、一般の人と変わらないのだが。
エリスとの会話で知れたことは、彼女は綺麗になることには喜びを感じるが、工程に喜びを感じたりはしないということだった。
先輩方の打合せはまだ終わっていなかった。
仕方ないので、グーンはついでにハードスーツのボディをワックスで磨き始めた。エリスはワックスを使うのも初めてなようで、その扱い方をグーンは教えた。
ウエスに少量取ったワックスを、細かく輪を描くようにしてボディに塗りこむ。だいたい外装全部を塗り終わるとワックスが半乾き程度になるので、今度は乾いたウエスで拭き取る。最後にヘルメットバイザーに付いてしまったワックスを溶剤で拭き取れば、完成。
先輩方の打合せを待っていたら、全部磨き終わっちゃった。この後のヒマつぶしはどうしよう。グーンはそう悩んだが、すぐに思い直した。ヒマつぶしと言えば運動だよな。
「じゃエリっさん、休んでてください、俺運動してるんで」
「うん」
グーンは四人の先輩方やエリスとは離れた一角に行くと、足を肩幅程度に開いて天井を見上げた。天井高、約十メートル。天井ギリギリまで浮けば、再び地上に足を着くまでに三十秒は時間が取れるかな、と目算をとった。
微小重力下では足を縮めることもゆっくりとなるが、グーンは徐々に足に力を溜めていった。そして天井に向かって飛び上がった。
上昇中にもゼロG空手の型を行い、虚空を突き、蹴った。その都度身体には回転モーメントが働き、天井付近の放物線頂点ではキリキリ舞い同然の状態に陥っていた。そして落下しながらも型を行い、着地寸前に型が終了、その回転も完全に収束していた。
膝を柔らかく使って着地。反動で浮き上がる不調法は晒さない。そして一息。
再び上昇して型を行い、着地寸前に型を終了して着地、息を整える。これを十数度繰り返したあたりで、船長からグーンに声がかかった。
「おい、グーン、そろそろやめとけ」
視線を向けると、全員がグーンを見ていた。
船長は苦笑いしながら言ったが、咎める口調ではなかった。
「お前な、話してる最中にあんな動きされたら、気が散ってしょうがねぇだろ」
「あ、すいませんっした、もうやめます」
「いいよ、終わらせたからよ。お前の空手見たおかげで、良い訓練思いついたからな」
「そうなんスか、アザッス」
「そんじゃ全員で荷物を倉庫に持っていこうぜ」
その後は、格納庫のシャッターを開けて全員で荷物を持ち、倉庫に格納した。時刻は一四〇〇となっていた。
「じゃあな、後でな」
「ウッス、アザッシタ」
船長とソフィは十七号船格納庫から自宅に帰っていった。
グーンたち四人は格納庫を出ると、そのまま独身寮のほうへ跳躍していった。
四人は独身寮の玄関を抜け、寮監室に挨拶をした。出てきたのは寮監の奥さんの寮母さんだ。
「十七号船グーン、ただいま帰りましたー」
「あー、アンタがグーンかい、スーツのクリーニングが出来てるよ」
「あ、そうだったんスか、アザッス」
「ドアノブに引っかけてあるからね、確かに伝えたよ」
「はい、お世話になりました」
そう言って自分の名前札をひっくり返し、上履きに履き替えて女性陣に挨拶をし、サルバと二人で二〇一号室に向かった。もちろん階段は飛び上がって、壁で方向転換した。
二〇一号室のドアノブには確かに、ビニールを被ったクリーニング済みのスーツが掛けられていた。
「ふーやっと帰ってこれたな」
「お疲れさまッス」
サルバは上着にニッカポッカに安全帽姿、グーンはジャージ姿。船にも持っていったバッグとスーツを手に持って、部屋に入った。
サルバは三段ベッドの一番上に飛び上がりながら、手荷物をベッドに降ろした。
「船長が一八〇〇に集合って言ってましたよ」
「おう、俺が提案したんだもん、忘れっかよぉ」
グーンは自分に割り当てられた、というかなんとなくそうなっていた、一番下のベッドに荷物を下ろした、そして三段ベッドの一番上のサルバに、下から見上げて声をかけた。
サルバはすでに、上着とニッカポッカなどの鳶衣装を脱いでいた。相変わらず早い。
「んで俺腹減ったッス。あと四時間もあるし、食っていいッスよね?」
「そうだな、そんじゃ着替えたら食堂行っか」
「ウッス、ついでにお風呂セット持っていくッス」
着替えと言いながら、サルバが取り出したのは電動インパクトレンチだ。仕事帰りの現在は、サルバは衣装の下にソフトスーツを着込んでいた。これを脱ぐのにインパクトレンチが必要なのだ。
サルバはインパクトレンチの動作音を軽やかに響かせながら、ソフトスーツのタグボルトを緩めていった。ん、ちょっと待てよ。
「先輩、ソフトスーツ脱ぐつもりッスか、部屋出るっスよ」
「インナー付けてっから平気だろ、どうせ風呂場でお互いチンコ見てる仲だし」
「はあ」
そのまま見ているとサルバは、緩め終わったソフトスーツの上に履いていたと思われる、スーツと同じ柄のビキニパンツをスルリと降ろした。
そこにあったのは、ソフトスーツと同じ柄のサルバのイチモツだった。
「うわあ!なんスかその恰好!今どきのソフトスーツってそうなんスか!」
「あれ、お前知らね?排泄インナー」
その排泄インナーとやらは、伸縮素材の男性性器型の出っ張りそのものだった。今は見えないが、恐らく肛門付近も同じように覆われているのだろう。とにかく見た目が非常に変態的だ。
サルバの脱ぎ終わったソフトスーツは、ちょうど股間と肛門付近にそれぞれ直径五センチほどの穴がポッカリと開いており、そこの部分は現在サルバが履いている排泄インナーが与圧を受け持っている様子だった。
さてここで、ソフトスーツの排泄事情について語っておきたい。
ソフトスーツはその開発当初であるゴム与圧式の頃から、重大な欠点が示唆されていた。それはオムツが着けられないという問題だ。
この問題の解決に、開発会社各社で様々な案が出された。
一、腰回りの空気与圧式改造案は、オムツ着用には成功したが、まるで腰回りだけハードスーツのようになり、軽量高機動というソフトスーツのコンセプトと真っ向から対立しボツとなった。
二、ソフトスーツ専用オムツの開発案は、最も早く実現できたが大容量対応は無理だった。しかし超薄型オムツの需要はあるとして分離開発、製品化された。
三、排泄抑制薬案は、小便については数日間の抑制は危険が大きいとされたが、大便については有効とされ、長く排泄問題対策の主流となった。
四、素早い着脱システム案は、排泄問題の解決には至らなかったが、ワイヤーテンション式与圧に進化して、分離開発、製品化された。
五、大小便用エアロックの新設案は、空気与圧式改造案グループの再提出案。部分的な空気与圧はそれなりに有効だったので、小便用のみ長く排泄問題対策の主流となった。
六、カテーテルと捕尿バッグ案は、ただの医療用品の転用だったのでこれ単体ではボツだったが、体内に器具を埋めても良いという意識改革に貢献した。
このように従来は三と五の案を併用して、長期間の着用に対応していた。大便は抑制薬で抑え込んで人為的な便秘にし、小便は性器にかぶせたビン内に放尿し、毛細管現象で捕尿バッグに吸い取っていた。
だがこれがその場しのぎの対策案だということは、開発者自身が重々承知していた。
そこで、五と六の案をミックスして、カテーテルによる尿道内圧力弁、直腸内圧力弁の概念を編み出した、製品名「排泄インナー」に繋がったのである。
その特徴は、まさに素肌感覚。
尿道内圧がゼロで体内側圧が高い場合は尿道内圧力弁は閉まっており、小便をいきんで尿道内圧が高まると圧力弁が解放され、放尿成功となる。肛門側も理論は同様。
病気の有無や筋力の強弱により、装着できる人を選ぶ装備となってしまった上、いまだに経血処理・おりもの処理に課題が残っていたが、モニター利用者の意見は非常に好意的だった。特に男性側からは包茎の者とインキン患者から救世主とあがめられ、女性側からも男性同様の立小便の喜びを得たとして、賞賛された。
見た目は大変に変態的だが。
さすがにそのままブラリブラリと垂れ下がらせたままにする趣味はないらしく、サルバは手早く自前のパンツを履いていた。そしてジャージ下、シャツを着てひとまずの着替えは完了。
そしておもむろにサルバは小ぶりのボトルと細身のビニールチューブを出して、お風呂セットに追加した。
「よし、食堂行こうぜ」
「ウッス……」
一四〇〇の今は、すでに食堂の昼食時間は過ぎていた。しかしこの食堂には常時何かしらの食べ物が用意してあった。何しろ三交代制で一日四食食べている寮生ばかりだったので、帰還のタイミングによっては食事時間に合わないし、そもそも基本的に欠食児童ばかりだったからだ。この会社は肉体労働の若い衆のニーズを理解していた。
食堂据え付けの冷蔵庫を開けると、中には冷えて脂が白く固まったハムステーキが何食分か残っていた。サルバとグーンはそれを電子レンジに突込み、ポットに入っていたぬるいお茶をマグカップに二人ぶん注いだ。
やがて温め終わった食事を二人でモソモソ食べた。それほど美味しくなかった。
「先輩、アレって最近発売になったばっかりの奴ッスよね、よく手に入れましたね」
「だいたい一年半前くらいから集団モニター続けてたぜ、ウチの会社で」
「へぇ……」
「何しろ超小型のエアロックみてぇなもんだから繊細でな、サンプルが欲しかったんだろ」
ソフィ姐さんやロリエ先輩も付けてるんだろうな、との考えに至ったグーンは、頭を振ってその思い付きを消した。
その次は風呂だ。この時間、風呂はお湯が抜かれていて入ることはできなかったが、蛇口からお湯を出すことはできた。仕事中の船の中ではドライシャンプーでしか洗えなかった頭髪をお湯でキチンと洗うと、なんだか生き返るような心地だった。
一方サルバはビニールチューブを口にくわえて、ボトルから何かを吸い上げて、それを尿道口と肛門にそれぞれ注入し、それから頭や体を洗っていた。
洗い終わったタイミングで、排泄インナーを根元からクルクルと巻き取り、最後に先端をヌポッと抜いて、石鹸で洗っていた。尿道口から細い管が三センチほど飛び出て、先端がちょっぴり膨らんで漏斗状になっていた。肛門に付けていたほうも同様の構造だった。
「ところで形が痛そうなんスけど」
「ああ、カテーテルか、そりゃそのままじゃ痛ぇだろうな。入れる時はそのために、麻酔入りローションとアプリケータ使うんだ」
「で、これが仕事先でのオナニーに役立つと」
「おう、捗るぜぇ、何しろ出るところは小便と一緒だからよ」
船初日にソフィから説教を食らった出来事を思い出し、謎が氷解したグーンであった。そういえばサルバ先輩、いつも寝袋に入ってからトイレに行っていたな。
紙オムツの煩わしさから解放されるのは羨ましいと、グーンは思った。
風呂からあがった二人は、自室に戻った。
食事をとって身体を洗い、清潔な下着をつけると、やっと帰ってきた実感が湧いてきた。
部屋に戻って、ジャージではない私服を着ると、さらに休暇の実感が湧いてきた。
ああ俺、初仕事を終わらせたんだなぁ。
「先輩、俺実家の婆ちゃんに電話してくるッス」
「おう、いってらー」
グーンは、初の仕事を終えたささやかな誇らしさを報告するために、寮監室の横にある共用電話機で、実家の電話番号を入力した。
やがて電話に応答があり、グーンはほんの九日前まで会っていた自らの祖母と、まるで一か月ぶりに会話するような懐かしさをもって、楽しく会話した。
次話は、第三三話 初の飲み会(ファッション事情、都市内交通、酒事情)です。




