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第二〇話 初清掃(スラスター清掃具)

前話は、第一九話 初勉強(社内ライブラリ、船舶整備)です。

 現在時間〇四〇〇(マルヨンマルマル)、三班と一班の食事の時間だ。

 サルバとグーンは食事の用意を済ませ、船長が帰ってくるのを待っている状態だ。


「そいや何だっけ、スラスターの清掃具か?」

「そッス、いずれ俺らも清掃するんスよね?」

「まぁやるけどよ、出発間際でいいんじゃねぇの?」


 エアロックのビープ音が響いた。船長が外扉を開けたのだろう。


「それって最初は新人は見学じゃないッスか」

「恐らくなぁ」

「俺も早く何かのお役に立ちたいんスよ」

「入社三日目がナマイキ言ってんじゃねぇよ」


 エアロックの内扉が開いて、船長が顔を出した。


「なんかこう、お客さん扱いがムズムズするんスよ」

「ただいまー、何の話だ?」

「あ、おかえりなさいッス」


 船長は、ちょうどグーンが話している最中に顔を出したため、何か揉め事かと心配したようだ。

 その質問を受けてサルバが返答した。


「おかえんなさい。いやグーンが手伝いしたいって言ってるんすよ」

「ほー?いい心がけじゃねぇの」

「それがスラスターの清掃やってみたいって」

「あー、アレかぁ……出発間際のほうがいいんだけどなぁ、スス汚れ落とすの面倒いし」

「でしょ?」


 その二人の会話を黙って聞いていたグーンは、少し残念そうな顔つきで神妙にしていた。

 そこにひょっこり顔を出したロリエは、それまでの会話が筒抜けだったのか、そのまま会話に加わった。


「そんなら真っ黒けになった後で、鉱山炉で水洗いしてきたらいいじゃん」

「おお、それいいな、決まり。とにかくメシにすんべ」

「了解」


 船長のツルの一声でこの話題はおさまり、本日の第二食となった。

 今回のメニューは、初日に食べたビーフシチューだった。


「やっぱこのシチューうめぇよなー」

「そッスねー、ところでさっきの話ッスけど、鉱山炉にゃ俺と先輩の二人で行くッスか?」


 その会話を聞いて、船長も口を挟んだ。


「クッソいいなぁ、俺もソフィとキャッキャウフフしてぇ」

「姐さんにゃキャッキャウフフするイメージ湧かねっすねぇ、ちと疑問っすよ?」

「うん、ないね、夢から醒めな船長」


 サルバとロリエのツープラトンで突っ込まれた船長は、ぐぬぬという顔でうつむいた。


「ロリっち、仕事あがりに一緒に鉱山炉行く?」

「行ける訳ないだろ、三班の就寝時間の三時間後じゃないと仕事終わんないんだよ?お前いつ寝る気だよ」

「そうなんだよなぁ、ロリっちと行けるとしたら、俺ら三班が早起きしたタイミングじゃないとなぁ」


 考え込みながらもくもくと食事を続ける四人。いや、一班の二人は自分に関係ないと決め込んでいる。

 

「じゃあ奥さんとエリスと一緒に」

「却下」


 船長によって、グーンの思い付きは全部言い切る前に、食い気味に却下された。


「え、なんd」

「馬鹿野郎、可愛い嫁さんを他の男とキャッキャウフフさせられる訳ねーだろ」

「だからキャッキャウフフなんて多b」

「うるせぇな、行くならエリスだけ誘え」

「わ、わかったッスよ」


 船長の怒涛のセリフ潰しに、例え愛する妻が将来現れてもこうはなるまい、とグーンは心に刻んだ。


 食後のトイレのあと、すぐに船長は仕事に戻っていき、ロリエは薬を飲んだあと、自分の巣に帰っていった。

 再び二人っきりになり、サルバは口を開いた。


「よし、グーン、今から〇五〇〇(マルゴーマルマル)まで仮眠すんぞ」

「そのココロは」

「俺らの就寝時間を〇八〇〇(マルハチマルマル)に延期する補填だ」

「二時間遅く寝るんスね」

「そんで姐さんとエっちゃんにゃ悪いけど、二班の起床時間を一時間前倒しにする」

「ほう」

「んでスラスター清掃やるから、エっちゃんにも見学体験させるって名目を作る」

「ほほう」

「その名目なら姐さんもエっちゃんに付き添わない訳にゃいかねぇ。そしてスラスター清掃やると全員ススで真っ黒だ」

「ほうほう」

「ソフィ姐さんもどうせ汚れるから、不可抗力ってことで、じゃあ鉱山炉に一緒にって訳だ」

「フカコーリョク」

「フカコーリョク」

「おー……サルバ先輩、冴えてるッスよ!」

「んだるぉーん?よし、予定が決まったなら気合入れて寝るぞ」

「ウッス」


 二人は目覚ましアラームをセットして、気合を入れてギャレーの床にゴロ寝した。

 そして鳴るアラーム音。〇五〇〇(マルゴーマルマル)だ。


「奥さん、起きてくださいッス、奥さん」

「んー……」


 ソフィは相変わらず寝袋(シュラフ)の中で横寝をしていたようだ。

 人によって寝やすい姿勢は違うので、グーンはそこには頓着しなかったが、シュラフの中が自分の息で蒸れて寝苦しくなったりしないのかな、とは思った。


「エリス、起きて、エリス」

「ううん……」


 昨日の初遊泳の疲れが溜まっていたのだろう、エリスは結構深く眠っていたようで、起こすのに手間取った。

 一時間早く起こしていることに気が引けたが、グーンは根気よくエリスに呼び掛けた。


 そして無事二人を起こすことに成功した、モーニングコーヒーの香るギャレーにて。


「……というわけで、船長からもスラスター清掃を体験して良いって返事を頂いたんス」


 グーンはソフィとエリスに説得を開始していた。


「まぁせっかく清掃するなら、同じ新人のエリスにも見せてあげたいって気持ちはね、わかるよ」

「じゃあ」

「ああ、いいよ」

「やった!アザッス奥さん!エリスもいい?」

「うん」

「やったやった!」


 グーンがすぐさま、エリスと一緒にハードスーツを着こむ作業を始めた。これで三度目の装着であるグーンは、二度目の装着であるエリスを手伝い、それなりに手際よく進めていった。

 一方サルバとソフィも、フェイスガードのタグをインパクトレンチで締め付けていた。


『姐さん、コレ』

『おうカッパか、サンキュ』

『これ着とかないと、ソフトスーツの生地にカーボンが目詰まりするんすよね』


 サルバとソフィが二人ともカッパを着て、裾や袖をガムテープで巻いて止め終わったころ、グーンとエリスのハードスーツ装着のセルフチェックが終わった。

 先輩二人は、新人のチェックした個所をダブルチェックしていき、最後に加圧チェックをして合格を出した。

 四人ともエアロックを出て、荷台のコンテナに赴いてから、サルバは言った。


『はい注目。スラスター清掃具はこのコンテナに入ってっからな。他にも道具が入ってるけど、間違うなよ。あと使い終わったら必ず元のところに戻しとけ』

『はい』


 それはちょうど、タワシがもさもさと生えた手回しハンドドリルといった感じの道具だった。黒いすすで酷く汚れており、触るだけでもグローブに黒いすすが着いた。

 サルバはコンテナから清掃具を二つ取り出して蓋を閉め、機体右前方の上側スラスターに移動した。


『んで代表してここのスラスタホーンで実践すっからな、よく見とけ』

『はい』

『清掃具の先っちょに、樹脂製の柔らかいニードルが二つ付いてるだろ、見えるか?』

『はい』

『こいつは、スラスタホーンの奥にあるソレノイドバルブの穴に刺すんだ。清掃したカーボンがバルブに噛まねぇようにカバーする役目だ』


 エリスが質問をした。


『バルブの穴ってどれですか』

『これこれ、出っ張ってる点火プラグのさらに奥だよ』


 サルバは懐中電灯でスラスターのホーンの奥にある、二つの穴を照らし出した。手前には点火プラグがせり出しているので、角度によってはよく見えないだろう。


『んで穴に刺して位置決めしたあと、清掃具を押し込んで止まった位置が、自然とプラグ清掃位置ってわけだ』

『はい』

『んじゃグーン、やってみ』

『ウッス』


 まずグーンが実践した。言われた通りの位置に清掃具を持ってこれた。


『できました』

『んで、足でスラスターの支柱を挟んで身体が回転しねぇように押さえたら、手元のハンドルを回すんだ』

『こうやって……こうっスね、回しますよ』

『おう、ゾリゾリっと行けぃ』

『せーの……うわわっ!』


 グーンがハンドルを回したとたん、清掃具のブラシに掻き出されたスラスタホーン内側のカーボンが、ハードスーツの胸元とヘルメットグラスに飛び散らかされた。


『な、これが真っ黒になるって理由だ。スーツの清掃が面倒くさそうだろ? だから船で移動してる間にスーツの清掃できるように、出発直前にスラスター清掃をするって訳だ』

『そっすね、こりゃ納得ッス』


 上半身が黒い粉まみれになったグーンは、納得した。


『うわー……私もコレやるんですかぁ?』

『清掃は義務だよ船員』

『はぁい』


 エリスは嫌がったが、逃げられない。


『問題はこのカーボンはよ、作業やってない人間にも降りかかるし、船体も汚れるんだよ』

『そうッスね、宇宙空間でほぼ無重力だから……ってあれ?カーボン粉は……』

『おう、今は桟橋に係留してっからよ、船は自転してるんだわ、他の船と一緒に』


 グーンが見やると、粉は拡散して他の船にもくっついていた。


『あー、やべぇ!他の船が汚れてるっぽい!』

『そういうこと。だから俺、スラスタ清掃嫌がってたんだよ、ユーシー?』

『アイシー。先に言ってくださいよぉ』

『何言ってんだよ、他人の失敗はいい笑い話のネタになんだろ?』


 そう言ってサルバは笑うと、続いて新人二人に指示を出した。


『じゃエっちゃんも同じ作業を左側でやってくれ。ほれ清掃具』

『はい』

『上側は俺と姐さんがそれぞれのサポートにつくけど、下側は自分たちだけでやってみろよ』

『了解ッス』


 グーンとエリスは上側を無事に済ませ、下側に移った。グーンのほうがエリスよりも早かったが、その作業時間中にサルバとソフィは機体後部の四つの清掃を済ませていた。


『終わりましたぁ』

『エっちゃんはまだ作業中だな。うしグーン、飛び散ったカーボン粉が付いた船を、このエアーダスターで吹いてキレイにしてこい』

『えー!ここにいない十五号以外、全部ひとりでッスか!』

『当たり前だろ、ヨソの船汚したまんまで知らんぷりする気かよ』

『せめてサルバ先輩も手伝って……』

『十七号はやっといてやっからよ。自分で清掃申し出たんだろ、文句言ってねーでやってこい』

『了解ッス……』


 言うんじゃなかった、後悔先に立たずなグーンであった。


次話は、第二一話 折れた鼻柱(鉱山炉)です。

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