表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/96

第一九話 初勉強(社内ライブラリ、船舶整備)

前話は、第一八・五話ボツ稿 初救助(宇宙の方角、無重力ランデブー)です。

 現在時刻、〇〇〇〇(マルマルマルマル)。三班と一班の交代の時刻だ。

 ゆうべ二〇〇〇(フタマルマルマル)の中休み後、つまり後半仕事を再開したあと、サルバは順調に足場チェックを進め、その日のうちに三班のノルマ割り当てとされていた範囲を無事完了した。

 事故なんてなかった。

 もっとも、新人が入っていることを勘案したノルマだったので、サルバは教えながらじゃなきゃ余裕の量だとも言っていた。

 サルバに交代の船長が近づいて、挨拶と返礼を交わした。


『おう、お疲れ』

『お疲れさまっす、船長』

『なんか変化あったか?』

『何もないっすね、せいぜい、グーンの単独空間姿勢制御がうますぎて、手ぇ繋ぐと途端に取っ散らかるってことが判明した、ぐらいっすか』

『あー、ゼロG空手のな。んじゃアレだな、地獄の特訓だな』


 サルバと交わした会話でグーンの現状を知った船長は、そう言ってニヤリと笑った。


『だってよグーン、覚悟しとけ』

『ウッス』


 突然話を振られてそれしか言えなかったが、ここで拒否するのは悪手だろうから、きっと結果的に正しい返答が出来たんじゃないかな、とひとり考えるグーンであった。

 サルバは船長に向かって最後の挨拶をした。


『それじゃ船長、おあとよろしくお願いします、ご安全に』

『おう、ご安全に。ロリエ、割り振り考えようぜ』

『あいよ船長』

『んじゃ俺たちは帰りますー』

『お疲れ様っした』


 そんなやり取りのあと、二人は何事もなく船まで戻った。

 お互い、汗をかいた身体を清拭(せいしき)したり、スーツを脱いで軽く清掃したりするうち、時刻は〇一〇〇(マルヒトマルマル)になっていた。


 一班が用意してくれていた、ちょっと冷めた食事をもそもそと頬張る。

 そして一休みした後に、サルバが声を上げた。


「ハイそんじゃ、お勉強ターイム」

「え、昨日はやんなかったッスよね」

「だって初日に勉強すんの嫌じゃん。寝不足気味だったし」

「まぁ確かに寝不足だったッス……就寝時間直前の記憶ないッスもんね」

「お前寝てたよ。俺が起きたとき見たもん」

「起きたときって、先輩も寝てたってことじゃないッスか」


 グーンのブツブツ声には関心を寄せないまま、サルバはモニターを壁から剥がし、ちょいちょいと操作をして、グーンに見せてきた。

 そこにあったのは、様々な科目の問題集一覧だった。


「あれ、ドリルッスか」

「お前ドリルって……初等学校じゃねんだから、せめて問題集って言えよ」

「自慢じゃないッスけど、科目によっては俺の知識は初等並みッス」

「威張んな」


 よその会社でも行っているかは不明だが、ここメリ建では、社員同士による勉強が行われていた。市井で購入できる教本や問題集のほか、社員お手製の教本、問題集、論文集を社内ライブラリで公開しているのだ。もちろん一般図書の用語辞書、参考書などや、教育シミュレータも揃っていた。


「すんごい数ッスねー」

「まぁな、俺も最初はビックリしたよ」


 ライブラリの横に表示されているタブには、全て、検索、課目一覧のほかにも、資格対策、職種、などとズラズラと表示されていて、つまり分類しないと目当ての教科が探しづらいほど数が多いことを示していた。


「なんでもその時代時代で、社員が必要にかられて買ったり書いたりした教本とか問題集を社内ライブラリに収めてたら、こんな数になっちまったんだとよ」

「へー、ひと財産って奴ッスね」


 グーンは、全てとなっていたライブラリ表示を、課目に切り替えてみた。

 切り替えると、建設法・空間交通法・惑星登記法・会社経営関連法を中心とした「法令」、安全管理・品質管理・業務管理・健康管理などの「管理」、航路軌道設計・建築構造物理・測量などの「物理数学」、航宙機整備、税務財務、救急医療、損害保険、スポーツ、計算術、社交術、弁護術……。多岐にわたった科目が表示された。

 うわ、格闘射撃術入門なんてのもある……著者が船長だし。

 初代社長のメリー・ロワデフルールという名前がチラホラ見当たる一方で、今の社長のリリーフ・ロワデフルールと書いてあるのは一冊だけで、しかも模型術だった。

 なにこれ。趣味?


「これ、全部やるんスかぁ?」

「全部じゃねぇよ」

「よかったー」

「結果的に必修同然、ってのはあるけどな」

「えー」

「いっぺんにじゃなくて少しずつ何年もかけてだから、安心しろよ」

「何年もッスか……」

「なにウンザリした顔してんだよ。毎日二時間は勉強、二時間は筋トレだ」

「筋トレ四時間やらしてください」

「だめー。諦めろ」


 グーンは半ば諦めて、勉強に取り組むことにした。

 とはいえ、会社のサポートでスキルアップが狙えるというのは、まぁ美味しい話ではあるな、とグーンは考え直した。


「つーか俺も勉強途中なんだよ、自分だけって訳じゃねんだから、頑張れ」

「ウッス」


 グーンはひとまず自分でもやれそうな課目を選んでみた。基準は、もう取得した資格以外の、仕事に役立ちそうなものだ。

 んー、興味もあるし航宙機整備教本を見てみるか。グーンはそう考えて教本を開いた。


【エンジンと推進器】

 エンジンとは、広義には動力を発生する装置全般を指すが、航宙機の場合には狭義にロケットエンジンを指す……


【化学ロケットエンジン】

 化学ロケットエンジンとは、燃料と酸化剤を燃焼(酸化反応)させることで得られる熱、燃焼ガス、圧力を利用する内燃機関で……


【燃料と推進剤】

 燃料と推進剤は本来別物だが現在はほぼ同一視されており、元素の入手がしやすい液体メタンが主流となって……


 くかああぁぁぁぁ……む。

 グーンは特大のあくびを一つして、眠気を(はら)うために頭をブルブルと振ると、コーヒーを一口飲んで独り言を口にした。


「うーん初めは概要ばっかだな、具体的な整備に移るのいつ頃よ、だいたいいっぱい紹介しすぎて、この船に即したものがどれだかサッパリ分かんねぇなぁ」


 グーンはチラリとサルバの様子を見た。

 どうやら問題集のタイムアタックをしているようで、真剣な様子で汎用モニターに回答を書き込んでいた。

 しばらく話しかけられそうな雰囲気ではない。


「この船のヘルプから手がかり得られっかな」


 結論を言えば、ヘルプには一覧できる機体概要は掲載されていなかった。なのでヘルプからの類推で機体概要を探るしかなかった。


推進・姿勢制御系:

 ・液体メタン/液体酸素化学ロケットエンジン一軸二クラスタ二基 計四基

 ・同化学ロケットスラスター三軸六クラスタ八基 計四十八基

 ・リニアモーター式リアクションホイール三軸六基


発電系:

 ・メインエンジン・プレバーナユニットの電磁コイルオルタネータ四基

 ・冷却系温度差発電機(エンジン四基、電算機ユニット一基、居住部一基)計六基

 ・リアクションホイールの回生ブレーキ(駆動モーターによる発電ブレーキ)


 ふう……。グーンは息をついた。

 軍用品払い下げ品と聞いていたので心配はしていなかったが、非常に常識的な構成だ。

 ちなみに人力リアクションホイールはヘルプに書いてあったが、筋トレについては書かれていなかった。裏技なのか後付けなのか……。


「今日のところは、化学ロケットのうち液メ/液酸のタービンエンジンとスラスターの整備方法を知れば、上出来かなー」


 グーンはそう納得して、整備方法を見てみた。

 どうやら基本的には、エンジンユニットアッセンブリ全体がメンテナンスフリーとなっていて、どのモデルも平均五百時間ごとに分解清掃を行うこととなっているらしい。とはいえ現代のモデルは、ユニット自体がユニバーサル規格に準拠しており、外寸、取付位置、カプラーが全て同じであるため、エンジンユニットのアッセンブリ―交換だけで全て済んでしまうらしい。

 日常整備としては、エンジンユニットの特性を測定してキャリブレーションを行うことが必要だが、それは百時間ごとにコンピュータが自動で行うので、手を煩わされることはないらしい。

 なおいずれも、分解整備やマニュアルキャリブレーションにはそのエンジンごとの免許証が必要なので、むしろ手出し無用、とのことだ。


「ふーん、教本によると、エンジン回りの整備は不要で、時間で全取っ換えかぁ」


 一方スラスターは、全体をメンテナンスフリーにするより構造自体を簡単にすることに重点を置いているようで、日頃からプラグ清掃とカーボン清掃が必要らしい。分解整備も簡単なようだ。ただし一定時間でキャリブレーションが必要なのは変わらない。

 そして日常のプラグ清掃とカーボン清掃には、専用清掃具が用意されている模様。ほう。


「サルバ先輩、問題集終わったッスか?」

「もうちょっとだけど何だ?」

「この船にもスラスター清掃器具って積んでるんスかね」

「ああ、あるよ、あとで見せてやるよ」

「ウッス」


 しばらくグーンが教本を読んでいると、サルバが顔を上げた。


「終わったー、どれ採点はっと、六十点か、もうちょいだなー」

「すごいッスね、六十点とか。ガッコのテスト赤点ばっかでしたよ俺」

「馬鹿オメー、資格試験の合格点数六十五点だぞ、足りてねぇんだよ」


 グーンの言葉にサルバは頭を抱えた。


「何の資格ッスか?」

「二級(とび)技能士だよ、去年三級取ったからよ、スキルアップだ」

「ほー、そりゃ頑張んないとッスね」


 その他人事っぽい言い方に少しイラっときたのか、サルバは顔を上げてグーンを正面から見据えて言った。


「何ノンキに言ってんだよ、学校で取得してたんじゃねぇんなら、お前も取んなきゃまじぃんじゃねの?」

「言われてみれば鳶は取ってねッスね、そっかぁ……」

「この仕事終わって会社戻る頃には、すぐ願書受付期間だからよ、考えとけ」

「ウッス、三級鳶の問題集読んでおくッス」

「そうしとけ。メシ準備すっか」

「ウッス」


 そうか、卒業間際まで資格試験対策の勉強漬けだったけど、これからも続くんだなぁ……。

 グーンはそう考えて、少しだけゲンナリした。


次話は、第二〇話 初清掃(スラスター清掃具)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ