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1I/2017 U1  作者: ウムラウト
第1章 転生
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2 転生?

 無。表現するなら、その一文字だ。そんな光も闇も無い、身体の感覚もない、時間すら感じない空間に俺はいた。


 あれから、どれだけの時間が経ったのだろうか。俺はあの後どうなった? …恐らく即死だろう。あれだけの速さの電車に轢かれて、とても生きているとは思えない。

 とすると、ここは死後の世界か? 俺は神様とか、天国とかの存在を信じていなかった。漠然と、死んだら生まれる前に戻る……つまりは無に帰ると考えていたが、ここがそうだと言うのか?


(…何でだ。何で俺がこんな目に遭わなくちゃならないッ!? こんなの理不尽過ぎる!)


 そう怒りが湧いてくるが、すぐにすうっと気分が落ち着いてくる。……いや、無に意識が沈んで行く気分だ。


(…もう、何も…考え…られ……ない………)



 * * *



《……》

(……?)

《…た…失敗…》

(…何だ?)


 あれから意識を手放して何日…いや、何年経っただろうか? 100年…いや、すでに1000年位経過しているか? それとも数分かもしれない…。時間というものが一切感じられないのだ。何年経っていても、数分だとしても不思議ではない。

 俺は、この何も無い“無”の空間で声を聞き、意識を取り戻した。


《…だが…あと……》

(何だ? 何を言っている?)


 俺は、声を聞き取ろうと耳をすます。…といっても、聞き取る耳も無い。その声も、聞こえるというより脳に直接呼びかけられているような感じなのだが……。ああ、脳も無いのか。


《…れでは、計画は……に》

《異存…ない》

《××××は無理なのですかね。もはや諦めた方が…》

《いや、もう少し…あと少しなのだ》

《…××××。手をかけてもうどれくらい経ったことか……》


(何だ? お前達は誰だ? 何を話しているんだ!?)


《おや?》

《まさか……》

《これは…!?》

《何と、成功していたのか!?》

《ようやく…我らの悲願が…》


(お前達は何だ? ここは何なんだ!?)


《成功ですか?》

《ふむ。微妙だな》

《う〜む。あと一息といったところか?》

《消えかかっているが…》

《では、計画は変更。コレの様子見をする…ということでどうでしょう?》


 声の連中は、俺の存在に気がついているみたいだ。だが、時折意味が分からない言葉が聞こえたり、そもそも話についていけない。というか、俺の質問に答えてくれる様子がない。


《それでいきましょう》

《そうだな》

《うむ》

《それでは…》

《もう少しの辛抱ですね》


(おい、頼む。答えてくれ! お前達は何なんだ!?)


《新たな××に期待を込めて…》

《××××××…》

《頑張ってく…××…》

《××…待っていますよ…》

《××…おめでとう…》


(おい! いいかげんにしてくれッ!!)


 その瞬間、突然目の前が真っ白になった感覚に陥る。そして、俺は目を覚ました。

 身体が重い…って身体!?


(何だ? 何が起きている?)


 身体の感覚がある!

 そのことに感動しながら、重い身体を動かす。だが、思うように動かない。力が入らないのだ。首も回らないので、重い瞼を頑張って開け、目を見開いた。そこは、薄明るい空間だった。天井は真っ白で、例えるなら病院のようなところだろうか?

 もしかして、助かったのか? 当たりどころが良くて、奇跡的に電車に轢かれても助かったのだろうか?

 ……だったら、後遺症とか心配だな。今も身体が動かないし。


 そんな事を考えていたら、あることに気がつく。どうも光が反射しているので、俺はカプセルか何かに入れられているようだ。検査か何かだろうか?

 しばらくじっと待っていると、お腹が空いてきた。


(…あ〜、誰か来ないかな。すごくお腹空いたぞ)


 声を上げようとしたら、舌が上手くうごかせずに変な声をあげてしまう。


「オギャー!オギャー!」

(…って、赤ん坊かよ!?)


 カプセルのガラス部をよく見ると、反射して自分の顔が写り込んでいる。そこには、可愛らしさ満点の赤ちゃんの顔が……。


「オギャー!オギャー!」

(な、何だこれは!? ま、まさか…転生ってやつか!?)


 アニメや小説じゃあるまいし……。

 まあ、テレビや書籍で前世の記憶がある人の話をやっていたが、殆どが偶然やもっともらしい嘘で、信用できる内容ではなかった。記憶とは、脳の海馬が司っているので、故人の記憶を持つ別人なんて存在は、ありえないのだ。

 だが、もし仮にそういうことがあるのだとすれば、まさにこの状況に説明がつく。…それともただの悪い夢か。


 だが、腹が減っているのは事実だ。何でもいいから、何か食わせてくれ〜!


「オギャー! オギャー!」


 しばらく泣いてみるが、一向に誰も来ない。だんだんと、頭が重く、視界もぼやけてくる。


(…あっ、これマズいやつだ)


 貧血を起こしたような、意識を失うか失わないかの瀬戸際にいる感じだ。すごく気持ち悪い…。

 意識を失いかけたその時、カプセルを覗き込む人影が見えた。


(た、助けて……)


 そこで、俺の意識は途絶えた……。



 * * *



「────ッ!」

「──!」


 …人の声がするが、どうも聞き取れない。少なくとも、日本語や英語ではないな。目は覚めたが、腹は減ったままだ…。何か食べるものを…そう言おうとして、口を開く。


「オギャー!オギャー!」

「「 ッ!! 」」


 …赤ん坊になったの、夢じゃないのか。だが、泣き声を上げたおかげで、気がついてもらえたようだ。二人の男女が、俺を見下ろしてくる。

 一人は、凄く整った顔の金髪翠眼の美女、もう一人は厳つい顔の大男だ。そして、奇妙な事に女の方は耳が長く尖っており、男の肌は真っ赤で、額からは二本の短い黒い角が生えていたのだ。

 女は俺を持ち上げて、顔を近づけた。


「……」

「あっ、────ッ!」


 気になったので、手を伸ばして女の耳を触る。先程は布か何かに包まれて、手が動かせなかったのだろう。今なら少しは動かすことができる。

 女の耳は暖かく、血が通ってるのを感じる…少なくとも偽物じゃない。生まれつき長い耳なのか?

 …いや、まさかファンタジーとかのエルフじゃあるまいし。


「────!」

「──ッ!? ──!」


 女は俺を引き離すと、男に俺を押し付けた。男も俺を持ち上げ顔を近づける。角が気になるので、触ってみる。…少なくとも、接着剤でくっつけたような感じはしない。多分本物だ。肌も、塗料が塗られている感じはしない…。


 この二人の特徴は、本来なら人間には無いものだ。イレズミとか、身体改造した外人って線もあるが、そんな人間は少数だ。

 しかも男の目は、白目の部分が黒く、瞳はアンバーで、瞳孔は猫や蛇のように、縦長だったのだ。こんな高リスクの身体改造してる奴なんて、まずいないだろう。


 とすると…もしかして、転生は転生でも異世界転生ってやつなのか!? この二人…女はエルフ、男は鬼か何かなのか!?


 何が何だか分からない…。そして、混乱しているうちに俺はベッドに寝かされていた。視線を向けると、エルフが鬼を部屋から追い出していた。

 そして、エルフは突然服を脱いで上裸になると、机の上に置いてあった金属製の容器を持って、俺に近づいてくる。


「オギャー!オギャー!」

(まさか、これは…!?)

「────」


 エルフは優しく微笑むと、片手で俺を抱き上げて、自分の乳房に俺の顔を押し当て、容器の中身をゆっくりと垂らしはじめた。


「オギャー!オギャー!ムグッ……」

(や、やめろ…! 俺にそんな趣味は無いぞ!!)


「…んっ!」


 容器の中身…ミルクか何かか? 赤ん坊の今、これを舐めないとダメなのだろう…だが、しかし…。

 だがミルクが口に入ったその時、俺は耐え難い空腹感に襲われて、我慢出来なくなってしまった。


(誰だか知らないが、生きる為には仕方ない。……ごめんなさいッ!!)

「んあっ!」


 頼むから、変な声を上げないでくれと思いながら、俺は渋々、エルフの胸に吸い付いて、命を繋ぐことにした。


(ふぅ、何とか生き延びる事が出来そうだぞ。……ん? 何だか意識が薄く……)


 腹が満たされた安堵からか、凄まじい眠気に襲われる。いや、眠気というより、意識そのものが重力に引っ張られるような、不思議な感じだった。

 そうだ、きっと夢でも見ているのだ。なんでその事に気がつかなかったのか。目が覚めたら、スーツに着替えて、会社に行く準備をしなくては……。



 それから10年以上の間、俺の意識は目を覚ます事は無かった……。

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