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あの日の言葉を取り戻したい  作者: やましろ真
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入学式

 人は自分の中にたくさんの違う自分を持っている。


 一人一役なんて無理。だから今日の嘘もしょうがない。あの頃の僕はそう思っていた。



 四月一日。田舎の高校に進学することを決めた僕は入学式を迎えていた。


田舎の高校といえども入学式はそれなりに人が集まってくる。

新入生と保護者で溢れかえった道を周りに合わせてゆっくりと進んで行く。


人混みを抜けるとクラス分けの紙が掲示されている場所に到着した。

田舎の学校というだけあって、クラス分けの紙には中学の同級生以外にも聞いたことある名前がちらほら。


自分のクラスと教室を確認していると背後から聞き覚えのある声がした。


「奏太!」


中学三年間同じクラスだった堀田雅春(ほったまさはる)だ。


「おお、雅春じゃん。おはよ」


僕は落ち着いた様子で挨拶したが、正直なところ、知ってる人に会えてほっとした。


「おはよ!いやー、知ってる人に会えてよかったよ。奏太は何組?」


やっぱり入学式はみんな同じ不安を抱えているらしい。


「俺は五組。雅春は進学クラスだから1組だっけ?」


「そうそう!よく知ってんじゃん!」


「まあな」


進学クラスと言っても、課外授業や課題が他に比べて多いだけだ。面倒なことが嫌いな僕には全く向いていない。


「じゃあ、また後でな!」


「おう!じゃあな!」


雅春と別れてから僕は昇降口へ向かった。新品の上靴を袋から取り出して履き替える。

卒業する頃にはボロボロなんだろうな、なんてことを考えながら四階にある自分の教室に向かって歩き始めた。


 教室に着くと、ドアに座席表が貼ってあったので、それを確認して自分の席に着席する。

今回も窓側の席。

僕の苗字は山倉だから名前の順で座るときは大体決まって窓側の席のどこかになる。


リュックサックの中から筆記用具を取り出していると、見知った顔のやつが教室に入ってきた。


矢口コウタだ。


小学校からの友達だけどめちゃくちゃ気が合うってほどでもない。コウタは小学校の時から、学校の中心グループのメンバーだった。いわゆる生粋の陽キャってやつ。


僕はと言うと、その場に合わせてキャラを変える人間だから隠キャでもあり、陽キャでもあった。どっちが本当の自分なのかは自分でもわからない。場の雰囲気を乱さないことが僕にとっての最優先事項だ。


コウタは教室にいる数人の男子に声をかけていた。サッカー部で活躍していたコウタは知り合いが既に何人かいるらしい。

数人の男子と話を済ませると、小学校の時から変わらない、僕の前の席にやって来た。


「コウタおはよ〜」


僕が軽めに挨拶をするとコウタはすぐに気づいた。


「またお前の前かよ!!」


「俺も座席表見て笑ったわ!腐れ縁にもほどがあるよな」


「ほんとだよ!まあとりあえず一年間よろしくな」


「おう」



 僕は小さな嘘をついた。

笑ってないけどとりあえず笑ったと言っておく。この程度の嘘はこの世界じゃ嘘にはならない。


場の雰囲気に合わせることが大事だと思っている僕にとって偽りは必要不可欠だ。







 





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