不可解な消滅の謎
「ミツー!!!」
「おーい!!!」
生命の森にホーリーの住民たちの声と、馬の駆ける音が遠く響く。
マリア達は、ミツが手紙を届けるときに通ったであろう道を数十人体制で手分けして探している。
マリアはホーリーの隣のヴィアラルフに住んでいるのだが、ヴィアラルフを囲うようにして塀があるため中にはいるには塀の正門までいかなければならない。
ホーリーからだと生命の大森林を横断した方が早いので、住民は皆そうしている。
当然、ミツもそうしていた。
なので、塀の方を探索する人数は少なめに割り振りしてある。
ヴィアラルフの中を捜索する人数も少なめに割り振りされている。
マリアの家までの道の捜索と、店や宿を回るだけでよかったからだ。
一方……
ほとんどの人数が大森林の中の捜索に当たっていた。
モンスターや動物などがいるので、マリアもここに属している。
マリアの回復系の魔法は精霊との相性が良いので、マリアは精霊の力を使うことができる。
純白の美しい精霊馬を召喚させ、マリアは乗っていた。
数十人とはいえど大森林とも呼ばれるそこはかなり広く、時間がかかっていた。
「疲れた……一体ミツはどこに行ってしまったんだ。」
「あの真面目なミツが、勝手にどこかにいくところも想像できないしな。」
大森林の中を捜索しながら二人の男が話していた。
その後ろでマリアもそれを聞き、その通りだと思っていた。
(ミツが自分の意志で何処かへ行く訳ないわ。もしかしたら何かの事件に……)
考えを巡らせていたマリアが、ふと無意識に顔を上げ前へ向き直った。
その時だった。
「うおっ!?」
男が馬から落ちる瞬間を見た。
……いや、落ちるというよりマリアには馬が消えたように見えた。
隣の話していた男は上手く理解が出来なかった。
「……え?」
落ちた男は地面にしりもちをついていたが、今の今まで乗っていた馬の姿が見当たらないのだ。
「いてて……あれ、俺の馬は?」
その不思議な出来事は、三人以外に見たものはいなかった。
その三人は疑問の答えを探すように、目を見開いたまま辺りを見回した。
馬は完全にこの場からいなくなっていた。
三人は顔を見合わせた。
あまりに急なことだったので、自分たちの疑問が晴れるような答えを自分たちで仮定した。
「きっと、丁度俺らの死角を縫って逃げたんですよ!!!」
「そっ、そうですよね!!! なんで逃げたんでしょうか……」
二人とも苦笑いだった。
だが、説明がつかない不思議な現象を信じられるはずもないだろう。いかにも人間らしい行動だ。
納得はいかないがあまり道草を食っている訳にもいかないので、ぼちぼち捜索を再開した。
(さっきのは一体何だったのかしら……私には明らかに消えたように見えたわ。でも、気になるけれど今はミツの捜索に専念したほうがいいわね。)
マリアは雑念を振り払いながら森を精霊馬で駆け抜けた。
時間が結構経っていたので、状況確認のためヨルのところへ向かった。
ヨルは森の東側を捜索しているので、マリアは自分のいた西側からの移動となった。
代表格のものが対になって割り振りされるのは、緊急時に迅速に対応できるため基本だ。
……だが少し距離が長い。大声で叫んだとしても全く聞こえない程だろう。
(東側で、ミツが見つかっているといいのだけれど……)
マリアはミツのことを赤子の時から知っていた。なのでとても心配だった。
マリアは少し、焦燥感を覚え馬を飛ばした。
(あれは……モンスター!!!)
大剣を構えたヨルを筆頭に、武器を手にし民たちが戦っていた。戦っているのは闇色の大きめの豚のようなモンスターだが、様子がおかしい。あの種類のモンスターはあまり強くはないはずだが、大分消耗しているようだった。
(属性は……影が広いから闇だわ。遅れをとる訳はこれね。)
得意不得意の属性というものが個人にはある。魔法がつかえるのと同時に、【火・水・草・光・闇】の中から一つ属性が芽生えるのだ。主にそれは親の遺伝なので、モンスターとの戦闘経験が無くても大体は皆把握している。
狭い町であればあるほどその種類が少ないので、全滅しやすいと言える。
属性が二つある人間はまず生まれない。
普通の人間は大体【火・水・草】の中のどれかである。光や闇の属性をもって生まれてくるものは結構珍しい。能力もほとんどが高く生まれてくる。
強いモンスターは大体が光・闇属性である。そういったものに対抗するための力として、光・闇属性の人間は重宝される。
モンスターには更に、ゴースト・無・土等々多くの属性が発見されている。モンスターも一つの属性しか持ち合わせていないのだが、昔話や伝記などの中には多種属性使いの話もある。だが、現時点では確認されていない。
現時点で確認されているのはここまでであり、これが全てなのかは分からない。
(滅多に出ない闇属性に遭遇するなんて、運が悪いわ……。)
闇属性のため、平常のモンスターよりも数倍強い。死人が出ていないだけマシだ。
マリアは大きく息を吸い込むと、大声を発した。
「皆!!! 伏せて頂戴!!!」
ヨルたちはそれが耳に届くと、一瞬で膝を曲げ手をついた。安堵の表情を浮かべていた様だった。
精霊馬に乗った状態で、マリアは白く細い剣を抜き放つ。
「アドーナーイ・ホーシーエーニー!!!」
白い光を激しく放つ剣をマリアは両手で持ち、構えた。
それに気づいた闇色のモンスターはマリアへ突進していく。
精霊馬の背を蹴り、マリアが美しく宙を舞う。綺麗な髪がふわりと浮く。
「ギィィィイィィイィィィィ!!!!!!」
モンスターは汚い声を発した。
マリアの剣がモンスターを切り裂くと、華麗にマリアは地に降り立った。
まるで天から舞い降りた女神のようだった。
一撃でモンスターは倒され、民たちはマリアのもとへ駆け寄った。
「マリア様!!! お助けくださり感謝いたします!!!」
「何とお美しい……素晴らしい攻撃でした。」
民たちは自分がかなりの怪我を負っていることも忘れてマリアへ感謝し続けた。
「あなた達、傷だらけになるまでよく頑張ったわ。とってもかっこいいわよ。」
全員に回復魔法をかけながら、マリアはそう言った。
「マリア様の光魔法の方がかっこよかったです。見惚れてしまいました。」
実はマリアは光と闇、両方の属性を持つのだ。身体能力が軍を抜いていて、剣を扱うことを得意とする。先程のは光属性の魔法(闇の浄化、力の増幅)を剣にかけ、闇属性の相手を切ったということだ。
マリアは魔法操作も得意としており、何にでも魔法をかけることと、魔法を組み合わせたりもできる。
マリアは民に囲まれて感謝の言葉を浴びせられていた、
その時だった。
すぐ横で、マリアの切ったモンスターが急に消えた。
今度は皆が見ていた。
「っ……まただっ!!! これは呪いだぁ!!!」
一人が眉をたれ下げ、絶望を目の当たりにしたような目で叫んだ。
周囲の人もその声を聞いてから、急に怖くなったようにガタガタ震えだした。
(また……ということは、皆もあの現象を見たということ……?)
「あなた達の中にも馬が消える瞬間を見たものがいるの?」
驚いて少し早口になった。それを聞いたヨルも、少し恐怖が顔に出ていた。
「マリア様は馬が消えるのをご覧になったのですね……私たちは……。」
周りに怯えている者たちがいるため、口に出すのは遠慮するようにヨルは右に視線を送る。
右を見ると一帯の木がなくなっていた。かすかに、魔法の香りがした。
(成程、木が消えるところを見たのね。)
マリアは大体のことを理解した。それを話すために、前へ向き直る。
「皆、よく聞いて。これは不思議な現象でも何でもないわ。魔法の香りがするから、これは誰かの仕業よ。」
「こんな事、一体誰が……。」
「わからないわ。でも相手は森の中で活動しているから、ここにいたら私たちにも被害が及ぶ可能性があるわ。だからホーリーへ帰りましょう。」
「ではミツは……。」
「残念だけれど大勢の命には変えられないわ……。帰ってきてくれることを願いましょう。」
「そんな……。」
ヨルは苦しそうな表情のまま口を開いた。
「マリア様は我々のことを案じてそう言って下さっているのだ。今日は撤退しよう。」
他の場所にいる者たちに事態と撤退を知らせるために、何人かが派遣されていった。
マリアはヨル達とともに帰った。
ややこしくなるので、現時点で分かっているマリアの能力書いていきます。
・属性→光と闇
・属系→回復と防御
・精霊術が使える(精霊の召喚や対話などもできる。ただし召喚は名前を教えてもらえた精霊のみ)
・魔力感知にたけている(マリアの場合、甘い独特なにおいがする)
・魔力操作ができるため、応用の魔法などを使うことができる
♦二系性というのは~
人には属性というものがあります。その中でどういった魔法が使えるかが○○系です。
例えば火属性の攻撃系だったら、火で攻撃する魔法が使えます。
♦魔法操作というのは~
名前の通りです。魔法が対象のものに当たるかどうか。我々でいう器用不器用です。
ほとんどの人が不器用派で、魔法は持っているだけという認識。だから皆武器を使います。
魔法だけで戦える人は本当に少ないです。マリアは剣+魔法です。
閲覧ありがとうございます!!!