マリア様 生誕
バタン!!
「っ……王様!!! 大変でございます!!!」
勢い良く開かれたドアの向こうには、慌てた兵士が一人。
「そんなに慌てる程のことがあったのか……!?」
「ええ、城下のある家から凄まじい程の魔力を感じるのです!!!」
(何があったというのだ……このままでは民が危ない。)
「近隣の住民を事態が収まるまで、城に寝泊まりさせろ。兵士を引き連れて、私は様子を見に行く。」
「はっ。兵士はどういたしますか?」
二人の会話を聞いていた、王の横に控えていた者が口を開いた。
「王、私めに護衛の部分はお任せいただけないでしょうか。」
「ヴィーン……。」
ヴィーンは10才の少年のことである。貴族で非常に剣術に秀でているため、この度王様の護衛として任命された。実力のあるものが上に行くのが常識であり、年齢などは気にされないような世界だった。
「……分かった、ではおぬしを信頼して任せることとする。」
「勿体無きお言葉、心より感謝致します。この身にかけても王を御守りいたします。」
そう言うと、すぐさまヴィーンは王の間を出ていった。
それから30分とたたぬうちに、城の前には武装をした兵士達とヴィーンが剣をついて並んでいた。
馬に乗った王の周りを兵士が囲み、そのまま城下の家へと向かった。
避難は済んでいて、にぎやかな町が嘘のようだった。
報告があった家の前に並び、一人の兵士が大きな声で警告をした。
「家の者!!! 王がお越しである!!! 何も隠さずに潔く出てこい!!!三分間経過したら、我々は突入する!!!」
すると、ガタガタという音と話し声らしきものが中から聞こえた。
その直後中からは一人の男が両手を挙げて出てきた。
「恐縮ですが、王様ともあろうお方が私どものような平民に、どのような御用がおありなのですか……?」
声が震えていた。突然兵士を引き連れた王が訪ねてきたのだ、無理もないだろう。
「魔力感知ができる者が、ここの家から膨大な魔力を感じたのだ。中を見せてもらおう。」
「そんな……中はとても汚い状態です。王の目に触れされることなどできません……。」
「怪しいやつだな!!見せろといっているのだ!!」
兵士が声を荒げた瞬間だった。
「ふえっ……」
赤子が泣きそうな様な、声が聞こえた。
その場のものは全員、目を丸くした。
「じっ……実は……。」
男は観念したように話を始めた。
話によると、先程生まれた赤子がいるのだが魔力が凄まじいことに気づいたらしい。両親がどちらも魔力感知に長けていて、呆気に取られている時王が訪ねてきたのでつい隠してしまったのだと言う。
「外の状況にも全く気付きませんでした。怪しい真似をしてしまい、本当に申し訳ありません……。」
赤子を抱えてもう一度出てきた。母親は奥で寝ているようだ。
「王、この子は国の守護者としての役目を果たせるのではないでしょうか。」
魔力を目の当たりにし、驚いたままヴィーンは告げた。
ヴィアラルフには守護者という制度があり、国で一番剣術にたけているものと魔法にたけているものに国を守る使命を与えるというものだ。大変名誉である。
大体は、戦いでその地位をもらうものが今までの習わしだった。
だが、勝てるものはいないと確信したので否定の声は上がらなかった。
「そうだな……では、赤子の親よ。この子は何という名をつけたのだ?」
「マリアという名を与えました。」
「そうか、とても良い名だ。ではマリア、そなたには守護者の地位を与えよう。魔法を確認できるような都市になり次第、城においで。」
マリアはかすかに動いた。
「マリア様の親御殿、貴方の一族に創造系の能力を持つものはいらっしゃいますか。」
ヴィーンが確認する。この世界の人間の能力は主に二つで、物を作り出す創造系の魔法・標的を定めて魔法で攻撃をする攻撃系の魔法のどちらかが使える。能力は主に遺伝性だが、隔世遺伝の記録もあるからだ。
「いいえ、大変珍しいことですが私たちの家系にはおりません。」
「そうですか。質問に答えてくださったこと、感謝致します。」
これで、大きな騒動は終わりを遂げた。
そして二年後、王は頃を見計らいマリアを城へ招待した。
大体、二歳ごろになると魔法が発見される。
魔法使い達と奥の部屋へ入っていくマリア。その話は広まり、城下の者たちまでもが皆、マリアの魔法が確認される今日という日を楽しみにして来た。
両親や王、ヴィーンなど様々な人が部屋の前で鼓動を早めていた。
その時、キィ、と扉が開いた。出てきた魔法使い達は、本来するはずのない表情だった。わからない、というような、またはとても残念そうな、複雑な顔だった。
どうしたのですかとマリアの母が尋ねると、魔法使いは奇妙なことを言い出した。
「何かわからない魔法を、マリア様がお使いになったのです。」
こちらの方がわけがわからない説明に、人々はどよめいた。
マリアは標的を用意して、魔法を使うように促しても中々使わなかったのだ。しばらく魔法使い達は頑張り続けたが、やはり無理だった。半分諦めながらも続けていると、そのうちの一人が置物の角に手をかすめ、血が垂れた。
次の瞬間、マリアから魔法を感じられたのだが周りは何も変わっていない。疑問に思いながらもその魔法使いは血を拭った。
すると、傷がなかったのだ。
最初はさすがに違うと思っていたが、不自然すぎる。自暴自棄になり、爪で腕を傷つけてマリアの前に差し出してみた。
「お前、マリア様の前で何をしているんだ。」
皆がその腕に視線を送った。魔術師は血をぬぐうとかすり傷があった。
すると、マリアからまた魔法を感じられた。
また、魔法使い達は魔法の発動先を探した。
やはり、傷は治っていた。
「皆、俺の腕を見てくれ。」
促され、腕を見た者たちは徐々に異変に気づいていった。
「魔法で傷を治したというのか……?」
その後、何度も何度も人や箇所を変えて試したが、やはりそうだった。
皆、それを聞いて口を閉ざした。
「傷を癒す魔法なんて……聞いたことがありませんね。」
ヴィーンが発言した。皆そう思っていた。
この世界には、まだ発見されていなかったため【魔法で回復させる】という概念がなかった。
新しい属系かと思われたが、一人だけの異常なものかもしれないので、マリアだけに【回復系】という特別な区分を与えた。
とても残念だった。新たなこの町の今までとは、レベルが違う守護者が見つかりそうだったからだ。さらに安定的な暮らしになると誰もが楽しみにしていたことが、今、打ち砕かれた。
マリアは守護者の地位を降ろされた。
マリアは何をしたわけでもないが、陰口をたたかれたりもした。
だが、マリアは強い子だった。
「人のけがを直せるなんて、私はいい能力を持って生まれてきたわ。」
両親は、その言葉に救われた。
それからマリアはたくさんの人々を助けた。
その中でも、「ホーリー」という病気の人が集う場所を立て直したのは有名だ。病気を治し、統治者を指名した。
マリアは身体能力が驚くほど高く、城からもう一度、今度は剣の道で守護者を目指してみないかと奨励されたがマリアは断った。
「私は傷つけられる人が多いこの世で、唯一傷を直せるの。だから、私はこの能力を最大限に生かせる方に進むわ。」
マリアは【防御系】の魔法も使えることが分かった。回復系の応用かと思われたが、明らかに違う系統のものだったのでまたマリアのみの区分とし与えられた。
【回復系】と【防御系】
人々を守るような能力を持ち合わせる彼女。そして正しい方向に、人のために使う彼女。
彼女はいつしか、女神と呼ばれるようになった。
書き直させて頂きましたm(__)m