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「リリア様元気がありませんが、学園で何かありましたか。」
「…実はライアンに大嫌いって言ってビンタして、そのまま逃げてきちゃったの。」
何でライアンの前だと素直になれないの。自己嫌悪に陥るリリアはため息を吐く。子どもの頃からライアンが好きだった。だがその頃はまだ幼く、好きという感情が友達としてなのか、恋愛としてなのか分かっていなかった。ただライアンの側にいたい。それだけが理由で必至に剣術を学んだ。
この感情が恋だと知ったのは、ライアンが姉であるサリーと仲良く会話していたときだ。初めてその現場を目撃したときはショックで、リリアは何も告げずにその場を離れた。
「ライアンはお姉様と仲が良いの?」
「別に普通だけど、何でそんな事聞くんだ。」
「ミラが裏庭で2人が話しているのを見たって聞いたから。ほら、もしお姉様とライアンが恋仲ならライアンは私のお兄様になるんでしょう。だから確認しておきたくて。」
苦しい言い訳なのはリリア自身が1番よく分かっていた。だが、ライアンは特に気にした様子はなく答えた。
「別にサリー様とはそんな関係じゃないよ。俺が学園を卒業するまでで構わないから、俺を護衛にしてくれないか頼んでいただけだよ。」
「…どうして。」
「俺は将来公爵家を継ぐから騎士にはなれない。だが騎士になる憧れも捨てられない。だから、卒業するまでサリー様の騎士になろうと思ったんだ。」
その言葉と笑顔はリリアを酷く傷付けた。ライアンと一緒にいたい。その感情だけで幼い頃から供に剣術を習い、男友達のような関係になっていたリリアを、彼は守るべき対象として見ていなかった。
ずっと側に居たのに、リリアを選ばずサリーを選んだ。その現実にリリアは次の日初めて剣術の授業をサボった。
「リリアが風邪だって聞いたから、見舞いに来たぞ。」
「ありがとう。」
だがライアンはリリアの心を知らずに会いにきた。胸の痛みを抑えながら、リリアは必至に笑顔を作る。
「それより聞いてくれよ。サリー様に護衛の件を断られたんだ。他に俺が護衛になるのを引き受けてくれる人いないかな。」
「…私が引き受けようか。これでも一応第2王女だからね。護衛は必要何だよ。」
自分でも無意識に出た声を、ライアンはしっかりと拾っていた。
「リリアにも護衛が必要なら俺がやるが、リリアに護衛なんかいたっけ?」
「ミラがそうだよ。彼女は侍女でもあり優秀な護衛なの。いつも服の中に剣を隠しているでしょう。」
「そっか。ならヨロシク頼むよリリア。」
ライアンは心の中では私を男のように思っている。ライアンの恋人になりたいなんて、高望みはしない。だけどーー
「うん。その変わり学園にいるときはライアン女装して、カワイイ姫様を演じてね。」
「何で!?」
「私は一応お姫様だよ。剣の授業だって1週間に1日だけ。全然足りないの。私がライアンの護衛を承諾したんだから、ライアンも偽姫になるの承諾してよね。」
ライアンの隣に他の女の子がいるのは我慢できない。学生の間だけで良いから、ライアンのこと独り占めにさせてね。




