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「ねえ、ライアンは私の側にいて楽しい。本音じゃあもっと他の女の子と仲良くなりたいとか思っている。」
「何だよ。俺たちの話盗み聞きしていたのか。」
教室に戻り偽姫の役割を終えて、騎士服に着替えた俺にリリアが尋ねる。
「ライアンが他の女の子と仲良くする所を見たこと無いんだもの。」
「良いんだよ。仲の良い男友達は数人いるし、ワザワザ女の友達を作る気はないよ。…それに。」
「それに?」
「偽姫を演じていて女の裏の顔が分かって、恋愛する気分になれない。」
ライアンは影でヒソヒソ悪口を言う少女を好きになるつもりはない。それにこの国では社交界は学園を卒業してからだ。故にライアンの顔を学園に入学するまで知らない人は多かった。だが子ども同士でお茶会など交流がなかった訳ではない。
それでも交流のあった少女もリリアの変装に簡単に騙された。ライアンは昔自分と仲良くしようとしたのは家柄目当てだと落胆した。
「それじゃ一生独身だよ。次期公爵家の当主がお父様に怒られるよ。」
「じゃあその時はリリアが嫁に来いよ。どうせリリアも剣のことばかりで恋愛なんて興味ないだろう。」
それが1番良い解決方法な気がするライアンは得意気に胸を張る。ライアンは女が剣を持つのに偏見はない。リリアは男装して授業を受けるほど剣が好きなのだ。結婚してからも剣を振れる相手と生涯を過ごす方がリリアも幸せだろう。
「…あれ?」
リリアが何も言ってこないのを不思議に思ったライアンはリリアを見る。リリアは肩をプルプル震わせていて、ライアンを睨んでいた。
「リリア。」
普段とは全然違うリリアの反応に戸惑ったライアンは、顔を青くしてオロオロする。
「大嫌い。(ボソリ」
バシン。
「えっ。」
「ダイッキライ。ライアンなんかもう知らない。」
リリアに力いっぱいビンタされたライアンは、リリアが教室から去るのをすぐに追えなかった。何が起こったか分からない。だが、頬に残る痛みがライアンに現実を突き付ける。
「リリアにビンタされたのか。」
その言葉は誰にも届かず、ライアンは暫く呆然とビンタされた頬を押さえたまま立ち竦んだ。