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「リリア姫って本当に嫌な人よね。あんな我が儘な姫様の言いなりになって動くなんてライアン様ってば可哀相。」
「本当に第1王女のサリー様は、お優しい方なのに、本当に血が繋がっているのかしら。顔も全然似てないわ。」
「リリア姫は王族の面汚しね。」
全部聞こえるように嫌味を言う少女を無視して、ライアンはお茶を飲む。今はクラス混合のお茶のマナーの授業だ。本物のリリアは剣の授業でこの場にはいない。少女達はライアンが不在なのを良いことに、ここぞとばかりに嫌味を言う。
当然だが今は姫を演じていて、この場で最も身分の高いライアンが少女達に文句を言うのは簡単だ。だが周りに沢山の人がいる場で文句を言えば、リリアの評判は確実に下がる。ライアンは歯痒い思いをしながらも、リリアの為と文句を言いたいのを我慢していた。
「本日の授業はこれまでです。皆さん素敵な淑女になるべく、明日も頑張りましょう。」
『はい。』
お茶のマナーの授業が終わり、部屋を出ようとしたライアンだが、彼の行く手を阻むように立つ3人の少女たちに邪魔された。
「何か用事でしょうか?」
「ねえ、私たちの会話聞こえなかったのかしら。」
真ん中に立っていたド派手なドレスの少女の言葉に、ライアンは先ほど嫌味を言っていた子だと気付く。ライアンは知らないが、学園ではリリアはライアン様がいないと文句の1つも言えない。と、噂が流れていた。
「リリア姫に申し上げます。ライアン様を解放してください。」
「リリア姫はご存じないと思いますが、ライアン様は物凄く迷惑しているんです。」
「金輪際ライアン様に近付かないと約束してください。」
「はっ?どの口が私に文句を言うのかしら。」
ライアンは直接文句を言われて、我慢の限界に達した。リリアを意識して高くしていた声を、元に戻して少女達に詰め寄る。
「私はサリダレル伯爵家の娘ですよ。私に何かあればお父様が黙って「だから何ですか?」」
青い顔をする少女達にライアンは現実を教えてあげる。
「私は第2王女ですよ。伯爵家の令嬢ごときは私に意見を言うつもりですか。」
「そんなつもりでは…。」
「どんなつもりで私に意見を言ったのかは関係ありません。貴女にライアンの何が分かるんですか。」
「わ、分かるわよ。ルイストン公爵家の長男で次期当主。婚約者はいなくて女子に人気があるのに、貴女が邪魔してるからライアン様は他の女の子と仲良くなれず、迷惑しているんです。」
つまりこの女は俺の境遇だけで判断して、ライアンの…俺のこと何も理解していないのか。まだ俺に変装したリリアが好きだと言えば、酌量の余地はあったんだかな。
「貴女にひとつ教えてあげます。私は別にライアンに護衛の時以外で私の側に居ろと強制したことはありません。」
リリアは王族だ。ライアン以外にも護衛はいる。だが、ライアンは自分の護衛時間以外でもリリアと一緒に行動する事が多かった。
「あなた達よりもライアン様は、私の方が好きなようですね。」
ガラゴロ、ガッシャーン。
大きな音に驚き振り返ると、口をパクパクさせたリリアがいた。床には壊れた花瓶の破片が散らばっている。普段ライアンを演じるときはこんなミス滅多にしないのに珍しい。
「ライアン様ケガはありませんか。」
「大丈夫だ。それより人前で私を好きだと話すのはやめろ。恋仲だと勘違いされるだろう。」
「ごめんなさい。」
友人として好きだと公言する事の何が悪いのか分からないが、ライアンは大人しくリリアに謝る。
「分かればいい。早くこの部屋から離れるぞ。あっ、そこの娘たち。」
「「「は、はい。」」」
「悪いけど、ここ掃除してくれない。もちろん侍女に頼まないで、自分達だけでやってね。」
普段は優しいリリアの言動に驚いて動けない少女達を他所に、リリアは俺の手を取ると部屋の外に出た。そんなリリアは本物の騎士のようだった。俺が騎士だったら、俺もリリアをカッコ良く救ったのに。そんなモヤモヤした感情は俺の心に小さな凝りを残した。