漆黒のマント
緑に覆われた森の奥深くに洒落た小屋がある。
小屋の扉には『Open』と書かれた看板がぶら下がっている。
「奇想天外」
と呼ばれるそれは物作りの店として存在している。
人以外の、いわゆる異界の者たち御用達の店である。
経営しているのはまだ若い魔女である。
幼い頃から手先が器用で折れた杖や欠けた水晶を直したりするのはもっぱら彼女に頼られていた。
今日は依頼されていたマントの受け取り日。
レジの椅子に座り薬草で作った風車に息を吹きかけてくるくる回しながら依頼主を待っている。
カラン、カラン
依頼主の到着にベルが鳴った。
「いらっしゃいませ!」
椅子から立ち上がり依頼主の前に出来上がったマントを差し出す。
「ご注文頂いていたマントでございます。漆黒との事でしたので黒雲に憎悪を織り交ぜております。ワンポイントには悲しみの涙を散りばめ月下の元では美しく輝く様になっております。試着してみますか?」
頷く依頼主を店の隅にある鏡の前まで連れて行き、肩にマントをかけ、留め具をし、襟を整える。
「どうでしょう?」
黒雲を使用しているため肌に吸い付く様な手触りに憎悪の重さは重厚感を漂わせる効果がある。
ワンポイントの悲しみの涙は失恋した女を中心に集め、鮮度の良い透明さが残る3日以内に加工してあるため月下の光をよく吸収し、発光する。
依頼主の存在を引き立てるために妖精たちにお願いして採取してもらった貴重なものだ。
「うむ。気に入った!」
「ありがとうございます!では、お会計の方をお願いします!5000ルタになります。」
特殊な材料を使用した事によって少々値段が高くなってしまったがそれに合う、いや、それ以上の出来で満足そうに依頼主は丁度を支払った。
「着てお帰りになりますか?」
「そうしよう。」
マントを翻しながら歩く依頼主を見送るため店の扉を開ける。
「またのご来店お待ちしております!魔王様!」
依頼主であった魔王は漆黒のマントを広げ森の中に消えていった。
ここは異形の者たち御用達の店。
「奇想天外」
誰も思いつかない様な発想で物を作り出すこの店は森の奥深くに建っている。
リリン、リリン
店の電話が鳴った。
「はい、こちら奇想天外です。あっ、ご依頼ですか?…ふんふん、分かりました!では2週間後にお願いします!」