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公爵令嬢な私が世界で唯一のなにかを確立するまで  作者: 狂った帽子屋
幼女な公爵令嬢
3/3

公爵令嬢の日々。その3

 白く湯気の立ち上る大きな浴槽がある。そこには二人の影があった。


「ふんふ、ふんふふ~ん♪」

「ふふ、本当にご機嫌ね。」

「今日はお母様と二人っきりでお風呂ですし。それに、お友達の募集をする日ですもの。」

「でも、浮かれすぎはダメよ?ちゃんと」

「『ちゃんと大人しくお母様やお父様の側に居て、教えられた危ない人には決して近づかないこと』ですよね。」

「ええ、わかっているならいいのだけど…」

「大丈夫ですよ。心配しないでください、お母様。」


 浴槽の中でお母様と確認し合う。お披露目会に向けてしっかりと言葉も調節していく。お風呂でこうやってお母様と二人になるのは珍しくはないが、特別多いわけでもない。

 たまに寝る前やお風呂の時にお母様にお話を聞かせてもらうのが好きだ。色んなお話を聞いてきたが、今日はまた私のお気に入りのお話をしてくれるよう頼んだ。なので、今日の寝る前にはお母様がお話をしに来てくれるだろう。

 そんなことを考えつつお風呂をあがり、待機していたクラリッサに体を拭いてもらい(お母様はお母様の専属使用人に拭いてもらっている)、いつものお洋服に着替えた。

 これからお昼までは少しのお勉強と、自由時間をもらえることになっている。お勉強といってもマナーや国の成り立ちなどといった一般常識のお勉強である。日によっては数学(算数はすでにやり終えた)などもやるが、普段は簡単なものばかりだ。


「さあ、お嬢様。お勉強をはじめましょうか」

「はい」


 ちなみに教えてくれるのはクラリッサの従姉妹にあたるアンナである。彼女は私のお勉強を担当していて、音楽にも精通しているため、色々なことを教えてくれる。いずれは貴族として必要な楽器の演奏も教わることになるだろう。

 お勉強も無事終えて、自由時間になったのでさっそく図書館に向かう。今日はクラリッサも一緒だ。国の成り立ちに関する神について綴った本を手に取る。この本は一種の歴史書でもあり、また信仰を集めるための宗教書でもある。

 そもそもこの世界は光の神と闇の神が作り出したらしい。そして、二柱の神はさらに四柱の神を産み出した。それぞれの神が自身の眷族を世界に産み落としながら、竜脈を引いていった。やがて、世界には人間が誕生した。人間には神の力を借りることの出来る者がいた。その者たちを中心として人々は竜脈の側に集落を作った。やがて神の力を借りることの出来る者達が集まり集落を発展させ、ついには一つの国になった。これが多くの国の成り立ちだ。私達の国も大筋はこの話のままである。

 だが、この国にはある伝説がある。この本にもその伝説が記されていた。

 集落を発展させていき、かなり大きくなった段階で神の子と呼ばれる特別な双子が産まれた。その双子は強力な魔眼の持ち主であった。双子は魔眼の効果で魔物や魔獣を従える兄と精霊や幻獣を従える弟となった。しかし、同世代からは魔眼持ちの彼らは恐れられた。周りを納得させるために強さを求めた兄は、やがて魔に魅いられることとなった。弟は自身の力を集落のため、人のために使い、周りの人間からは信頼を寄せられた。

 ある時、兄は自身が認められないことにこの上ない屈辱を味わっていた。その心の闇を魔に突かれてしまった。その結果、兄は魔物や魔獣の大群を引き連れて集落を襲った。それに、怒り、立ち向かったのは弟であった。弟が怒ったのは兄に対してではなく、兄の心の闇を突いた魔にである。昔は誰よりも優しいかった兄を変えてしまった世界にである。兄を止めるため、弟は多くの精霊や幻獣を呼び寄せ、立ち塞がった。これ以上兄を傷つけないように被害を最小限にとどめ、兄を止めることに成功した。

 兄は優しい心を取り戻し、弟は多くの人々に感謝された。人々は弟を王とした。弟王は兄を補佐役につけ、「自身が王であるならば、ここは国であるべきだ」と唱え、双子が産まれてから更に大規模になっていた集落を国とした。

 これが、この国アルベールの成り立ちである。


 何度読んでも中々に興味深い話だ。魔眼は遺伝しないというが、やはり双子であれば近い性質の魔眼を手にするのだろうか。


「ケイティ様。そろそろ、お昼のお時間ですよ」

「え、もうそんな時間なの?」

「ええ、ずいぶん真剣に読み込んでましたものね。時間を忘れてしまうほどとは思ってませんでしたけど。」

「とりあえず、食べにいきますか。」

「今日はお昼からいつもより豪勢にしてあるらしいですよ」

「なぜ?」

「なにせ、ケイティ様の晴れ舞台ですもの。屋敷の者一同、張り切ってるんですよ。」

「なんか、つくづく思うけど、私って恵まれてるね」

「そうですよ~。でも、それはケイティ様のお人柄によるものも多いんですからね。」

「そうかな。今はお父様やお母様のお人柄も大いに関係あると思うけどね」


 言葉が崩れるのも気にせず。心を許せる従者との一時。そんな存在が数多くいることを心から喜び、食堂へ向かう。


「主に感謝を」

「主に感謝を」


 これはなんとも、誕生日の夕食に並ぶレベルの豪華さだ。お昼なだけあって一つ一つは小さいが、ものが良い。お父様はお仕事が忙しくてここにはいないけれど合間にこんな豪勢な食事を挟むことになっているのだろうか、それともべつの料理をつくってもらったのだろうか。お父様は夕方までに仕事を一段落させると張り切っていたので宣言通り夕方までには戻ってくるだろう。

 小さなハンバーグを口に運ぶ。サンドイッチを食べる。果実を絞ったジュースを飲み。また、なにかを口にする。これをできるだけ優雅に綺麗な動作で行うのには骨が折れる。ちなみに既にかなり満足している。容量的にも味的にもだ。


「今日は貴女のお披露目なだけあって、豪華ね」

「はい、お母様。ありがたいことです。」

「そうね。ケイティはたくさんの人に想われているもの。」

「本当に嬉しいです」


 お昼を食べ終えると、ゆっくりと時間の流れを楽しむ。そうしていると、お母様がやって来た。お茶会のお誘いだ。もちろん喜んで応じる。クラリッサや他のメイド達が用意してくれたテーブルにつき、私の好きな紅茶を飲みながら会話を交わす。お茶会で大切になるお菓子は私が用意したものだ。今まで何度もクラリッサと一緒に作ってきたので、今となってはかなり高度なものも作れるようになり、味の方も料理人達に太鼓判をおしてもらえるほどになった。

 本で見たこの国では珍しいお菓子を作ると皆が驚いてくれるためとても楽しい。なにより、お母様は私作のお菓子を気に入ってくれていて、私も作りがいを感じるのだ。


「今日のクッキーはケイティが作ったものね?飾り付けがとってもおしゃれだわ」

「ばれちゃいましたか。素朴なものならばれないかと思ったんですけど」

「うふふ、わかるわよ。自分の子の作ったものだからっていうのもあるけれど、ここまで一つ一つに手間をかけるのは貴女くらいだものね。」

「お母様は本当によく見てますね」

「それじゃないとラトクリフ夫人は勤まらないもの」

「流石、お母様です。まだまだ敵いません」

「三歳の娘に抜かされてなるものですか」

「確かにそうかもしれないですけど」

「ふふ、ふくれないの。可愛い顔が台無しよ?」


 お母様には本当に敵わない。淑女としても、魔法使いとしてもお母様以上のお手本はいない。いつか追い抜いてみせるのが私の目標だ。


 白く湯気の立ち上る大きな浴槽がある。そこには二人の影があった。


「ふんふ、ふんふふ~ん♪」

「ふふ、本当にご機嫌ね。」

「今日はお母様と二人っきりでお風呂ですし。それに、お友達の募集をする日ですもの。」

「でも、浮かれすぎはダメよ?ちゃんと」

「『ちゃんと大人しくお母様やお父様の側に居て、教えられた危ない人には決して近づかないこと』ですよね。」

「ええ、わかっているならいいのだけど…」

「大丈夫ですよ。心配しないでください、お母様。」


 浴槽の中でお母様と確認し合う。お披露目会に向けてしっかりと言葉も調節していく。お風呂でこうやってお母様と二人になるのは珍しくはないが、特別多いわけでもない。

 たまに寝る前やお風呂の時にお母様にお話を聞かせてもらうのが好きだ。色んなお話を聞いてきたが、今日はまた私のお気に入りのお話をしてくれるよう頼んだ。なので、今日の寝る前にはお母様がお話をしに来てくれるだろう。

 そんなことを考えつつお風呂をあがり、待機していたクラリッサに体を拭いてもらい(お母様はお母様の専属使用人に拭いてもらっている)、いつものお洋服に着替えた。

 これからお昼までは少しのお勉強と、自由時間をもらえることになっている。お勉強といってもマナーや国の成り立ちなどといった一般常識のお勉強である。日によっては数学(算数はすでにやり終えた)などもやるが、普段は簡単なものばかりだ。


「さあ、お嬢様。お勉強をはじめましょうか」

「はい」


 ちなみに教えてくれるのはクラリッサの従姉妹にあたるアンナである。彼女は私のお勉強を担当していて、音楽にも精通しているため、色々なことを教えてくれる。いずれは貴族として必要な楽器の演奏も教わることになるだろう。

 お勉強も無事終えて、自由時間になったのでさっそく図書館に向かう。今日はクラリッサも一緒だ。国の成り立ちに関する神について綴った本を手に取る。この本は一種の歴史書でもあり、また信仰を集めるための宗教書でもある。

 そもそもこの世界は光の神と闇の神が作り出したらしい。そして、二柱の神はさらに四柱の神を産み出した。それぞれの神が自身の眷族を世界に産み落としながら、竜脈を引いていった。やがて、世界には人間が誕生した。人間には神の力を借りることの出来る者がいた。その者たちを中心として人々は竜脈の側に集落を作った。やがて神の力を借りることの出来る者達が集まり集落を発展させ、ついには一つの国になった。これが多くの国の成り立ちだ。私達の国も大筋はこの話のままである。

 だが、この国にはある伝説がある。この本にもその伝説が記されていた。

 集落を発展させていき、かなり大きくなった段階で神の子と呼ばれる特別な双子が産まれた。その双子は強力な魔眼の持ち主であった。双子は魔眼の効果で魔物や魔獣を従える兄と精霊や幻獣を従える弟となった。しかし、同世代からは魔眼持ちの彼らは恐れられた。周りを納得させるために強さを求めた兄は、やがて魔に魅いられることとなった。弟は自身の力を集落のため、人のために使い、周りの人間からは信頼を寄せられた。

 ある時、兄は自身が認められないことにこの上ない屈辱を味わっていた。その心の闇を魔に突かれてしまった。その結果、兄は魔物や魔獣の大群を引き連れて集落を襲った。それに、怒り、立ち向かったのは弟であった。弟が怒ったのは兄に対してではなく、兄の心の闇を突いた魔にである。昔は誰よりも優しいかった兄を変えてしまった世界にである。兄を止めるため、弟は多くの精霊や幻獣を呼び寄せ、立ち塞がった。これ以上兄を傷つけないように被害を最小限にとどめ、兄を止めることに成功した。

 兄は優しい心を取り戻し、弟は多くの人々に感謝された。人々は弟を王とした。弟王は兄を補佐役につけ、「自身が王であるならば、ここは国であるべきだ」と唱え、双子が産まれてから更に大規模になっていた集落を国とした。

 これが、この国アルベールの成り立ちである。


 何度読んでも中々に興味深い話だ。魔眼は遺伝しないというが、やはり双子であれば近い性質の魔眼を手にするのだろうか。


「ケイティ様。そろそろ、お昼のお時間ですよ」

「え、もうそんな時間なの?」

「ええ、ずいぶん真剣に読み込んでましたものね。時間を忘れてしまうほどとは思ってませんでしたけど。」

「とりあえず、食べにいきますか。」

「今日はお昼からいつもより豪勢にしてあるらしいですよ」

「なぜ?」

「なにせ、ケイティ様の晴れ舞台ですもの。屋敷の者一同、張り切ってるんですよ。」

「なんか、つくづく思うけど、私って恵まれてるね」

「そうですよ~。でも、それはケイティ様のお人柄によるものも多いんですからね。」

「そうかな。今はお父様やお母様のお人柄も大いに関係あると思うけどね」


 言葉が崩れるのも気にせず。心を許せる従者との一時。そんな存在が数多くいることを心から喜び、食堂へ向かう。


「主に感謝を」

「主に感謝を」


 これはなんとも、誕生日の夕食に並ぶレベルの豪華さだ。お昼なだけあって一つ一つは小さいが、ものが良い。お父様はお仕事が忙しくてここにはいないけれど合間にこんな豪勢な食事を挟むことになっているのだろうか、それともべつの料理をつくってもらったのだろうか。お父様は夕方までに仕事を一段落させると張り切っていたので宣言通り夕方までには戻ってくるだろう。

 小さなハンバーグを口に運ぶ。サンドイッチを食べる。果実を絞ったジュースを飲み。また、なにかを口にする。これをできるだけ優雅に綺麗な動作で行うのには骨が折れる。ちなみに既にかなり満足している。容量的にも味的にもだ。


「今日は貴女のお披露目なだけあって、豪華ね」

「はい、お母様。ありがたいことです。」

「そうね。ケイティはたくさんの人に想われているもの。」

「本当に嬉しいです」


 お昼を食べ終えると、ゆっくりと時間の流れを楽しむ。そうしていると、お母様がやって来た。お茶会のお誘いだ。もちろん喜んで応じる。クラリッサや他のメイド達が用意してくれたテーブルにつき、私の好きな紅茶を飲みながら会話を交わす。お茶会で大切になるお菓子は私が用意したものだ。今まで何度もクラリッサと一緒に作ってきたので、今となってはかなり高度なものも作れるようになり、味の方も料理人達に太鼓判をおしてもらえるほどになった。

 本で見たこの国では珍しいお菓子を作ると皆が驚いてくれるためとても楽しい。なにより、お母様は私作のお菓子を気に入ってくれていて、私も作りがいを感じるのだ。


「今日のクッキーはケイティが作ったものね?飾り付けがとってもおしゃれだわ」

「ばれちゃいましたか。素朴なものならばれないかと思ったんですけど」

「うふふ、わかるわよ。自分の子の作ったものだからっていうのもあるけれど、ここまで一つ一つに手間をかけるのは貴女くらいだものね。」

「お母様は本当によく見てますね」

「それじゃないとラトクリフ夫人は勤まらないもの」

「流石、お母様です。まだまだ敵いません」

「三歳の娘に抜かされてなるものですか」

「確かにそうかもしれないですけど」

「ふふ、ふくれないの。可愛い顔が台無しよ?」


 お母様には本当に敵わない。淑女としても、魔法使いとしてもお母様以上のお手本はいない。いつか追い抜いてみせるのが私の目標だ。


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