元軍人と新米兵士1
男性2人、計2人の声劇台本です。
1〜3まであり、比率そのままで通し版もあります。
使用はフリーですが、お声掛け頂ければ喜んで聞きに参ります!
録画を残せる媒体を使用される場合は、出来るだけ残して下さると嬉しいです。
ルーキー役は女性変換も可能です。
その際は、マスターからの呼び名を「嬢ちゃん」に変換される等、演者同士で打ち合わせして下さい。
(2:0)
(所要時間15分)
キャスト
マスター(数年前退役した元軍人):
ルーキー(入隊したばかりの新人兵士):
レトロな雰囲気のバー
ルーキー
「ここか…先輩が言っていたバーって…
マスターに会えば分かるって言ってたけど…
どういう意味なんだろうか」
マスター
「……いらっしゃい」
ルーキー
「…(数年前に退役した、叩き上げから少尉にまで昇りつめた人…この人が…?)」
マスター
「そこで立ち止まると他の客が来たら迷惑だ。
座りな、ボウズ」
ルーキー
「はっ、あ…すみません!」
マスター
「ふうん……お前さん、ルーキーか」
ルーキー
「えっ…何故…」
マスター
「顔を見れば分かる。
ここにはお前さんみたいなガキんちょがよく来るんでな」
ルーキー
「…それって、やっぱりーー…」
マスター
「俺は退役した身だ、今は何の関係も無い」
ルーキー
「…そう、聞いています。行けば分かると…」
マスター
「ここは保育園でも、相談所でも無いんだがな…」
ルーキー
「俺はーー…あ、いえ、私は別に、そういうつもりでは…」
マスター
「ここに来たって事は、そういう事だ。
自覚のある奴は元々寄越されないな」
ルーキー
「……何の、自覚ですか…?」
マスター
「まぁそう急くな。
何か作ってやろう…話はそれからだ」
ルーキー
「いえ、酒は…」
マスター
「未成年か?」
ルーキー
「そういう訳では、ないんですけど…」
マスター
「なら少し位構わないだろう。
これも嗜みの1つだ、覚えておけ。
あぁ、詳しくは無さそうだな…任せて貰っていいか?」
ルーキー
「え、えぇ、勿論……では、お任せします」
マスター
「……口に合えばいいがな」
ルーキー
「…頂きます」
マスター
「お前さん、まだ体も出来ていない様だが…配属は?」
ルーキー
「空軍第3部隊です」
マスター
「ほぉ…戦闘機乗りか。なかなかのエリートだ」
ルーキー
「やめて下さい。私はーー……軍人失格なんです」
マスター
「詳しく話してみな」
ルーキー
「…………撃てないんです」
マスター
「…そりゃあ確かに軍人失格だ。
戦闘機乗りなんて辞めて旅客機のハンドルを握っておいた方がいい」
ルーキー
「そんな事は分かっています!
関わる人全てに言われました、お前に戦闘機乗りなど向いていないと」
マスター
「分かっていて尚、こだわる理由があるのか」
ルーキー
「…私は幼少の頃、1人の軍人に命を救われました。
突然の戦火のさなか、逃げ遅れた一般市民は何の罪も無く、ただ蹂躙され、ばらまかれた散弾に倒れていきました」
マスター
「お前さん、もしかして15年前の戦役の生き残りか?」
ルーキー
「っ!……そうです。
目の前で両親も、まだ足元もおぼつかない妹も…無残な姿で、動かなくなりました…」
マスター
「…あれは、ただの殺戮だった。
敵国の兵士が独断で動いたせいで、膠着状態に動きが出て終戦した、と言えば聞こえはいいが…
犠牲になった一般市民の声は黙殺された」
ルーキー
「生き残った私は、全てを失いました」
マスター
「……そうか」
ルーキー
「命があるだけいいじゃないか、と、貴方は言わないんですね…」
マスター
「…人間、1人では生きていけないさ。
お前さんが全てを失った、と言うのなら…そうなんだろう」
ルーキー
「有難う、ございます…」
マスター
「礼を言われる事じゃあないな」
ルーキー
「…厳戒態勢を敷いていた現地の軍隊の1人が…傷だらけで、呆然として今にも銃撃の猛火に襲われそうになっていた私を抱いて、塹壕に匿ってくれたんです。
彼は、1人でも多くの市民を助けたい、と呟きながら、私に覆い被さって盾になってくれました…」
マスター
「……続けな」
ルーキー
「空からの爆撃、平地からの銃撃…抉られ、飛び散る乾いた土に埋もれながら、私は彼に抱かれて意識を失いました。
目が覚めた時には、簡易の救護テントの中に押し込まれていて…救ってくれた兵士とは、それっきりです」
マスター
「…それで、自分もそんな兵士になりたい、と?」
ルーキー
「志望が浅い、ですか…?」
マスター
「そんな事は無いさ。
だが、軍属に身を置く事が恩を返す、とはならないだろうな」
ルーキー
「恩を返したいとか、そういう事では無いんです…
あれから15年…何度も、何度も夢に見ました。
鳴り響くサイレン、鼓膜を容赦なく叩く爆音、飛び交う怒号…
目が覚める度に、体は震え、涙が溢れて止まらないんです」
マスター
「……そうか」
ルーキー
「その度に…意思を…継ぎたいと、思ったんです」
マスター
「ほう?」
ルーキー
「彼がその後、どうなったのかは分かりません。
あの戦役で命を落としたかもしれないし、生き残っていて、今も尚、軍属に身を置いているかもしれない。
退いて、平穏な日々を送っているかも…
ただ…」
マスター
「うん?」
ルーキー
「1人でも多くの市民を助けたい…その声を、私は生涯忘れる事は出来ないでしょう」
マスター
「いち軍人としては、ありきたりな言葉だ。
特別でも何でもない」
ルーキー
「分かっています!
でも、だからこそ…私の脳裏に、強く残ったんです。
同じ道を志したいと思う事は…浅はか、ですか」
マスター
「さぁて、どうかな…
志望動機なんて人それぞれだ。
口を挟む道理なんて無いさ」
ルーキー
「…適性が認められたとの事で空属になりましたが…どうしても、フラッシュバックするんです」
マスター
「そうだろうな。
幼少期の記憶ほど、こびり付いて消す事が出来ないトラウマになる」
ルーキー
「分かっています…結局は、綺麗事を並べているだけだと。
彼の意思を受け継ぐ、なんて…体のいい名目だって言われても仕方ないんです…」
マスター
「上官に言われたのか?」
ルーキー
「えぇ、そうです…
返す言葉もありませんでした…」
マスター
「…お前さんが望む、軍人とは何だ?」
ルーキー
「えっ…?」
マスター
「各々、軍人としての望む理想像や、姿勢は様々だろう。
国の為に尽くしたい、国民を守りたい…単純に戦いに身を投じたいだけの者もいる」
ルーキー
「私はっ!」
マスター
「意思を継ぐ、その気持ちに偽りは無いだろうさ。
だが、そこに果たして自分はあるのか?」
ルーキー
「っ!」
マスター
「なかなか得難いものだ、他人の為に死力を尽くしたいという思いは、な。
理想像とするのも良し。
だが、詭弁だけで物事はそう容易くは進まないのも分かっているだろう」
ルーキー
「…分かって、いるつもりです…」
マスター
「急くな、お前さんはまだ若い」
ルーキー
「…まだ早い、と…?」
マスター
「理想を追うのは構わない、が、口に出すのは己の力量が伴わなければならない。
綺麗事と言われる所以だ」
ルーキー
「…未熟です、私は」
マスター
「そうだ。
初対面の俺がルーキーだとすぐに分かる位にな」
ルーキー
「……私は…どうしたら…」
マスター
「それを他人に示されたら、お前さんはそれに従うのか?」
ルーキー
「……いえ…!」
マスター
「…いい目をするじゃないか。
こういうモンはな、自己解決するしかないんだ。
手助けはしてやれるが、最終的に答えを出すのは自分なんだからな」
ルーキー
「少し…分かった気がします」
マスター
「ん?」
ルーキー
「ここに行けと言われた意味が。
有難うございました!
あの、お代は…」
マスター
「それならお前さんの上官から受け取り済みだ」
ルーキー
「それって…」
マスター
「分かったか。お前さんはそれだけ、ヒヨッコって事だ」
ルーキー
「…そういう、事なんですね…」
マスター
「自分の現状を把握し、認める所から先に進めるってもんだ。
これから先、意にそぐわない時も、理不尽な命に従わなきゃいけない時にも遭うだろう」
ルーキー
「…分かっています」
マスター
「声高に自分の主張を通せる世の中じゃないからな。
だが…」
ルーキー
「…?」
マスター
「お前さんの様に、青臭い主張が通る世の中になればいいと、俺も思っているよ」
ルーキー
「…青臭い…ですよね…」
マスター
「俺位の年になるとな、諦めちまうんだ」
ルーキー
「諦める…?」
マスター
「俺にもな、お前さんの様に血気盛んで上官に噛み付いていた時代があったって事さ。
敵地へ送り込まれても、自国を防衛する時も…掲げる旗は確かにあったんだ」
ルーキー
「…旗……」
マスター
「きっかけは何でもいい。
だが、自ら選択した道は、迷わず進むしかないんだ。
罵倒されようが、蔑まれようが…誇りだけは失ってはならん。
…おっと、時間だな」
ルーキー
「えっ?」
マスター
「点呼の時間までには帰せと言われている」
ルーキー
「あぁ…もう、そんな時間なんですね…」
マスター
「規則を守るのも大事な事だ。
お前さんの先があるなら、な」
ルーキー
「…あの、また…来てもいいですか?」
マスター
「必要があれば、好きにしたらいいさ」
ルーキー
「有難うございます!」
マスター
「上官には俺からも伝えておいてやるよ。
今度は気晴らしに与太話でもしにきな、ボウズ」
ルーキー
「…次に来る時には、ボウズと呼ばれない様にします」
マスター
「活きのいいこった」
ルーキー
「では、失礼致します!」
マスター
「おいおい、敬礼なんてやめてくれ。
今は他に客がいないとはいえ、ここは開かれたバーで、俺ももう引退した身だ」
ルーキー
「あっ、すみません…では、また…
次は客として来させて頂きます」
マスター
「あぁ、またな」
間
マスター
「…まさか、あの時のボウズだったとはな……これも運命の、巡り合わせ、か…
あれから15年…お前が命懸けで救った命は、お前の信念を指針にしちまったみたいだぜ…
意思は否応なく、受け継がれていくのか…今までも、これからも…
だが、俺は…俺が望んでいるのは…その救われた命が、隔たりも無く平穏に暮らせる世の中なんだがな……
人間は醜い。
欲望は果てしなく、その為に他人を蹴落とす事に躊躇わない。
どこまでもループするくだらない争いに、終止符を打つ未来はあるのか…?
…ははっ、どうせ高みから、笑っていやがるんだろうなぁ。
残りの人生、賭けてみるのも…いいだろう…?」
-end-
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