モテ男主人公の憂鬱
頬は赤らみ。
うるうるとした大きな目。
何かを隠しているかのような、尿意を我慢するかのようなもじもじとした仕草。
ーあぁ、またか。
「好きです!付き合ってください!」
意を決したように彼女は言う。
まるでそれが心の底からの言葉かのように。
果たして君の持つそれは、『真実の愛』なのか?
審査開始だ。
「僕のどこが好きなの?」
少し照れたように聞く。嫌味ったらしくならないように細心の注意を払って。
「えっと、優しいところとか…顔もいいし…何か可愛いし…」
はい、不合格。
優しいところ、まではまあまあ合格の範囲内だっんだけどなぁ。
顔って。何か可愛いって。なんだそりゃ。
結局この人も同じか。
「その、気持ちは嬉しいんだけどさ。僕実は好きな人がいるんだ」
嘘だけど。
「そ、そうなんだ…」
見るからにガッカリする目の前の彼女の顔に、先程までの高揚はない。あるのは振られたショックと、プライドを傷つけられた憎しみだけ。
それだけ分かっていても尚呵責してくる辺り、僕の良心はとても優れたものなのだろう。
ごめんね、名前も知らない女の子。
校門まで歩くと、待たせていた幼馴染2人と合流する。
ごめん、とお詫びすると勇人はおう、と返事をする。
「また告白か?」
「ああ。また告白」
また、を強調して言うと理乃はカラカラと笑った。
「モテる男も大変なんだねえ」
「いいなぁ、俺にその子紹介してくれよ」
軽口を叩く2人は幼稚園時代からの幼馴染だ。
「今回は何で断ったの?」
ニヤニヤしながら言う彼女は心底楽しそうだ。
知ってるくせにこういうことを聞くくらいには彼女の性格は悪い。
「分かってるくせに聞くなよ」
「分かんないから聞いてんじゃーん」
ここまでいつも通りのやりとり。ここからも。
「『真実の愛』じゃないからだよ」
言うと二人揃ってアハハ、と笑う。
ほんと、何回言っても笑うんだ。いい加減飽きて欲しい。
「ほんと、お前のそれ意味分かんねえよ」
腹を抱えながら言うほどのことか。
「うるさいなぁ。俺にとっては重要なことなんだ」
「まあ、アンタに寄ってくる子はみんな顔目当てだもんねー」
理乃の言う通り。
僕はモテるが、決して僕の精神や内面が人気なわけではない。
人気なのは僕の骨格、輪郭、体格。
「僕は外見だけで僕を選ぶような人と付き合う気はないんだ」
「まあ、たしかにお前に告白してくるのってあんま関わりない女子ばっかだよなぁ」
「ほんとだよ。顔だけで選んだって丸分かり」
「まあ、幼馴染の私からしても、涼太の顔って女子ウケする感じだと思うもん」
何の気なしに言う理乃は言う。
「お前は告白してくんなよな」
本当に。
「誰があんたなんかに」
真面目にウザがる理乃を見て、どことなく安心する。
僕のことを好きな女子と話しているとその緊張が僕にまで伝わってきてとても話しづらい。
けれど理乃にはそれがなく、何となく安心する。
ふと、これが『真実の愛』なのかもしれないなと思った。