2-1-2
今俺は何処かの国の山の中を歩いている。ガジンを殺し、皆に合わせる顔も無かった俺は、深く考えずに行先も解らないまま起動している転移門に入ってしまった。いや、転移先なんて何処でもいいから、とにかくこの場所から離れたかった。転移門を出た後は、何も考えずに歩き出した。
自分でも解ってる、卑怯者だって。なにせミカ達は動けるようになったら必ず俺を追って来る。それが怖かった。だから転移先で、転移門の操作パネルみたいな物を破壊した。
自分でも解ってる、逃げているだけだって。しかし意識が無かった? とは言え、マナで身体能力が格段に上がっている皆を動けなくする程の攻撃を叩きこんでおいて、どの面下げて顔を合わせればいいのか解らなかった。
あまつさえ自分の息子を手に掛けた、掛けようとしていたなんて・・・・・・それに遥はもう・・・・・・
面倒だ・・・・・・もう全てが面倒くさい。俺は倒れ込むようにして寝る事にした・・・・・・。
随分寝た気がする。目を覚ますと夜だった。
・・・・・・周囲を見る事もしていなかったな・・・・・・こう暗いと何も解らない。寝よう・・・・・・。
目が覚めた。・・・・・・寝ている間に何回か地震があったな。まだ融合は終わっていないのか? ・・・・・・起きてもやることが無い。動くのも面倒だ。誰もいないし魔物も出て来ない。・・・・・・人って三日水分を取らなければ死ねるんだったか? ・・・・・・まあそれならそれでいいか。寝よう・・・・・・。
空を見ていた。青空が広がっている。硬い石の上で寝ていたので身体が痛い。流石に喉が渇いたし腹も減った。しかし今更食料調達に行くのも面倒だ。寝よう・・・・・・。
・・・・・・何日経ったんだろう? 人ってこんなに眠れるもんなんだな。時間の感覚が解らなくなって来た。まだまだ眠れそうだ・・・・・・。
身体の痛みが無くなって来た。しかし代わって頭痛が酷い。頭が割れそうだ。脱水症状が起きているんだろう。動こうとしても動けなくなった。もうすぐ死ねるんだろうか・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
眼が覚めた。・・・・・・まだ死んでいないのか。人間って意外としぶといんだな。そうだ、最後にアルマの所にでも行くか?
アルマ、もう殺してくれ・・・・・・一瞬で視界が切り替わる。いつもの白い部屋だ。
「ダメよ。死んでも何もならないわよ?」
「アルマか・・・・・・もういいよ。旅の目的だった遥は死んだし、皆に合せる顔も無い。このまま殺してくれよ。神なんだから出来るだろ?」
「出来る出来ないで言えば出来るわよ? でも私はお断り。それよりも、これを飲みなさいな。元気になるわよ? その落ち込んだ気分もスッキリするわ」
「スッキリしたくないんだがな・・・・・・」
「でもここにいると楽でしょ?」
「・・・・・・言われてみれば」
確かに頭痛や虚脱感が薄れている。
「タカオ、生きなさい。死ぬなんて許さないわ」
「何をどうしようと俺の自由じゃなかったのか?」
「ええ、自由よ? でも死ぬのは許さないわ」
「・・・・・・自由にしていい、でも死ぬのは駄目・・・・・・どうしろってんだよ」
「とりあえずいつまでも床に寝ていないで座ったら? もうそれ位回復してるでしょ?」
・・・・・・俺はもそもそと起きて、椅子に座った。
「ほら、飲んで」
勧められるままにカップに入った物を飲む。
多少粘度があるが、飲みやすい味だ。口内はおろか、喉、食道、胃と液体が通るのが解る。そして通った場所に広がる清涼感。身体を埋め尽くしていた虚脱感、疲労感、精神的なマイナスまで全てを癒してくれる様だ。無我夢中で一気飲みしてしまった。
「飲みやすくて美味しいでしょ?」
「ああ、何だこれは?」
「ネクタールよ。神域に生っているある果実を絞った物よ。要は霊薬ね」
「そんな物俺が飲んで良いのか?」
「大丈夫よ。問題無いわ。元気になったでしょ?」
「ああ、そうだな。ありがとうアルマ」
「ええ。で? 少しは落ち着いたかしら?」
「・・・・・・全部見てたのか?」
「ええ、見てたわ。覚醒おめでとう」
「こうなる事を解ってたのか?」
気持ちが昂ぶって来る。アルマならこういう結果になる事が解ってたんじゃないのか? それを教えてくれていれば、違う結果になっていたんじゃないのか!?
「タカオ、落ち着いて。今のあなたの質問に対する答えは、YES であり NO でもあるわ」
「・・・・・・どういう事だ」
「私が解るのは、ある時点でのその後に起こる結果だけなの」
「・・・・・・」
「いい? 前回タカオが来た時点で私に解っていた事は、ハルカの死、勇者ちゃんの死、カズキの死よ。他にも沢山いるけど、主にタカオに関わっているのはこの三人ね」
「何でルシアと一樹もなんだよ。二人は死んでないぞ」
「一番最初に言ったでしょ? あらゆる事象で枝分かれする並行世界だって。行動によりその都度未来が変わるのよ。ある時点での未来は解る。でもそれは確定された未来じゃないの。未来は幾らでも変わるわ」
「・・・・・・」
「全ての世界の全ての事象の全ての未来なんて流石に解らないわ。実際タカオが完全に死ぬ未来も途中であったのよ?」
「それが正しいなら、いつもアルマがくれる神託も・・・・・・」
「ええ、いつかは全く外れるかもしれないわ。でも前回の神託では 『押し潰されない様に正気を保つこと』 これは先の三人が死ぬのが見えていたから。その前は 『腐蝕と勇者に気を付けろ』 よ。最短距離にオーラがいて、目的地にはギゼがいたから。私はその時見える物で最善の神託を与えてるつもりだわ」
「そうか・・・・・・疑ってすまない」
「大丈夫よ。奥さんを亡くしたんですもの。仕方が無いわ」
「アルマ、遥を――」
「それは駄目。死者の蘇生に関しては、あなた達が自らの力で蘇生させる分には何も言わない。でも蘇生に関して私が関わる事は一切無いわ」
「・・・・・・そうか」
「・・・・・・随分素直ね?」
「もう自分でもどうしていいのか解らないんだ。遥が死に、皆を殺す一歩手前まで追い込んで、実の息子達にも手を上げて、その上逃げて来た。死のうとしたけど助けられ、のうのうと生きている。ははは、もうどうすりゃいいんだよ・・・・・・」
「だから言ってるじゃない。タカオ、あなたの好きに生きればいいのよ。どうしても死にたいなら死ねばいいわ。でもね、半神だからね。早々死ねないわよ。それよりも旅でもしたら? 困っている人は沢山いると思うわよ? その力で助けてあげたら罪滅ぼしにもなるんじゃない?」
「困っている人を助けろとか・・・・・・俺はそんな高尚な人物じゃないぞ?」
「そうかしら?」
「そうだよ。・・・・・・そうだな、因みに今も未来って見えるのか?」
「ええ、見えるわよ。知りたい?」
「ああ。いや、やっぱりいい。下手に知らない方が良いだろ?」
「ふふ、その通りよ。自分の未来なんて知らない方がいいわ。知らないからこそ無限の可能性があるんだから。下手に未来なんて知ってしまったら、それに合わせようとしてしまう。そうなったら無限にある可能性を有限にしてしまうわ」
「ふーん。まあそんなもんだよな。なあアルマ、俺は眷属と闘わなくちゃいけないのか?」
「そんな事無いわよ? それこそ自由よ。闘おうが逃げようが、傘下に入ろうが入れようが。好きにしていいわよ? 確かに中には闘う事が生きがいみたいな戦闘狂もいるけどね、全員がそうって訳でも無いわよ。ただ放浪しているのもいるし、自分のコロニーを作っている者もいるわ。自分の信念に従って破壊活動をしているのもいるし、色々ね」
「そうか。全員から狙われてるんじゃない事が解っただけでもありがたい」
「それはちょっと違うわよ? 今のはタカオの事を言ったのであって、他の連中がタカオを見つけた時にどういった行動を取るかは別よ? 全員が無視するかもしれないし、」
「その反対もあるって訳か」
「そうなるわ。後はそうね・・・・・・余裕が出来たらもう一人の自分と対話してみたら?」
「対話?」
「ええ。そうすればガジンを殺した時みたいに、タカオのままであの力を使えるかもよ?」
「そこまで解ってるのか・・・・・・」
「ふふ。だって本当に別人だったもの」
「そんなにか・・・・・・解った。それは前向きに検討してみる。俺としてもあの力は不可欠になりそうだからな」
「そうしなさい」
「じゃあ今回は神託は貰えるのか? 出来たら今後の指針みたいのがいいんだけどな」
「んーそうね・・・・・・ではタカオよ、神託を与える。双子を助けなさい。あとこれを持たせましょう。」
「これは?」
液体が入っている小瓶を4本渡してきた。大きさ的には・・・・・・ラー油の瓶位か? 例えが庶民的ですまないな。
「さっきタカオが飲んだネクタールの残りよ。それ一本で即死以外の負傷はほぼ全て治せるわ。腕を斬り落とされても胸に風穴を開けられても、死ぬ前にそれを飲めば回復するわ。だから即死だけは気を付けなさい。貴重品だからね? 特別よ? ・・・・・・」
意識がフェードアウトした。戻って来たのか。手には小瓶が4本握られている。
ちっ、もっと早く寄越せよ。・・・・・・即死は駄目なら結局は一緒だったか。儘ならないもんだ。
それにしても・・・・・・双子を助けろねぇ。
俺は再び歩き出した。アルマの霊薬によって体力気力は回復したが、腹は減る。腹は減っているのに元気一杯。不思議な感じだ。何れにしろ何処かの街で食料を探さないとな。一応ここは林道? 山道? みたいだから下って行けばいずれは街なり村なりに着くだろう。
翌日には農村地帯に出た。幸先がいいな。建物もちらほら見えるから、自動車もあるだろう。
と、思った矢先にトラック発見。これは・・・・・・日本で走ってる様なのじゃないな。ハイラックスみたいな感じのトラックだ。左ハンドルか。エンブレムも付いてないからメーカーも解らない。車内にある物の文字は・・・・・・アルファベットを使ってはいるが英語じゃない? 何処なんだここは。アルマに聞いておけば良かったな。
動くか? セルを回してみる。
キュルキュルキュルドルルン
お、一発で掛かった。これで移動が楽になるな。トラックに乗り街っぽい方へと向かう。
んー、やっぱり街並みが全く日本と違う。ガジンの奴隷都市とも違う。何処に飛ばされたんだろう?
街? 村? まで来たら、今乗っている車よりも良い車が沢山ある。こんなボロトラックは止めて乗り換えよう。
食料などの物資を積むことと走破性を考えて、SUVか4X4トラックを探していると鍵付きのシボレ〇のトラックを見つけたので乗り換える。こっちも一発でエンジンが掛かった。
街を走る事数分、小さめのスーパーマーケットを発見。良かった。食料が手に入る。民家に入って家探ししても良いんだけど、それだと結構面倒くさいんだよ。人がいないと解っていても、他人の家を漁るっていう先入観と言うかなんと言うか。
という事でスーパーに入る。
・・・・・・店内が臭い。電源が落ちてるから生ものは軒並み腐ってるからな。仕方が無い。我慢して食料を探す。
あー臭かった。適当に食料を積み、出発する。
着替えも欲しいな。汚れ自体はアルマが綺麗にしてくれたけど、あちこちボロボロだからな。
ゆっくりと通りを流しながら物色する。字が読めないから店内を見て確認するのは以前と同じだ。が、あらら。街が終わっちゃったよ。街って言うか村だったな。
まあいい。もう少し大きい街を探そう。
俺はどっちに行けばいいのかも解らないまま、車を走らせた。




