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A fused world / 融合した世界  作者: あにゃこ
第二部 新しい出会いと、新しい敵
74/75

2-1-1

「一樹―! ご飯できたぞー!」


「はーい!」


 一樹はジルと共に走って来る。


「今日のご飯担当は誰?」


「ナディアさんの監督の元、調理したのはルシアさんだ」


「げっ! マジで!?」


「・・・・・・お前間違っても本人に言うなよ?」


「えー、だってさぁ・・・・・・おにいだってそうでしょ?」


「言いたい事は解るけど、本人たちは真面目にやってるんだからさ」


「もう諦めればいいのにね」


「父さんが帰って来た時に手料理を食べさせるんだって頑張ってるんだから、余計な事言うなよ?」


「でもさ、実験台になる俺達って可愛そうじゃない?」


「いいから何も考えないで食べるんだ」


「はあーい」


「それと準備は終わってるんだろうな? ご飯食べたら出発だぞ?」


「何も持ってく物なんて無いよ」


「それならそれで構わないけどさ。じゃあちゃっちゃと食べちゃおうぜ」


「うん」




 あの日父さんが消えた後、俺達は転移結晶を使って自宅に戻って来た。勿論母さんの遺体も一緒に連れて来た。


 到着後、まずは母さんを送り出すことにした。車で街まで行き仏具店を探し、おおよそ必要な物を調達。その後はミカさんに焼いてもらった。


 母さんの骨は骨壺に入れ、居間に置いてある。工場の発電機を回し、パソコンで母さんの写真も印刷して飾ってある。ミカさん達に、『捜索する時に使うから、タカオの絵も出してくれ』 と頼まれたので、父さんの写真も印刷した。


 しかし、その後もミカさんやルードさん達は一緒にいてくれた。


 皆で順番に食料調達に行き、見た事も無い動物を狩って来ていた。解体は皆でやっていたが、調理は主にニナさんとナディアさんがやっていた。まあ調理を名目に連れて来たんだから当たり前か。


 一樹とシグさんはルシアさん達に闘い方の訓練を受けていた。一日ごとに担当が変わり、俺の眼から見てもどんどん強くなっていった。


 詩歩は主にミカさんとヒルダさんから魔法の講義を受けていた。因みに帰ってから一週間後くらいに、詩歩はマナ中毒を発症した。いきなり暴れ出したのでびっくりしたが、速攻でルードさんに捕まり “アレ” をやられていた・・・・・・。


 ルードさん達の中では、詩歩がマナ中毒になった時の対応を決めていたそうだ。


『ほら、カズマは男だからいいけど、シホは女の子でしょ? 酷い火傷とか、矢で串刺しとかだとかわいそうじゃない。だから見た目的にはルードが一番マシかな? ってね』


 とミカさんが言って来た。


『あ、まあ、そうですね』


 としか返せなかった。


 回復した詩歩は、マナの量が通常よりも多かったそうだ。そして色々試した結果、魔法を覚えた方が良いのではないか? と言う結論になった。そう言った理由から、魔法を中心に訓練している訳だ。


 イグナス人の皆さんにも変化があった様だ。まず最大の変化が飛べなくなった事。空を飛べていたミカさん、ルシアさん、ザックさんの3人共飛べなくなったらしい。


 次にの変化は、皆さんの索的範囲の減少。以前索敵できていた範囲の半分位しか出来なくなったらしい。


 飛べなくなったのは残念だが、融合した結果だろうと納得していた。・・・・・・結構大事だと思うんだけどな?そんな物なのかな?


 ザックさん曰く、奴隷都市で闘った敵勇者も飛べなくなったと言っていたかららしい。


 ・・・・・・まあいいや。俺は元から飛べないから。


 で、俺なんだけど・・・・・・父さんが消えて、家に帰って来てから不眠症になった。夜ベットに入っても一向に眠くならない。勿論昼間も眠くない。詩歩に相談したら、


「遥さんを亡くして、お父さんまでいなくなったから心が疲れてるんだよ」


 と言われた。


 んー。確かに色々あったから疲れてるかもしれないけど、そんな感じじゃ無いんだよな? そして三日も四日も眠れない日が続いた。それに伴って、ヒルダさんと眼が合う回数が増えた気がする。なんとなく視線を感じて振り向くと、ヒルダさんがじーっと俺を見ている。何だろう? 俺何かしたかな? 


 因みにヒルダさんは巷で言う所の所謂 “ロリババア” だ。いや、小学生高学年位だから、ロリかどうかは微妙な所なのか? 背中の中程まである黒髪。前髪は眉の辺りで真っ直ぐ切り揃えてある。瞳の色も黒で、パッチリ二重だ。日本人ぽい顔立ちの黒目黒髪ではなく、外人ぽい顔立ちのそれだ。そこら辺を歩いていたら振り返って二度見するくらいの美少女だな。


 しかし中身は1263歳らしい。ミカさんに年齢の話をすると怒るけど、ヒルダさんはそうでも無いみたいだ。ヒルダさん曰く、


「わらわは、と言うか不死族は殆どが不老不死に近いからの。年齢なんぞ何の意味も持たん。せいぜい生きた年として数える位じゃ。だからわらわは気にはせんが、ミカは気にしとるから気を付けるんじゃぞ」


 だそうだ。


 その後もヒルダさんの視線を感じていたが、日が経つにつれ、ミカさん、ルードさん、ルシアさん、ザックさん、サイガさんにまで。全員に見張られている様な感じになって来た。


 それに眠れない日も既に10日以上だ。10日以上眠っていないのに、特に体調に変化も無い。流石におかしい。みんな何事も無く生活している筈だけど・・・・・・?


 ある日の晩、話があるとヒルダさんに言われた。居間に行くと皆揃っていた。詩歩や一樹、シグさん達もだ。ヒルダさんが口を開く。


「カズマよ。まずお主に謝らねばならんのじゃ」


「謝る? ヒルダさんが? 俺に?」


「そうじゃ。思い出させるのも少々酷かもしれんが、タカオが消えた日の事を思い出して欲しい」


「・・・・・・はい」


「あの時タカオの攻撃を受けたわらわは真っ二つになった。そこは覚えておるか?」


「はい、鮮明に」


「うむ。その時にカズマはわらわの血を大量に浴びたであろう」


「ええ、そうですね。全身に浴びたと思いましたが、後で確認したら大して付いて無かったので気の所為だったのかなって」


「うむ、その事なんじゃがの・・・・・・」


「何ですか?」


「カズマよ、お主はわらわの眷属になっておる」


「・・・・・・」


「ええっ!?」


 声を上げたのは詩歩だ。


「ヒルダさん! それってどういう事なんですか!? 一馬君が眷属って何ですか!? ヒルダさん吸血鬼なんですよね!?」


 詩歩はヒルダさんに掴みかかる様に詰問している。


 えっと、ヴァンパイアって吸血鬼だよな、そうだよな。その眷属って? ん?


「一馬君も何!? 自分の事でしょ!? 何他人事みたいな顔してるの!」


「え? いや、え? ヒルダさんの血を浴びたから?」


「うむ、その通りじゃ。わらわの血液には眷属化させる菌が入っておっての」


 菌って言い方止めて下さいよ。せめてウィルスって言ってくれませんか。


「眷属化させるときは、その対象者にわらわの血液を注入するのじゃ」


「どうやってですか?」


「ん? それはこう、カプッとな?」


 ヒルダさんは噛み付く所作をする。


「そこは普通なんですね」


「何が普通かは良く解らんが・・・・・・ただし例外もあっての」


「例外とは?」


「マナ中毒を発症していない者は、血の一滴でも飲ませれば眷属化が可能なんじゃよ。抵抗力が弱いからの」


「・・・・・・まさかあの時に・・・・・・」


「うむ、それともう一つある。皮膚からも吸収した様でな・・・・・・その、かなりの量の血液がカズマの中にな・・・・・・」


「もしかして最近皆さんに見られていたのって」


「うむ、経過の観察をしておった」


「じゃあ最近全然眠くならないのは・・・・・・」


「うむ、眷属化の所為じゃ」


「夜が明るく感じてたのも・・・・・・」


「うむ、それもじゃな」


「眠れなくて、夜中に詩歩の寝顔を見に行っていたのも・・・・・・」


「ええ? そんな事してたの!?」


「それは知らん。いや、眠れないのは眷属化の所為じゃが・・・・・・」


「・・・・・・僕は人間なんですか?」


「・・・・・・すまぬ。ヴァンパイアじゃ」


「・・・・・・そうですか・・・・・・」


 あああ、カズマは俯いてしまった。故意ではないとは言えやっぱり不味いのう・・・・・・


「勝手に眷属化とか種族の変化とか、謝ってもすまない事は重々承知しておる。それに眷属化と言ってもわらわに従属せよとか、帝国に来いとかは一切無いと約束する。カズマの好きに生きて良い。カズマが望むなら帝国の女共を差し出そう。わらわの直系で、しかも男の眷属で高位のヴァンパイアじゃ。皆喜んで来るぞ」


 ・・・・・・何だと?


「「「あ、」」」


「なんじゃ? カズキよ。ザックにサイガまで」


「いや、別に。何でもない。なあサイガ」


「ああ、問題無いんじゃねえか? なあカズキ」


「うん。問題無さ過ぎ。ね? おにい」


「嫌だなぁ。皆何言ってるのさ。問題あるに決まってるでしょ? ミカさんとルシアさんもそんな眼で見ないで下さいよ」


「そうであろう。しかしわらわにはそれ位しか――」


「ヒルダさん。なってしまった物は仕方がありません。ショックなのは事実ですが、僕は受け入れます」


「そ、そうか? すまんの。 本当にすまん」


「そんな、一国の王が僕なんかに頭を下げないでください。でもアレですか? ヒルダさんの直系で高位のヴァンパイアって事は相当の身分みたいな感じなんですか?」


「う、うむ。そうじゃな・・・・・・わらわは直系自体はあまり作らんかったからのう。それに死んだ者もおるし・・・・・・ヒト種の国で言う所の第三王子位かの?」


「第三!」


「す、すまん」


「あ、いえ、思ったより上でびっくりしただけです。でも何だか寒くなってきましたね。これもヴァンパイア化した事によるものなんですかね?」


「おにい、後ろ」


「? 後ろ?」


 後ろを見ると詩歩が立っていた。目を細め、能面の様な表情だ。ん? 詩歩の身体から冷気が出てる?


「一馬君? どうしてそんなに嬉しそうなの? 人間じゃ無くなったんだよ?」


「え? 詩歩? 何でそんな怖い顔してんだ?」


「解らないとでも思っテルノ? カズマクン? オハナシガアリマス」


「・・・・・・はい」


 一馬は詩歩に連れられて居間を出て行った。


「・・・・・・? 何じゃ? どうしたんじゃ?」


「あー、カズマとカズキは異種族が好きなんだよ」


「俺は獣人だけですぅ」


「そうだったな。すまんカズキ。中でもエルフがトップで、次点でサキュバスとかの不死族が好きみたいでな」


「なんと! そうであったか。それでは詫びの意味も込めて、是非ともわらわの国に一度行かなくては」


「ああ、カズマ的には喜ぶんじゃねえか?」


「そうじゃのう。儂等と話しておった時も行きたがっておったしの」


「そうね。 詩歩は私達に任せておけばいいわ」


「そうかそうか。これはありがたい誤算じゃ。して、今更じゃがここはどの辺りなのじゃ?」


「ああ、ちょっと待って・・・・・・イグナスと結構違うのと、融合によって地形の変化もあるだろうから大体しか解らないけど・・・・・・この辺らしいわ。そうよねカズキ?」


「うん、そうだね」


 チキュウの世界地図を広げてヒルダに説明する。


「ふむ・・・・・・確かに大体似てはおるが、これだと良く解らんのう」


「まあそうよね。大まかな当たりしか付けられないわよね。でも転移結晶があるから大丈夫でしょ?」


「おお、そうじゃのう。忘れておったわ。・・・・・・しかしわらわの帝国もこっちに来ておるのか?」


「それは・・・・・・」


「幾らわらわでも飛んで土の中だったりするのは嫌じゃぞ」


「首だけ斬って送ってみるとか」


「何を恐ろしい事を言っとるんじゃ」


「でも行ってみないと解らないじゃない」


「ミカよ。それなら儂は棍を直しにセラムの所に行きたいんだがのう」


「そう言えば折れたままだったわね」


「うむ、ヒルダの国は地下にあるから失敗したら土の中かもしれんが、ドワーフの国なら大丈夫ではないか?」


「おお、ドワーフの国に飛べるなら転移門を設置してあるから、地下帝国まで行けるぞ」


「んー、ただルードが何処を指定するのか知らないけど、その場所が来て無かったら結局は同じじゃない?」


「・・・・・・うむ、そうじゃな。やはり最初は旅をするしかないかの」


「それが一番無難ね。ゆっくり行けばタカオの消息も分かるかもしれないし」


「またどこか行くの?」


「ええ、タカオを探しながらルードの棍を直したり、ヒルダの国へ行って来るわ。カズキ、あなた達はどうする? ここでタカオを待っていても良いわよ? 目的地に着いたら転移結晶を使って、ここに戻って来るし」


「一緒に行っていいの?」


「あなた達が良いなら断る理由は無いわ」


「じゃあ俺は行く」


「あうっ」


「ジルも行くって」


「そう。解ったわ。カズマは・・・・・・明日聞きましょうか。シホの事もあるし」


「まあ、おにいは行くって言うと思うけどね」


「ふふふ、そうね」




 と言う様な事があって、俺達は再び旅に出る事になった。


 目的地はドワーフ領。シンガポールの辺りらしい。途中で父さんの情報でもあればいいけど・・・・・・。



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