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1月六日 AM7:20
やけに路上駐車が多い。路上駐車と言うか乗り捨ててある様にも見える。やっぱり地震で避難したのか?
畑や田んぼに落ちている車。事故を起こしている車。普通車、タクシー、トラック、バイク。みんな乗り捨ててある。
そんな風景を見ながら道路を走っているとバス停が見えてきた。一馬はいないようだ。なんだ? 歩いて行ったのか? 歩きじゃ2時間は余裕でかかるぞ? まぁいないものはしょうがない、途中にある知り合いの所に寄る事にして車を進めた。
何件か知り合いの家に寄ったが、知り合いは勿論、人っ子一人いない・・・・車はもちろんバイク、自転車共に一台も走っていない。避難警報出て無かったよな? サイレンだけだったはずだし。本当に何が起きているんだ? 子供達を学校に行かせたのは失敗だったか?
自宅を出発してから約30分、お、人発見! って一馬か。
「おーどしたー? 学校まで送ってやるから乗れよ」
おいジル、嬉しいのは解ったから暴れるな。お前でかくなったから車が凄い揺れるんだよ。
歩いて疲れたのか一馬は素直に乗ってくる。顔が青い。何があった? 大丈夫かこいつ。
「誰かいた?」
「いや、ここまで何件か知り合いの所に寄ったけど誰もいない。通行人もいないんだよなー。で、お前はどうしたんだ? 誰か見たか? 学校まで歩いて行くつもりだったのか?」
「うん、家を出てから詩歩んちまで行ったんだけど、まだ居なかったんだ。で、やっぱり避難してるのかと思って詩歩が卒業した中学校と小学校見に行って、それから市の体育館とあそこのアリーナ見に行ったんだけど誰も居ないんだよね。みんないない何処にもいない誰ともすれ違わない鳥も犬も猫もいない車も走ってない何の音もしない何で誰も居ないんだ詩歩はどこに行ったそれにアレはなんなんだ? 緑色をした小人と白い「おい!!」・・・・」
青ざめた顔で口を開けたままこちらを見る一馬。
「・・・・・・何があったか知らんが落ち着け。今はここに俺がいる。ジルもいるし車も走ってる。エンジンの音聞こえるだろ? だから少し落ち着け、な?」
「・・・ああ、うん、うん、解った」
深呼吸をする一馬。うん、少し落ち着いたか?
「で、何があった。最初から話してみ?」
「うん」
一馬から聞いた話はこうだった。
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以下 一馬視点
俺は家を出た後バス停には向かわず、そのまま佐々木家に向かった。
佐々木家は相変わらず留守なので、そのまま詩歩の母校である中学校と小学校に向かうが誰もいなかった。後は心当たりと言えば市の体育センターとアリーナだ。まずは体育センターに向かうことにした。
途中から走って行ったがなんだ? 体が軽い? 体育センターまでは自転車でも15分は懸かる距離なのに5分程度で着いた。良く解らないが、今はそれ所じゃ無い。早く目的地に着けるならそれでいい。しかし、ここ、体育センターにも誰も居ないので、最後にアリーナに向かう。
道中全く人の気配を感じることなく、やはり普通では無い速度でアリーナに到着した俺は、誰もいない事に落胆し、他に広域避難場所の見当も付かないので学校に向かうことにした。
途中一級河川に架かる橋を渡ろうとした時、聞きなれない音を聞く。ギャーギャーと言う声? 音? それと何か重い金属物? がぶつかり合う音。復旧工事でもしているのかと思い川を覗いてみたら、昨日TVで見た緑の軍勢の中で切り結ぶ黒い鎧と白い鎧がいた。
二人の切合いに巻き込まれたのか周りには夥しい数の緑が散らばり、現在も黒い鎧と切合いながらも剣閃を飛ばし緑をまき散らしている。
白い鎧が黒い鎧に弾き飛ばされたと思ったら、飛ばされた先の緑が大量に舞う。黒い鎧が白い鎧に向けて赤い光を飛ばしたと思ったら、白い鎧は持っている剣でそれを流し緑に当てている。白い鎧が動く度に爆発したかの様に緑が吹き飛ぶ。
なんだあれは? なんなんだ? 伏せて隠れながら見ている俺にふっと影が差した。何かが後ろに立っている。視線を感じる。
恐る恐る振り向くとそこには・・・・コスプレをした女の子? いや、身長が低いだけか? 魔女と言わんばかりのコスチュームをした女性と、革鎧? を着て弓を背負った男性が立っていた。
黒いとんがり帽子を被り、黒いローブに身を包む。手にはまた黒いグローブを着けている。肩までは無い水色の髪、(ああ、なんて言ったっけ?ボブカットだっけ? 隣のクラスの吉岡里美と同じ髪型だ)冷たい目で俺を見下ろしている。いや、瞳が青いからそう見えるだけか?
もう一人の革鎧は・・・・・・背が高いな、外人か? 金色の長髪を後ろで纏め、愛想の良い笑顔を俺に向けている。パッと見モテそうな印象を受ける。彫りが深いからやっぱり外人なんだろう。
弓を持った男がローブの女性に向かって顎で河原を指し言った。
「そろそろじゃねぇか?」
なにが? 俺も川を見ると同時に「ガシュッ!」という音と黒い鎧の首が飛んでいる光景が見えた。
勿論首を刎ねたのは白い鎧だ。黒い鎧が倒れるのを確認した白い鎧がこっちに来る。速い。
ローブの女性が両手を広げブツブツと何か言い出した。何を言っているのかは全く解らない。両手に火の塊を持っている、熱くないのか? 白い鎧が俺の目の前で止まる。返り血? 体液? 青い液体で白い鎧が汚れている。
「いいよ、やって」
白い鎧がそう言うと魔女?が「インフェルノ」と言い、手に持っていた火の塊を投げた。いや、発射した。
高速で発射されたそれは緑の集団の真ん中、黒い鎧がいた辺りに着弾。土手の両側に植えてある松の木位の高さの炎を上げながら、緑を飲み込んで行った。
何秒経ったのか、あれほど猛り狂っていた炎全てがふっと消えた。後に残ったのは黒一面の河原。川の水も蒸発したのか何も無い。上流から流れて来る水がジュウジュウと言いながら進む。
「で、あなたは何? なんでここにいるの? 生き残り?」
放心状態の俺の耳に届いた言葉。声を発したであろう白い鎧を見る。フルフェイスの兜を被っているので顔や年齢は解らないが、声からして女性の様だ。いきのこり?・・・・生き残りってなんだよ?
「さあ? ここからルシアの暴れっぷりを覗いてたぜ? まあ今ここにいるって事は生き残りで間違い無いんだろうがな。なあ、どうだった坊主? こいつ強えーだろ? イグナスの勇者様だぜ?」
・・・・・・? 弓の人も何を言っているんだ? 勇者? イグナスって?
「まだ反応が弱いけどこの子にはマナの反応がある。おそらく例の物に接触し、加護を受けたのだと思う。だからレギオンのバジュールから助かったのね。六個の内の一つから加護を得られたんだから、運の良い子ね」
おい、魔女。あんたも何を言ってるんだ? マナって何だよ、加護? レギオン? バジュール?説明しろよお前ら、あの緑の集団は何だ? 詩歩は、他の人は何処に行った?白い鎧が言う。
「そう、どっちに行きそう?」
「まだ反応が弱いから解らない。」
「・・・・まぁいいわ、堕ちたら堕ちたで殺すだけだしね。次に行きましょう。あなたも奴らには近づかないようにね。直接会ったら捕まって生きたまま食べられるわよ。見つけたら直ぐに逃げなさい。」
「いいのか? こいつ放っておいて」
「良いも何もまだ“芽”が吹くかも解らない段階では、連れて行くにもリスクが高すぎる。それに足手まといになる」
「そういう事。まだ私達が手を出すには早いわ。芽が吹けば生き残るし、吹かなければ・・・・・・」
「オーケー解った。ルシアとミカがそう言うならそれでいい。また会おうな坊主」
そう言い残すと彼らは、そのまま飛ぶように走って行った。
「ちょっ、待っ・・・・」
おい、何か知ってるならもうちょっと説明しろよ。何も理解できてねぇよ・・・・。
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そうした出来事があって放心状態で歩いている一馬を俺が見つけたって事らしい。・・・・・・
んー、一馬の様子を見るに嘘を付いているとは思えない。緑の集団と何かが戦っていて、俺たちはその巻き添えになってる? 情報が中途半端すぎる。
それに体が軽いだと? 体育館からアリーナまでは車で5分位だぞ? 走って5分? 一樹も速かったが一馬も?
それに生き残りってどう言う意味だ? 眼が吹く? 芽が吹く? それも意味が解らない。俺達以外は既に誰も居ないのか? だから誰ともすれ違わないのか? 遥は? 遥はどうなっているんだ、生きているのか?
一馬の話とその変な外人達のいう事が事実なら・・・・・・一樹がヤバい! 違う意味でヤバい!!鉄根持った中二のバカエージェントはそんな集団見つけたら突っ込みそうだ!
急いでUターンをして一樹の通う中学校に向かう。
「急に急いでどうしたの?」
「一馬、お前最初は隠れて見てたんだろ? あのバカ、そんな集団がいたら隠れると思うか? しかも今日は仕事で使ってる鉄根持ってるんだぞ」
「あーー、ヤバいね」
「だろ?」
早く一樹を見つけないとヤバい事になりそうだ。