10-11
私は掻い摘んでザックに説明した。
「マジか・・・・・・タカオがそんな事を?」
「ええ、だから今の内にルードとサイガを呼んできて。このままじゃ私達の手に余るわ」
「それは良いんだが、外もちょっと問題になっててな。ゾンビを使役してたオーラがいるだろ? ここで復活してよ、またゾンビ軍団を作ってんだよ」
「え? 何でオーラがいるの?」
「詳しくは知らねえけどよ、傭兵の一人に憑りついて俺達を探してんだよ。そんなこんなで外は大混乱だ」
「じゃあ尚更よ。一度戻ってヒルダも連れて来て。ヒルダは私以上の強力な結界を張れるわ。・・・・・・でもそうするとカズマ達が・・・・・・いいわ、全員ここに連れて来て」
「全員ってナディア達もか?」
「ええ、一緒にいた方が守りやすいわ」
「解った。じゃあもうちょっと頑張ってろ。おいタカオ、早く正気に戻れよ?」
「・・・・・・う・・・・・・うるせ、え。邪、魔する・・・・・・なら、お前・・・・も殺すぞ」
「成程、確かにおかしいな」
「だから早く行って!」
「おう」
ザックは転移結晶を使い消えて行った。
「ぐ、ううう・・・・・・お前等、ふざけやがって・・・・・・」
畜生、何だこの魔法は。何倍もの重力が掛かっていて、地面に這いつくばったまま動けない。これがグラビティって奴か?
「タカオ、お願い。元のタカオに戻って」
「う・・・・・・うるせえ。お前ら、はもう、敵認定、だ・・・・・・」
「タカオ、そんな事言わないでよ・・・・・・」
ルシアは涙を流している。私だって泣きたい。タカオに敵と思われるなんて・・・・・・。でも泣いてなんていられない。タカオを元に戻さなくては。
その後もタカオの説得を試みたけど、全く聞く耳を持たない。どうすればいいの? ハルカを失った悲しみや怒りは、私達では癒せないの? いえ、癒せるとしても、こうも話を聞いてくれないのは・・・・・・。
「ミカ!」
ルードとサイガが来てくれた。
「ミカ、何をしておるんじゃ? タカオはどうしたんじゃ?」
「ザックに聞いて来たんじゃないの?」
「いや、儂等は別行動じゃ。ミカ達の手伝いをしようと来たのじゃが・・・・・・」
「オーラの話は聞いた?」
「うむ、そっちは聞いておる。まだここには来ないじゃろうが、あの勢いでは時間の問題じゃぞ」
「で? タカオに何してるんだ? それにタカオの奥さんは? いただろ?」
「それが・・・・・・」
「俺がお前達ともたもた旅してるから! 遥は死んだんだよ! クソが! お前等全員ぶっ殺してやる!」
「は? 何言ってんだタカオ。お前正気か?」
「うるせえ!」
「正気じゃないのよ。ハルカが死んだショックで――」
私はルードとサイガにタカオの現状を伝えた。
「そんな事が有り得るのか?」
「有り得るも何も、目の前で実際にタカオがおかしくなっておるんじゃ。信じるしかあるまい」
「で? どうするんだ?」
「どうするも何もこのままじゃ話も出来ないわ。不本意だけどタカオには行動不能にまでなってもらうしかないわ」
「しかし敵の勇者を簡単に倒したんじゃろ?」
ギゼの死体を見ながらルードが言う。
「ええ、そうよ。私の結界も一撃で壊したし。だから私達も相当の覚悟をしないと」
「それ程か・・・・・・」
タカオは未だ地面にうつ伏せに倒れたまま。グラビティが効果があって良かったわ。
「ザックが全員を連れてきたら、ヒルダに強固な結界を張ってもらうわ。非戦闘員を結界内に入れたら・・・・・・」
「うむ、解った」
「タカオの方はそれでいいが、オーラの方はどうするんだ?」
「もし来たら、そっちは私が一瞬で焼き尽くすわ。今はそれ所じゃ無いもの」
「解った」
ちょうどその時、ザック達が転移してきた。
「ミカ、待たせたな。おうルード達も来てたか。タカオの事聞いたか?」
「うむ、少々面倒な事になっておる様じゃな」
「ああ、それに加えて外はオーラのゾンビ軍団だしな」
「ミカよ、久しぶりじゃな」
「ヒルダ、来てくれてありがとう。挨拶もそこそこで悪いけど、この闘技場を結界で覆って欲しいの」
「うむ、話は聞いておる。お安い御用じゃ」
ヒルダはブツブツと呟き、“守護せよ” と言い結界を張った。目に見えない事から闘技場の外側に張ったのだろう。
「よし、これで何者も入っては来れんぞ。この中にはわらわ達だけじゃ」
「ありがとうヒルダ。じゃあ次はそこの非戦闘員達を結界で守って。カズマ、これから激しい戦闘になる事が予想されるわ。隅で大人しくしていて」
「そ、それは解りましたが、父さんは大丈夫なんですか?」
「・・・・・・解らないわ。でも最善を尽くすことは約束する」
「・・・・・・解りました。それで・・・・・・母さんは・・・・・・」
私は無言で指を指し示す・・・・・・上下に切り離された、ハルカの遺体を・・・・・・
「ごめんなさい。戦闘後に直ぐにこんな事になって、まだ何も出来ていないの・・・・・・」
カズマとシホは何も言わずハルカの元へと歩いて行った。
カズキとジルは、来てすぐにハルカの横に行き座り込んでいる。顔をごしごしやっているから泣いているんだろう。
・・・・・・全く。死者を弔う暇も無いなんて・・・・・・
「いいわ。ヒルダ、あの子達の周辺に結界を張ってあげて」
「・・・・・・うむ、解ったのじゃ」
ヒルダは念入りに結界を張っている。短い期間とは言え、一緒にシホを守っていたんだものね。思う所もあるでしょう。さて、次はタカオね。説得するなり行動不能にするなりして、さっさとここから離れないと。
「・・・・・・タカオ、聞こえる?」
「・・・・・・」
「タカオ?」
「聞こえてんよ、クソが。さっさと、この腐れ魔法を解除しろよ!」
「それは出来ないわ。解除したら暴れるでしょう? そうなったら話が出来ないじゃない」
「・・・・・・」
「ねえタカオ。落ち着いて私達と話し合おうよ。ね?」
「うるせぇよ・・・・・・」
「タカオよ。ハルカを失った悲しみが、儂等に解るとは言わん。慰められたからと言ってどうにかなるとも思わん。だがカズマとカズキはタカオのお陰で生きておるんじゃぞ? 二人が悲しんでいる時にお主は世界に対する復讐心に囚われておるのか?」
「・・・・・・うるせえ」
「そうよタカオ。復讐心になんて囚われないで! 元のタカオに戻って!」
「ううぅるせえええええ!!」
バシュンッ!
え!? グラビティが消えた!? 自力でグラビティの重力の渦から逃れたの?
「ミカ! どうなっておるのじゃ!?」
「私だって解らないわ! こんな事初めてよ!」
「何にしろヤバい事になったのは確かみたいだな」
「タカオ・・・・・・どうしてそこまで・・・・・・」
タカオはシュウシュウと音を立てながらマナを噴出させている。
「お前等、どうあっても俺の邪魔をするんだな?」
「当たり前じゃ。今のお主は誰が見てもおかしいわい。力づくでも止めるぞ」
「そうか、お前達の考えは良く解った。これが最後の警告だ・・・・・・俺は! 遥を殺したこの世界を壊す! 絶対にだ! それを邪魔する奴は殺す!」
サイガが一歩前に出て来る。
「タカオ、御託は良いからかかって来いよ。俺が強者を求めているのは知ってるだろ? 力に目覚めたんだろ? 俺とやろうぜ?」
「サイガか・・・・・・いいぞ? まずはお前からか」
「ああ、俺からだ。能力は飛躍的に高くなったみたいだがな、それだけだ。言っても解らないみたいだからな、身体に教えてやるよ」
「上等だ! 教えられるもんなら、教えてみろやああぁぁ!」
孝雄side
ふざけやがって、どいつもこいつも。俺がおかしいだと? ふざけんな。最愛の者を目の前で殺されて、憤慨しない方がおかしいだろうが。
それに俺の精神は壊れる寸前だった。と言うか死ぬ寸前だった。しかし、仮に命が助かったとしてもあのままじゃ良くて廃人、悪けりゃ自殺だ! 俺はそれを救ったんだぞ? それなのに、それなのに邪魔ばかりしやがって!
俺はサイガに飛びかかる。ギゼの防御を簡単に破った拳だ。サイガの防御なんて紙に等しいんじゃないか? まあ俺の邪魔をする敵だ、構うもんか。 口から内臓ぶちまけさせてやる。
サイガに接近し、右の拳を繰り出す。ほら、簡単に当たっ――
ゴォウッ!
・・・・・・あれ? 当たって無い? 俺の拳は空を切った。
「タカオ、何処狙ってんだ?」
いつの間にかサイガは俺の後ろにいた。・・・・・・そうだ、こいつは神出鬼没なんだよな。訳の解らない術を使って何処にでも現れるんだったな。
俺は返事をせずに、そのまま背後に裏拳を放つ。と見せかけて、更に回転して――
突然巨大な拳が飛んで来た。回転中の俺は避けることが出来ず、受ける事しか出来なかった。ちっ、ルードか。この無駄に太い腕、捕まえてへし折ってやる。
ルードの腕を絡め捕ろうとした時、俺の手をめがけて赤い光の棒が―― クソっ、ルシアもか。俺は手を引っ込めるしかなかった。そうだよな、一対一とは誰も言って無かったな。その場から飛び退き、確認する。
・・・・・・サイガ、ルード、ルシア。離れた場所ではザックが魔弓を構え、ミカは魔法陣を形成している。陣を形成する程の強力な魔法を撃つつもりか・・・・・・全く、どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって! いいよ、何でもやって来いよ。一人一人確実に潰してやる!
ん? サイガがいない? あの野郎また隠れやがったな。ルードが巨体とは思えない速さで突っ込んで来る。いいぞ? 来いや。自慢の攻撃力と防御力を正面から叩き潰してやる!
ルードはその剛腕で殴りつけて来る。ルシアが後ろにいるんだろ? 避けたらルシアの聖剣の的になる。
「正気に戻らんかああああ!」
ドゴン!
ルードの拳を顔面で受ける。ぐうう、流石に重いな。だが!
「おらあああああ!」
ギゼに撃ち込んだのと同様に、ダメージを100%相手に与える様にルードの鳩尾に拳をぶち込む!
バガン!!
良し! 入った!
「ぐ・・・・・・な、なんじゃと・・・・・・」
ルードは膝を付き、そのまま崩れて行った。
「えっ!?」
「何っ!」
ルードが一撃で倒れるとは思いもしなかったんだろう。ルシアの奴動きが止まっている。何処からかサイガの声もした。それにミカもザックも驚いているな。
「おいルシア、お前本当に勇者か? 学習能力が無いにも程があるぞ? ボケっとしてんじゃねえよ!」
俺はルシアの顔目がけて拳を放つ。ルシアは綺麗な顔立ちだったけど仕方が無いよな? 俺の邪魔をするんだからな。そのツラぐちゃぐちゃにしてやんよ!
ガシュン!
下から二本の刀が出てきて、俺の拳が逸らされた。ちっ、サイガか。
「おい勇者、防御は任せろ。お前は攻撃だけに集中しろ」
「わ、解った。信じるからね」
「任せろ」
ルシアが聖剣を振って来る。躱して殴りつけるが、ルシアの影に隠れているサイガの刀によって全て弾かれるか流される。
・・・・・・聖剣は受けた事が無いが、きっと大丈夫だろう。次に俺の拳を弾こうとサイガが影から腕を出した時、その腕へし折ってやる。
ルシアは俺の胸を狙って突いてきた。それを下に躱しながらルシアの脇腹を狙って拳を出す。案の定足元の影から刀が出て来た。刀は俺の拳を逸らして・・・・・・サイガの手が出て来た。今だ!
俺は蹴りを繰り出し、影から出ているサイガの手を狙う。
ガスッ!
くっ! これはザックの矢か! サイガの手の前にザックの矢が刺さり、俺の蹴りはそれに止められた。確かに踏み込みも甘かったが、それでも俺の蹴りを止めるか。・・・・・・全く・・・・・・まったくイラつかせてくれる!
一度距離を取り、横目でミカを見る。・・・・・・まだ魔法陣は出来ていないみたいだな。ザックはその護衛か。ミカとザックを先に潰すか。
俺は一足飛びにルシアとの距離を詰める。と、見せかけてルシアの目の前で方向転換し、ミカ達の方へ飛ぶ。
ザックはミカの前に立ち塞がり、俺を迎撃しようと矢を放ってくる。俺はルードがやっていたみたいに両腕にマナを集め、その全てを弾く。ザックの横をすり抜け、背の低いミカに向けて拳を振り下ろす。
ボゴオォッ!
半径1m位で地面が陥没した。くそ、ミカは潰れていない。ちょろちょろと逃げ回りやがって。
後ろを振り向くと、ルシア、ザック、ミカが立っていた。




