10-9
儂は転移の拠点とした倉庫へと辿り着いた。道中は運良くゾンビ共と出会う事が無かった。倉庫の扉を開け中に入ると、丁度サイガが戻って来た所だった。
「うおっ! って何だルードか。何だよその棒は」
「傭兵との戦闘で曲がってしまったのじゃ。カズマ達は向こうへ置いてきたのか?」
「ああ、カズマの女と不死王ヒルダも無事だ。不死王は護衛がてら置いて来たけど良かったよな?」
「うむ、そうじゃな。出払っている奴隷狩りがいるかもしれんからな。問題無いじゃろう。むしろ問題なのはこっちじゃ。ゾンビを使役していたオーラが、ここで復活したらしいぞ」
「何? 生きてたのかあのババア。街はゾンビだらけなのか?」
「まだ全滅はしておらんが、時間の問題じゃろうな」
「ザックは?」
「ザックはルシア達にこの事を知らせに行っておる。そう言えばサイガよ、背中に変な足を付けた傭兵はお主が倒したのか?」
「虫の足みたいな奴か? それなら俺だな」
「今はそいつがオーラの様じゃぞ」
「そうなのか? ババアじゃないのか?」
「うむ、ザックが言うにはサイガと闘った傭兵の身体を使っているらしい。ザックと闘っていた仲間の傭兵を一人、噛み殺してインフェクテッド化させたとも言っておった」
「そうか。で? 俺らはどうするんだ?」
「オーラがゾンビの軍勢を作るとなると、ガジンも只では済むまい。そっちは放っておいてルシア達に合流しようと思うんじゃが、どうじゃ?」
「ぶっちゃけた話、ガジンとオーラと闘う必要はあるのか?」
「はっきり言うと無いな。タカオの妻とカズマの恋人を助けたのなら、わざわざ闘わんでも良いと儂は思っておる」
「じゃあ合流してとんずらでいいんじゃねえか?」
「よし。そうするとしよう。では闘技場に向かうか」
「おう」
儂とサイガは、タカオ達と合流する為に闘技場へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・・・・何で揺れているんだ? 真っ暗だ。地震か? ・・・・・・何かが爆発した様な地響きが、何度も起こっている・・・・・・何が起きたんだ? 何で真っ暗なんだ? ・・・・・・いや、違う。俺が目を瞑っているのか・・・・・・
目を開けると、目の前にミカがいる・・・・・・ミカ? 何で泣いてるんだ? また俺に怒られる様な事をしたのか? ミカは何かを言っているが、全く聞こえない。
視線を動かすとルシアと知らない男がお互い光る剣を持って打ち合っている。二人が打ち合う度に地面が抉れ、壁が吹き飛んでいる。この揺れは二人の所為か。ルシアの奴、勇者の力を解放し過ぎだろ。地面を揺らす程の攻撃って・・・・・・相手が死ぬぞ。つーか誰だあいつ? ・・・・・・しかし何で音が聞こえないんだ? 体も動かないけど・・・・・・
更に視線を動かすと、遥が地面に倒れている・・・・・・あ、遥。やっと会えた。ボロボロだな。待ってろ、今助けて・・・・・・助けて? ・・・・・・意識が急速に回復する。それと同時に聴覚も戻って来た。
「タカオ! タカオ! しっかりして!」
ミカが、俺に必死に声を掛けている。返事をしようとしたが、声が出ない。声の代わりに出たのは血だった。
「ゴブウッ!」
あれ? 俺はどうしたんだっけ? 遥を助けに闘技場に入って、敵の勇者にミカとルシアが飛ばされて、遥が・・・・・・遥? 遥は無事なのか!?
身体が動かないので視線だけを遥に向ける。目に入った物は・・・・・・上半身と下半身を分断され、既に事切れている遥だった・・・・・・。
「び・・・・・・びか・・・・・・はぶぐうっ・・・・・・さぎに・・・・・・はるがを・・・・・・」
「タカオ喋らないで! あなたも死にかけているの! 黙っていて!」
俺が死にかけてる? ・・・・・・そうだ。あの勇者が遥を斬った後、俺の胸を聖剣で刺したんだ。あいつが・・・・・・あいつが遥を!
「ぐ・・・・・・ぐううう!」
「タカオ動かないで! あいつはルシアに任せて! 出血を止めたら直ぐにここから逃げるから!」
逃げる? ふざけんな! あいつは遥を殺したんだぞ? ムシケラを殺すみたいに・・・・・・遥を殺したあいつを、あいつは俺が! ・・・・・・くそっ、何で身体が動かないんだ!? 半神なんだろ? これ位で・・・・・・畜生! 動け! 動けよ! くそがあああ!
「タカオ! 止めて! 動くと出血が止まらない!」
畜生、畜生・・・・・・何で、何で俺は何も出来ないんだ・・・・・・戦闘は全てミカ達に任せて、自分はのうのうと旅を続けて。
・・・・・・・・・・・・気が遠くなる・・・・・・なんか寒くなって来たし・・・・・・ああ、血が流れ過ぎてるのか・・・・・・死ぬんだな。まあいいか。最後に遥に逢えたしな・・・・・・。
『何がいいんだよ。満足してんのはお前だけだぞ?』
は? 何が満足なんだよ。
『お前、実の所楽しんでたよな?』
何言ってやがる。いきなり世界が変わって、遥が遠くに飛ばされて。何を楽しめるんだ。
『そうか? 自分の半分以下の歳の、若い娘二人に言い寄られて喜んでただろ?』
それは・・・・・・でも喜んでは・・・・・・
『その後も、旅行気分だったろうに』
そんな事無い! 俺は遥を救いに・・・・・・
『お前がもたもたしていたから、遥はこんな目にあったんじゃないのか?』
それは違う! 俺は最善を尽くした筈だ!
『そうなのか? だったら夜だって移動すれば良かったじゃないか』
運転だ何だって、皆だって疲れるだろ。
『そんなこと言って、毎晩若い娘と同衾するのが楽しみだったんじゃないのか?』
隣りで寝ただけだろうが! ふざけんな!
『それは建前だろ? 一馬や一樹の手前そんな風には言っていたが、隙あらば抱こうとしてただろ?』
・・・・・・
『遥も可哀想に。自分は地獄の中で他人を守っていたと言うのに・・・・・・助けを待ち望んでいた相手は、若い娘とイチャつきながら旅をしてたんだからな。死んでも死にきれないだろうに』
・・・・・・やめろ・・・・・・
『遥の心境が解るか? 助けに来たと思ったら女連れときたもんだ。そりゃあ気も抜けて、敵の必殺の一撃も貰っちまうわ』
・・・・・・だまれ・・・・・・
『毎日毎日、お前の名前を呼んでいた。孝雄さん、早く来てって。毎日毎日泣きながら呼んでいた』
・・・・・・黙れって言ってんだよ・・・・・・
『あのな、はっきり言ってやるよ。お前は失敗したんだよ。自分の人生、生き方に。選択を間違えたんだ。その結果、遥は死んだ。もう何をしても生き返らない』
・・・・・・・・・・・・
『もうさ、全部壊してやり直そうぜ。このふざけた世界をぶち壊すんだ。お前がそれを選ぶなら、俺は力を貸すぞ?』
・・・・・・ふん、壊したって遥は戻らないんだろ?
『それはもう起きてしまった事実だからな。変え様が無い。只な、お前だけが割を食っていいのか? お前と遥だけがこんな目に合っていて満足なのか?』
・・・・・・満足な訳あるか。ふざけんな
『だったらさ、な? 全部ぶち壊そうぜ。この地獄にみんな引きずり込むんだ』
・・・・・・みんなって・・・・・・ルシア達もか?
『当たり前だろ?』
・・・・・・当たり前って。ルシア達は関係無いだろ? むしろ協力してくれていただろうが
『協力? あいつらこそ、この旅を楽しんでただろ? 伴侶を見つけたとはしゃぎ周る女共。異世界の酒を飲んでいただけの男共。協力もしていたが、大体は自分の利の為だよな』
・・・・・・
『ついでに言うとな、俺と話せている時点でお前は壊れてるんだぜ?』
・・・・・・まあ、死にかけてるみたいだしな
『違う違う。そう言う意味じゃない。お前、俺が誰か解ってないのか?』
・・・・・・知らねーよ。死にかけてるらしいから幻聴だろ?
『あのな・・・・・・心で俺を見てみろよ』
・・・・・・心で? ・・・・・・ミカの後ろに立ってるお前か?
『ああ、そうだ。見えるか?』
・・・・・・ぼやけて良く見えないな
『じゃあこれでどうだ?』
立っている何かはミカの前に来て、俺を覗き込む。・・・・・・ミカには見えて無いのか? 必死に俺の治療を続けている。
『まだ見えないか?』
・・・・・・お前は・・・・・・俺か?
『ああ、そうだ。俺はお前だ。お前の本心だ』
・・・・・・本心って・・・・・・今迄お前が言ってた事は、全部俺の本心って事か?
『そりゃそうだ。俺はお前の本心なんだからな』
・・・・・・そんな・・・・・・
『・・・・・・今回の件が起きてから約二週間、色々な事があったよな』
・・・・・・
『世界の融合に伴う天変地異、異世界人の接触、物語でしか見ない様な魔物の発生、息子たちの変化、自分の変化』
・・・・・・
『地震や魔物の発生迄はまだ良かった。まずは息子たちの変化だ。明らかに異常だと言える一樹の変化。周りには一馬しかいないし、頼りの遥は行方知れず。一馬は一馬で佐々木さんの事ばかりで今一あてにならない。それで異常な能力を示していた一樹に、お前は恐怖を感じていたんだよ』
・・・・・・
『次に異世界人達の接触。宇宙人でさえ眉唾物の世界で、前触れもなく異世界人なんて奴らが接触してきた。しかもあろうことか、いきなり自分の事が好きだと言って来る。洗脳まがいの告白で、お前を縛り付けて来た。お前が壊れ始めたのはその頃からだが、まだ十分ましだった』
・・・・・・
『次は眷属達だな。存在するはずの無い異形の者が、異形の能力で襲い掛かって来たんだ。現実に起きている事を認めきれずに、少しずつ、少しずつお前は壊れて行った』
・・・・・・
『あまりにも現実とかけ離れた事柄ばかりを目にしてきたお前は、ストレスに感じる事を心の別の場所に仕舞い込むようになってきたんだ』
・・・・・・
『お前は元々が優しい性格だからな。ストレスを表に出す事も無く、ルシア達に流されながら旅を続けて来た。遥を助けるって言う、自分の個人的な目的に付き合ってくれている皆に不満の一つも零す事無くな』
・・・・・・
『本当は自分でも解っているんだろ? この旅は、急ごうと思えばもっと急げたんだって』
・・・・・・やめろ
『いや、俺は止めないぞ。お前何被害者ヅラしてんだ? 俺が言いたい事解らないのか? いや、お前は俺だ。解ってんよな? お前が! 俺の遥を殺したって言ってんだよ!!』
・・・・・・やめてくれ・・・・・・
『お前が俺を表に出さないから! 俺が表に出ていれば、もっと不満も口に出来たし! この旅ももっと早く終わっていた! 遥があんなになる前に、ここに着けたんだ!!』
・・・・・・頼むからやめてくれ・・・・・・
『俺は遥がいない世界なんていらない。こんな世界何の価値も無い。お前はもう引っ込んでろ! このままだとお前の心は壊れるぞ? 後は全て俺に任せておけ。俺がこのくだらない世界を全部ぶち壊してやる!!』
・・・・・・・・・・・・俺が・・・・・・俺が遥を殺したのか・・・・・・・・・・・・
・・・・・・駄目・・・・・・タカオの出血が止まらない。傷自体は治せている筈。なのに、何で・・・・・・私の治癒魔法じゃこれ以上は・・・・・・。
ルシアは一歩も引くことなく、敵の勇者と闘っている。周囲への被害が凄いから、沢山いた観客も既に全員いなくなっている。
その時、タカオの身体がビクンと大きく跳ねた。
「タカオ? 大丈夫?」
「ミカか・・・・・・」
気が付いた? 私はタカオの顔を覗き込ん・・・・・・眼が赤い!? まさか!
「ミカ、どけ」
タカオは私を押しのけ起き上がろうとする。
「タカオ! 動いちゃ駄目!」
ルシアは未だに敵勇者と闘っている。・・・・・・ふむ、俺が前面に出た事により、力に目覚めたみたいだな。二人の動きが良く見える。むしろ遅い位だ。力も漲っているのが自分でも解る。
・・・・・・ふふふ、今なら何でも出来そうだ。俺と言う甘っちょろい奴は、心の奥深くに引き籠った。今の俺には良心なんてものは無い。ふふふ、ふははははは! このくだらない世界をぶち壊してやる!! まずは遥を殺した腐れ勇者だ!
「ふはははははは!!」
「タ、タカオ? どうしたの?」
んだよこいつは。まだいたのかよ・・・・・・。
「・・・・・・」
「タカオ?」
「なあ。俺、お前にどけって言ったよな?」
「え? タカオ? 何言ってる――」
「どけよ! 邪魔だ!!」
「!? きゃあっ!」
体内のマナを爆発させミカを吹き飛ばす。
俺の急激なマナの爆発に、勇者二人は動きを止める。
「タカオ? ミカ? どうしたの? ねえ、何でミカが飛ばされてるぐうっ!」
ゴギン!
ルシアは敵勇者の攻撃で弾き飛ばされた。
「戦闘中に何処を見ている・・・・・・」
全くもってその通りだ。学習能力が無いのか? 脳筋だから仕方がないのか?
ルシアは放っておいて、俺は敵勇者に近づく。
「よう」
「何だ貴様は? 死んでいなかったのか?」
「まあそんなとこだ」
「で? 何の用だ? 確実な死を与えて欲しいのか?」
「いや、お前を殺す」
俺は敵勇者の前に立った。




