10-8
明らかに毛色の違う装備を纏っている二人。
「侵入者ってのはお前らで間違いないんだろ? まぁた随分と殺しやがったな」
「まあ侵入者ってのは俺達の事だろうな? で? お前達は? 格好からして勇者ってこたあ無いよな? 傭兵か」
「ああ、そうだな。俺達が傭兵で合ってるぜ。よく知ってんな」
「二人しかおらん様じゃが、三人ではないのか?」
「ん? そこまで知ってんのか? さあな、あと一人は何処だろうな? その辺に隠れてるかもしれないぜ?」
「ふむ。お主等は何故ガジンに味方しておるのじゃ」
「何故? んー、特に理由は無いな。強いて言うなら・・・・・・・・・・・・やっぱり理由なんて無いな」
「理由も無しにガジンに協力してるのか?」
「まあ単なる暇つぶしだ。気にするな」
「ならば、そこを開けて儂等を通さんか? ガジンを守る必要も無いんじゃろ?」
「おう、あの豚を守るつもりなんてさらさら無いぜ」
「なら通せよ」
「だから暇つぶしだって言ってんだろ? ここにいりゃあお前等みたいな奴が来るからな。わざわざ探しに行くよりも効率が良いんだよ。あの豚は変な魔物とかも捕まえて来るしよ」
「じゃあそこをどくつもりは無いんだな?」
「ああ、俺達の暇つぶしに付き合えよ」
「そうか。ならば仕方がない。やるぞザック」
ザックは魔弓に矢を番えて後方へと飛ぶ。儂は闘気を纏い、傭兵との距離を詰める。
「おいクリント! お前は後ろの奴を殺れ! 俺はこのデカいのを殺る!」
「おう!」
クリントと呼ばれた男は長い筒の様な物を持ち、儂の脇を抜けようとした。
「抜けさせるか!」
儂は棍をクリントに叩きつけようとしたが、
バシン!
「おいおい、お前の相手は俺だって言ってんだろ? 余所見してんなよ」
もう一人の男の持つ、光る盾に阻まれた。
「・・・・・・何じゃその盾は? 儂の打撃を受けても平気なのか?」
「いいだろ? これはパルスシールドって言ってな。まあお前等みたいな原始人には、言っても解らねーか。衝撃を相殺するんだよ」
「相殺じゃと?」
「ああ、だからほとんどの攻撃はこのシールドが防いでくれるな」
何じゃ、儂の相手は “ダ” に続いてまたこんな奴か。攻撃が通らんとかそんなのばかりじゃな。
「ふん、守ってばかりでは勝てないだろうが」
「その通りだ。だからちゃんと攻撃手段もあるぜ」
傭兵は何かを手に持ちこちらに向ける。タカオは “銃” は先端に穴が開いていると言っていたが、これは開いてはいないようじゃな。 “銃” ではないのか? 先端が光っておるが・・・・・・嫌な予感がする。横に避けて・・・・・・
キュバアッ!
傭兵が手に持つ物から光の塊が発射され、壁を壊し、更に城壁まで壊して飛んで行った。何じゃ今のは?
「ん? 銃の事知ってんのか? この世界で出会った奴らは知らない筈なんだけどな」
「それも “銃” なのか? うむ、聞いてはおったぞ。儂等の世界の者は知らんが、元からこの世界の住人は知っておる様じゃ」
「そうか。だから避けられるんだな。それなら避けきれないほど撃ってみるか」
ドキュキュキュキュキュキュキュキュ・・・・・・・・・・・・!
先端を儂に向けられぬ様に柱を盾に移動する。さっきの攻撃より威力は小さいが、連続して撃ち出して来よる。それに威力は小さいと言っても、柱や調度品を一瞬で破壊しておる。部屋が滅茶苦茶になっておるぞ。
立てかけてある剣を取り傭兵に投げつけるが、銃から撃ち出される光の弾によって撃ち落とされてしまう。
くそ、一つだけ飛ばしても駄目か。それならば・・・・・・
「むううう!」
ゴガアッ!!
儂は柱の一つを棍で力任せに殴る。。数十の瓦礫が、高速で傭兵に飛んで行く。柱を壊し、瓦礫を傭兵にぶち当ててやるわ。
しかし傭兵は、
「おっと」
またシールドを展開して、飛来する瓦礫を防いだ。
ちっ、厄介じゃの。何発か喰らうのを覚悟して突っ込むか? 最大まで闘気を練り込めば死ぬ事は無いと思うが・・・・・・ええい、考えても埒が明かん。どの道、遠、中距離で儂に出来ることなどたかが知れとるわ。
次の柱に移動し、再度柱をぶち壊し瓦礫を飛ばす。瓦礫を追いかけるように距離を詰める!
「おっ、来るか!?」
傭兵は瓦礫を左手のシールドで防ぎつつ、陰から右手に持った銃を向けて来る。
むうっ!? 溜めているのか? 最初に撃ったデカい方か!
キュバッ!!
やはりデカい方じゃ。しかもさっきのよりもデカい。闘気を棍に纏わせ、儂に向かって飛んで来る光の塊に向かって投げつける。
棍と光の弾は空中でぶつかり爆発を起こす。儂はその爆発に紛れ、傭兵の後ろに回り込む事に成功した。
右拳を傭兵に向かって撃ち出すが、あらかじめ解っていたかのようにシールドで防がれてしまった。
「いくら見えない様に動いても、俺には解るんだよ。喰らえ!」
ドキュキュキュキュ・・・・・・
「うむ、そう聞いておらんかったら、儂もこんな手段に出ようとは思わんかったな」
儂の右拳を抑えている、シールドを持った傭兵の左腕を残った左手で掴む。
「幾ら儂の動きが解っても、掴まれれば何の意味も持つまい? このままその頭蓋を叩き割ってやるわ」
「・・・・・・俺が撃つよりもお前の拳の方が早いと?」
「その通りじゃ。破壊力も中々あるぞ? 今喰らって気付いたんじゃが、その銃は連射の方は大した威力が無いのう」
「ああ? 血だらけじゃねえか」
「うむ、確かに闘気を纏っているのに皮膚は貫通したがそれだけじゃ。全て筋肉で止まっておる。警戒して損したわい」
「じゃあ溜めて撃ちゃあいいだろ?」
「確かにそうじゃが、溜める時間を与えると思うのか?」
「・・・・・・」
傭兵は銃を儂に向けて、溜め始めた。
「愚か者が」
闘気を纏わせた拳を傭兵の顔に叩きこむ・・・・・・
ビシャアッ!
・・・・・・当たりに脳をぶちまけて、傭兵は息絶えた。
・・・・・・ゴフウッ・・・・・・さっきはああ言ったものの、何発かは筋肉の薄い場所に当たったから内臓にまで届いておるな。まあこれで死ぬ事は無いじゃろうが・・・・・・。さて、ザックは無事かの。
入り口から庭に出ると、ザック達はいなかった。
「ふむ、闘いながら何処かに移動してしまったか。では先にガジンの確保だけでもしておこうかのう」
儂は瓦礫の中から棍を探したが、
「おおぉ・・・・・・何と言う事じゃ・・・・・・曲がってしまっておる」
ドワーフの王、セラム直々に打ってもらったアダマンタイト製の棍が・・・・・・ほぼ直角に曲がってしまっておる。これでは武器として使えん。恐らくセラムもこっちに来ているんじゃろうが、居場所が解らんことには修理も出来んではないか・・・・・・。くそう、材質が材質だけにその辺に置いて行くわけにもいかんし。なんとか真っ直ぐに戻らんか? ・・・・・・しかし城外がやかましいのう。何の騒ぎじゃ?
儂は棍を真っ直ぐに戻そうと力を込めるが、
「ぐぬぬぬ・・・・・・」
アダマンタイトが、闘気を纏っているとはいえ人の力で戻る訳が無い。
「くそう、こんなひん曲がった棒きれで、どうせいっちゅうんじゃ」
「何やってんだルード」
「うん? ザックか。傭兵との闘いで、儂の棍が折れてしまったのじゃ」
「うお、マジか! それアダマンタイトだよな?」
「そうじゃ。ドワーフ領に行かんと直せん。して、お主はどうだったのじゃ?」
「おうそうだ。あいつと打ち合いながら移動したらよ、サイガたちの目的地の尖塔の方に行っちまったんだよ」
「何? サイガたちはまだおったのか?」
「いや、誰もいなかった。既に目的は果たしたみたいでな、傭兵の仲間が一人倒れていたんだよ」
「サイガか?」
「ああ、多分そうだろうな。しかもそいつまだ動いてやがってよ」
「ほう、サイガにしては珍しい。見逃したのか?」
「それがよ、俺と闘ってた傭兵もそいつが生きてる事に気付いてな。二対一でやろうとしたんだろうな。倒れている奴に近づいて行ったんだよ。そうしたらよ、倒れていた方が俺とやり合っていた奴に襲い掛かってよ」
「ん? 仲間じゃないのか?」
「仲間だろ? 名前呼びながら近づいてたから。で、重要なのはそこじゃねえんだよ。倒れてたやつが俺の相手を噛み殺しやがってよ、次に俺の方を見たんだ。何て言ったと思う?」
「そんなの解る訳あるまい。何て言ったんじゃ?」
「『やっと復活できたぞ。今度こそお前達はこの地から逃さん』 こう言ったんだよ」
「何じゃそれは。人違いか?」
「ああ、俺もそう思ったからよ――」
『あん? 俺はお前なんか知らねーぞ? そいつは仲間じゃねえのか? 何で食い殺してんだ?』
『私を忘れたのか? 愚か者が。私の死の国を滅ぼしておいて、そのままで済ます訳が無いだろう!』
『死の国って・・・・・・オーラか!? ゾンビ軍団の?』
『そうさ。あの犬の攻撃で消し飛ばされそうになったが、肉片一つでお前達の船に憑りつき、その後はあのカズマと言う小僧に憑いてチャンスを伺っていたんだよ。お前達はガジンの所に行くって言っていたからね。ここなら復活の素材もより取り見取りさ』
その時俺と闘っていた傭兵が、
『クソ、が、ギャレット。て、めえ何しやが、る・・・・・・』
銃を抜きオーラが憑りついている? ギャレットに向けて撃った。
ドギン! ギン! バギン!
傭兵が撃った物は、オーラ? ギャレット? 面倒だからこの先はオーラにするが、オーラが背負っている変な装置によって弾かれた。
『ほっほっほ。これは良いねえ。勝手に防御してくれるのかい。やっぱりいい素材だったね』
『ギャ、レット、どうしたんだ、てめえ』
『ギャレットはもとっくに死んでいるよ。私はオーラ。腐王オーラ・フィルス。この都市を死の国にしてやるのさ』
そう言ってオーラは、再び傭兵に噛み付いた。
噛まれた傭兵は、みるみるうちにゾンビと化した。いや、違うな。インフェクテッドになってるな。
『さて、お前は仲間を増やしておいで。沢山集めて来るんだよ、この都市を落とすからね』
そう言ってインフェクテッドを城外へと行かせ、
『お前達は私が直々に始末してあげるからね。あの生意気な小娘と腐れ犬は何処にいるんだい?』
『・・・・・・知るかババア。腐ってんのはてめえだろ? こんな所までしつこいんだよ。もう一度死んどけ』
魔弓から矢を放つが、オーラの背中にある変な装置から出ている足によって払い落される。
『ひょひょひょ。やっぱりこの体は当たりだね。さてと・・・・・・キイイェエエイェェェェ!!!』
オーラが俺に向かって飛びかかって来た。
俺は城壁に飛び上がり、城外をみるが・・・・・・ヤバい、大混乱だ。人の波、と言うかゾンビの波が広がっているのが、上からだと良く解る。
『ひょひょひょ。あのインフェクテッドは特別製だからねぇ。感染力を大幅に上げておいたよ。噛まれれば十数秒でインフェクテッド化するよ』
『ちっ。クソババアが、余計な事しやがって』
「あんたも仲間になりなああぁぁぁ!」
オーラが襲い掛かって来る。普通のインフェクテッドより速さも力もある。更に背中の足が厄介だ。
『チッ』
普通に撃っても足に撃ち落とされるからな。・・・・・・魔弓にマナを込め、オーラの着地点を崩すように矢を撃ち出す。
城壁はオーラと共に崩れ落ちて行く。とりあえずは時間稼ぎだ。もっと埋まっとけ。魔弓を連射して城壁を崩しまくる。
皆にオーラがいる事を伝えないと。知らずにゾンビに咬まれたら洒落にならん。
「で、一番近いであろうルードの所に戻って来たって訳だ」
「成程。オーラと言う敵は増えたが、少なくとも傭兵は三人共死んだんじゃな」
「ああ、そうだな。後は勇者だな。で、どうする? このままガジンか?」
「いや、予想外のオーラの乱入じゃ。一度合流した方が良いかもしれんの」
「よし解った。ルードは棍がそんなだから、サイガの方に行ってくれ。ルシア達闘技場の方は俺が行って来る」
「うむ、解った。合流次第、転移前のキャンプ場所で集合じゃ」
「おう、解った。じゃあな」
そう言ってザックは走って行った。




