10-6
「おお、ザックにサイガも戻っておったか。ん? 何じゃ、タカオはまだ寝ておるのか?」
「カズマとカズキは?」
「もうすぐ来ると思うぞ。タカオはどうかしたのか?」
「二人がいないなら良いわ。違うのよ。どうもガジンの所でハルカがね、ボロボロにされていたみたいで。それを聞いて・・・・・・ね」
「何じゃ、そんなに酷い事になっておるのか? ボロボロってどの程度じゃ?」
「酷いって言うか、カズマの女を守る為に、闘技場で闘わされていたみたいでな。体中包帯だらけだし、右目の周りはサンドワームの毒を受けたみたいでな・・・・・・」
「失明か?」
「だな。はっきり言って、普通の戦闘奴隷より酷いな。精神も壊れかけてたぞ」
「何でそこまでやらされとるんじゃ・・・・・・サンドワームなんぞ普通の人間が闘う相手ではないであろうに」
「どうもマナ中毒になったみたいだな。それで戦闘力が飛躍的に上がったからだろうな」
「むう・・・・・・どうするのじゃ? タカオを置いて儂等だけで潰すか?」
「その方が良いと思うわ。そんなハルカを見たら、今のタカオは何をするか解らないわ。置いて行くべきよ」
「ふざ・・・・・・けるな。俺は行くぞ・・・・・・」
「げっ、もう起きたのか? 数時間は昏倒する位には力を入れたんだけどな」
「さっきのはサイガか・・・・・・まあいい。これで皆揃ったんだな。じゃあ行くぞ。サイガ、案内してくれるよな」
「なあ炎帝。連れて行ったらどうだ? 自分の奥さんだろ?」
「・・・・・・タカオ、カズキはともかく、カズマはどうするの? 敵陣の中に連れて行くの?」
「・・・・・・どうする? 一馬が決めていいぞ」
「二人共何言ってるの? 詩歩がいるんだよ? 行くに決まってるでしょ?」
「という事だ」
「・・・・・・解ったわ。 じゃあ作戦を練りましょう。流石に考え無しでは突っ込めないわ」
「うむ、そうじゃの。差し当たっての目標はハルカとシホの救出じゃの」
「あ、そうだ。忘れてた。シホはガジンの居城の尖塔にいるんだけどな、一緒に不死王ヒルダがいたぞ」
「なに?」
「だから、不死王が一緒にいてシホを守ってた」
「ヒルダが? 何でそんな場所に?」
「いや、時間が無いから細かい事は聞いて無いけどよ」
「ふむ。ヒルダが一緒ならシホの方は楽かもしれんな」
「そうね。じゃあ救出はハルカが優先ね。あとは当面の脅威としては、勇者と傭兵ね」
傭兵か・・・・・・近未来から来てるんだよな。銃器の説明をしておいた方がいいよな。
「そいつ等については多少は俺から説明できる」
「何だタカオ?」
「アルマからの情報なんだが、そいつらは俺達の世界よりも進んだ文明の住人だったらしい。って事は、銃と言う武器を持っている可能性が高い」
「銃って何だ?」
「それを今から説明するんだ。銃ってのは――」
俺は銃器について知る限りの事を伝えた。近未来から来ている事から、SF映画で出てくるような物まで掻い摘んで説明した。
「成程の。そんな武器があるのか。でもどれ位の威力か想像出来んのう」
「そうだね。でも聞いた限りでは当たっても大した事無さそうだけどね。壁に穴を開けるのとかは私でも出来るしね」
「だからそれは物次第だからな。当たらないに越したことはない 弾だって色んな種類があるからな。さっき言ったみたいな雷を撃ち出す奴とかもあるかもしれない」
「でも穴が開いている方からしか弾は出て来ないんでしょ? それなら避けるのも簡単そうだよね」
「そうじゃな。わざわざ当たってやることもないしの。弾が無くなるまで避けておればいいじゃろ」
そこでザックが聞いて来る。
「ガジンの兵から聞いたんだが、ゴウタイパンチキとジゾウゲイデキソーチって解るか? 傭兵共が持ってるらしいんだが」
「何だそれ? ゴウタイパンチキとジゾウゲイデキソーチ? 一馬と一樹は解るか?」
「ジゾウゲイデキソーチ・・・・・・ジゾウ・・・・・・ゲイデキ・・・・・・ソウチ。最後は装置なんだろうけど・・・・・・」
「自動迎撃装置じゃない?」
「・・・・・・良く解ったな、一樹。そうだな、自動迎撃装置だな。じゃあゴウタイパンチキは何だと思う?」
自動迎撃装置? 個人の傭兵がそんな物を持つ世界なのか?
「動体探知機でしょ?」
「一樹、何でお前解るんだよ」
「他に似た言葉ないじゃん」
「剛体パンチ機かもしれないぞ?」
「何それ? そんなのあるの?」
「いや、知らないけどさ」
「タカオ、今の二つは解ったのか?」
「ああ、何となく解ったよザック。簡単に言うと動体探知機って言うのは、周囲の動く物が解るんだ」
「ん? そんなの俺でも解るぞ?」
「ザックたちは解っても俺は解らないだろ? だからそれを使って敵の居場所を知るんだ」
「ふーん。もう一つは?」
「自動迎撃装置。例えば俺の意識外からザックが攻撃してきたとするだろ? そうすると俺の意思に関係なく、何らかの手段でザックに攻撃するんだ。勝手に敵なり敵の攻撃なりを迎え撃つ。そう言う奴だな」
「何を使って攻撃してくるんだ?」
「それは見てないから解らない。さっき言った銃かもしれないし、使用者本人が攻撃してくるかもしれない。何で攻撃してくるかが解るまでは、飛び道具で牽制した方が良いかもしれないな」
「成程な。まあかち合ったらそうするとしよう」
「じゃあそろそろ良いかしら? 作戦を立てましょう」
その後も話し合い、大まかな作戦が決まり三手に分かれる事になった。
一班が俺、ミカ、ルシアの三人。遥の救出だ。サイガから場所は聞いたから大丈夫だろう。
二班がルード、ザック。ガジンの居城前で暴れる陽動係だ。
三班がサイガ、一馬、一樹、ジルだ。もちろん佐々木さんの救出だ。ヒルダと言う人は放っておいても大丈夫らしい。
ニナとナディアは留守番。シグは二人の護衛だ。
遥と佐々木さんを救出した後は、転移結晶を使い一度この場に戻って来る。そして俺達をこの場に残して、イグナス組でガジンを討ち取りに行く。そういう段取りになった。敵の勇者と傭兵に関しては、特に闘う理由も無いので、攻撃されない限りは放っておくことにした。
「みんな転移結晶は持ったわね? じゃあザックお願い」
転移なんて初めての経験だが、俺達も転移出来るのか? といった心配も杞憂に終わった様だ。光が収まった時には見知らぬ建物の中にいた。
「じゃあ皆、手筈通りにね」
「ああ、そっちもな」
「ではザックよ。儂等は先に行くとするかの」
「おう、せいぜい派手にやってやろうぜ。じゃあまた後でな」
ルードとザックは建物から出て行った。
「あいつらは陽動だから目立っても良いけど、俺らはそうもいかないからな。これを羽織って行け。さっき用意しておいたんだ」
サイガが汚い布きれを差し出して来る。
「えー、何この汚いの。これ着て行くの?」
「一樹。ここは敵地だぞ。それ位我慢しろよ。いいから被ってさっさと行くぞ」
俺達は建物を出て、目的の場所へと向かった。
孝雄・ミカ・ルシアside
遥は闘技場の中にいる。もう目と鼻の先だ。どうしても足早になってしまう。ミカとルシアは何も言わずに付いて来ている。闘技場からは歓声が聞こえる。今も試合をやっているのか? まさか遥じゃないだろうな?
サイガからの情報では、正面入り口には兵の詰め所があるから裏の搬入口から侵入しろ、と言われているので裏を目指す。・・・・・・あそこか。二人の兵が腰から剣を吊るし、立ち話をしている。
「ちょっと待っててね。こんにちは」
「ん? 何だお前--」
そう言って近づいて行ったルシアは・・・・・・二人の兵の首を斬り落とした。
「なあルシア。いきなり殺すのか?」
「さっき言ったと思うけど、ガジンの兵は生かしておく理由は無いよ?」
「まあその辺はそっちのルールだろうからな、特に思う所はないけど。いきなりだからちょっとびっくりしただけだ」
「そう? じゃあどんどん行こうか」
闘技場での闘いは始まっているらしく、時折大歓声が聞こえる。
「随分と盛り上がってるみたいね」
「ハルカじゃなければいいけどね」
変な前振りするんじゃねぇよ。ルシアの先導と敵兵の排除で、ものの数分でサイガから聞いた部屋に辿り着いた。
扉を開けてルシアが先に部屋に入る。
「あれ? ここで合ってるよね?」
「ええ、合っているわ」
くそ・・・・・・部屋の中には誰もいない。
「まさか今闘っているのって・・・・・・」
部屋にはもう一つ扉がある。
「こっちの扉が闘技場に繋がっているんじゃない?」
ルシアが扉を蹴り開け先に進む。薄暗い通路の向こうから歓声が聞こえるから間違い無い様だ。
歓声と共に時折、ドゴンとかガキンと言った音が聞こえる。
「闘ってるね」
通路は頑丈そうな鉄格子で塞がれている。この向こうが闘技場か。格子の間から見ると・・・・・・何だありゃ? 闘技場の中央辺りに、体高3mはありそうな赤い色をしたカマキリがいる。
「キラーマンティスね。しかも大きさからして亜種ね」
赤いカマキリはザカザカと動き、両腕の鎌を振り回している。相手は、相手は誰なんだ!?
「ルシア! ここを開けろ!」
「うん」
ルシアに鉄格子を斬り壊させて闘技場に入る。
「タカオ待って! 先に行かないで!」
ミカの声が聞こえるが、それ所じゃ無い。闘技場に入った俺の目に映ったのは、巨大なカマキリと闘っていたのは・・・・・・全身血だらけの遥だった・・・・・・。
嘘だろ・・・・・・何であんなにボロボロなんだよ・・・・・・しかも素手であんな化け物と・・・・・・。
「タカオ、ハルカの所に行くわよ。ルシア、キラーマンティスは任せるわ」
「解った」
ルシアは一足飛びに、遥と巨大なカマキリの間へと入る。俺はミカと遥の方へと向かう。
「遥!」
遥は俺に気付き、気が抜けたのかがっくりと膝を付く。
遥の元に駆け寄り、今にも倒れそうな遥を抱き止める。ミカは遥の容態を見ている様だ。
「遥! 無事か!?」
無事じゃない。ここまでボロボロにされて無事な訳が無い。顔の右半分は包帯で巻かれ、身体も包帯が巻いていない方が少ない。しかも左の脇腹をざっくりと切り裂かれていて出血が酷い。こんな・・・・・・俺が遅かったから・・・・・・。遥を抱きしめながら、
「遥、遅くなってすまない。もっと、もっと早く来れた筈なのに、俺がもっと早く来ていたらここまで・・・・・・」
「あ・・・・・・孝雄さん・・・・・・夢じゃない・・・・・・本当に、来てくれた・・・・・・」
「ミカ! 早く治してくれ!」
「やってる! でもここまで酷いと・・・・・・」
ルシアもカマキリを倒したようで、駆け寄って来る。
「タカオ、ハルカは大丈・・・・・・酷い・・・・・・」
「良かった・・・・・・最後に孝雄さんに会えて・・・・・・一馬と一樹は? 無事なの?」
「は、はは、最後とか訳解んねぇ事言ってんじゃねえよ。一馬と一樹も無事だ。一緒に来ている。今は佐々木さんの救出に行ってる」
「そう・・・・・・詩歩ちゃんは、私とヒルダさんで守ったわ・・・・・・まだ若いのに、こんな事させられゴブゥッ!」
遥が大量の吐血を・・・・・・
「ミカ!」
「やってるわよ!」
くそ、何で俺は何も出来ないんだ! その時、
「ふむ、乱入は認められていない筈だが? お前達は何だ?」
「タカオ危うぐっ!」
ズゴン!
「ルシア!? くっ!」
ズドン!
え? ・・・・・・ルシアとミカが、闘技場の壁まで飛ばされ壁を壊し、観客席で瓦礫の山に埋まっている。何があったんだ?
「孝雄さん!」
遥が俺を殴り飛ばした。ぐうう・・・・・・何だ? 誰だこいつは? 傷だらけの遥の前に、黒い鎧を着た男が立っている。
「お前は何をやっているんだ? 何故勝手に治療を受けている」
「あなたには関係無いでしょ。孝雄さん逃げて! こいつは私が食い止めるから!」
「・・・・・・逃げて? 何言ってんだよ遥。お前を助けに来たんだぞ?」
「ん? そうなのか? お前はガジンの奴隷をかすめ取ろうとしているのか? 無謀な事をする奴だ。どの道逃亡奴隷は始末して良いと言われているからな。女、お前を始末した後は、乱入したあいつらも皆殺しだ」
「ふん。そんな事させないわ」
遥は立ち上がり、黒い鎧の男の前に立つ。
「何の真似だ? お前如きが――」
ガツッ!
遥の拳が男の顔面を捉える。そのまま鎧の顔に連撃を入れている。
「・・・・・・無駄な事を」
鎧の男は右手に赤く光る剣を持ち
・・・・・・光る剣!? こいつが勇者か!
そのまま遥の胴を薙ぎ払った・・・・・・




