10-5
孝雄side
ザックとサイガに偵察を任せたはいいが、手持ち無沙汰だ。意味も無くウロウロしてしまう。
「タカオ、少し落ち着いたら?」
「そうだよ。今からそんなじゃあ疲れちゃうよ?」
「ああ、解ってる。解ってはいるんだけどな・・・・・・」
ルード、一馬、一樹はシグと何やら話している。ニナとナディアは黙って座っている。落ち着きが無いのは俺だけだ。いや、一馬はそうでもないな。そわそわしている。
「タカオ、落ち着かないならアーリマンの所に行って来たら? そろそろじゃない?」
「ん? ああ、そうか。そういえばそうだな」
アルマの所に行って何か聞いて来るか。
「じゃあちょっと行って来るな」
「ええ」
御者席で横になり、指輪に念じる。・・・・・・アルマ。聞こえるか? ・・・・・・意識が遠くなる。うん、聞こえてるな。
「ええ、聞こえてるわよ。久しぶり、来てくれて嬉しいわ」
今日のアルマは・・・・・・
「ああ、久しぶりだな。で、何だその格好は。それってメイド服だよな?」
本格的? なメイド服ではなく、俗に言うメイド喫茶とかで使われてそうな、ひらひらしたタイプのメイド服だ。
「そうよ。こういうのは嫌い?」
「んー、どうだろう? メイドなんかいなかったからな。可も無く不可も無くって所だな」
「あらそう、残念だわ。今回はハズレね」
「まあ、そういうのが好きな人は好きなんだろうがな」
「ふーん。殿方はメイド服を着た若い娘を凌辱する願望があるって聞いたんだけどね」
「何処で聞いたんだよ・・・・・・何か間違ってないか? まあそう言った性癖を持っている人も、少なからずいるんだろうけどな。でも少なくとも俺自体は特に感じる物は無いな。だってそれってさ、要は職場の作業服だろ? 仕事のユニフォームに欲情するってどうなんだ?」
「さあ? 私に言われても解らないわ」
「俺だって解らないよ」
「ふふ、じゃあこの話はお終い。今日は何を飲む? 神酒にする?」
「・・・・・・普通のコーヒー、ブラックで」
「もう、折角タカオの為に用意したのに・・・・・・」
「普通の飲み物でいいから・・・・・・」
「で? 目的地までもう少しって所まで、ようやく来れたわね」
「ああ、お陰様でな」
「ふふ、私はあなた達の行動に関しては何一つ関わっていないわよ」
「ん? 何か変な言い方だな」
「今迄起きた事も、これから起こる事も、私は一切関知していないわって事」
「・・・・・・敵方にいる勇者って奴の事か?」
「ああ、彼もそうね。ガジンと手を組むとは思わなかったわ」
「そいつはルシア並みに強いのか?」
「そうじゃないかしら? 腐っても異世界の勇者だからね。それなりの戦闘能力はあると思うわよ?」
「ふーん・・・・・・傭兵の方は?」
「うーん、あまり種明かしはしたくないんだけどな・・・・・・タカオの住んでいた世界より、科学技術が進化した世界から来たわ。言えるのはそれ位ね」
「進化ってどの程度だ?」
「そうね・・・・・・150年は進んでいるかしら? 富裕層に限るけど、個人で惑星間を行き来する位には」
「そんなに進んでるのか・・・・・・」
って事は銃器を持っているよな。・・・・・・ルシア達は銃器に対抗できるのか?
「まあ傭兵の三人は見ればすぐに解ると思うわよ。明らかに文明レベルが合っていない、異質な存在だから。どう? そろそろ力に目覚めたくなってきた?」
「・・・・・・まあ多少はな」
「まあタカオが気付いていないだけで、攻撃力と防御力はかなり上がってるのよ?」
「そうなのか? 全然解らないけどな」
「だって、あなた自分で闘わないじゃない。それじゃあ解らないでしょ?」
「それもそうか。戦闘は全部ミカ達に任せていたもんな。どれ位強くなったんだ? 何匹かゾンビを倒したから、それで目覚めたのか?」
「何を言っているの・・・・・・あんなので目覚める訳ないでしょ? 闘いで目覚めさせるなら、死にかける位じゃないと無理よ。今はまだ内包してるだけよ。そうね、攻撃、防御共に今の勇者ちゃんの最大を100とすると・・・・・・タカオは攻撃が80で防御が140って所かしら」
「・・・・・・誰が?」
「・・・・・・だからタカオが」
「・・・・・・何で?」
「加護を与えたから」
「・・・・・・えっと」
「凄いじゃない。勇者ちゃんの本気の一撃を受けても、ダメージは受けても死なないわよ」
「・・・・・・」
「えーっと、今のこの世界で総合的に見ると・・・・・・凄いわ。今迄のタカオは下から数えた方が早かったのに、今は上から372番目に強いわよ。防御力だけで見るなら世界で3番目よ。でも防御力のトップだった “ダ” は既に死んでいるから、世界で2番ね」
「・・・・・・アルマ」
「何?」
「それって人間なのか?」
「人間よ? 強かったら人間じゃ無いの? 勇者ちゃんは人間でしょ?」
「それはそうなんだが・・・・・・」
「大丈夫よ。人間離れしているだけで、タカオはれっきとした人間だから。安心しなさい」
安心って・・・・・・上から372番って何だよ、その中途半端な数は。防御は2番とか意味解んねーよ。
「どうして解らないの? 数字通りよ。372って言うのは総合力だからね。経験とか武器の扱いとか。素手限定なら4番目よ」
素手限定で順位上がってるし・・・・・・。
「まあどれだけ強くても使い方が解らなければ、宝の持ち腐れなんだけどね」
「どうやると解るんだ?」
「だから、感情の激しい起伏での覚醒」
「ああ、そうだったな」
「ふふ、楽しみね。これで覚醒したら、更に凄い力も手に入るかもよ?」
「はあ? まだ何かあるのか?」
「そうよ。覚醒する時に、タカオが何を望むかよね。具体的にはタカオ次第だから何とも言えないわ」
「俺が何を望むかねぇ・・・・・・そう言えば、ガジンが復活した理由とかって教えてくれるのか? みんな不思議がってるんだが」
「良いわよ。そんなに難しい話じゃ無いし。簡単よ。勇者ちゃんに殺されるときに、時空の狭間にいる私に届く位に強く願ったのよ」
「復活をか?」
「ええ。普通は死んだら意識も無くなるでしょ?」
「まあ死ぬんだからな。死んで意識が無くなるのか、意識が無くなるから死ぬのかは知らんけどな」
「ガジンはね、一般的に言う “死んだ” 後も3分位意識を保っていたのよ」
「ん? それは死んでいないんじゃないのか?」
「いいえ。首を落とされたのよ? 只の人間がそれで死なない訳がないでしょう?」
「それもそうか」
「もう執念ね。呪いと言っても過言じゃ無かったわね。勇者に復讐をするって事だけを願っていたわ」
霊的な何かになってたのか?
「それでアルマが復活させたのか?」
「んー、私がって所は違うかな。私はきっかけを与えただけ。そのきっかけに気付くかどうかは本人次第よ」
「でもガジンも眷属なんだろ?」
「タカオ。私の眷属になるのに善悪も貴賤も問われないわ。私に願いが届いた時点で、もう眷属なのよ。あ、タカオは例外よ」
「うーん・・・・・・よく解らないな」
「ふふふ、神々の定めた理なんて簡単に理解出来ないわよ。そんな物だって思う事ね」
「そんな物ねぇ・・・・・・ガジンも変な力を持っているんだろ?」
「ええ、でもそれは秘密よ」
「だろうな」
「じゃあそろそろ戻る?」
「・・・・・・アルマってさ、結構淡白だよな」
「そうかしら?」
「ああ、定期的に来いって言っておきながら、短時間で帰らせるだろ?」
「あら、心外ね。タカオがいいならずっといてくれてもいいのよ? それに短時間の方が、次が待ち遠しいじゃない」
「ふーん。アルマがそれでいいなら、こっちもいいんだけどな」
「これ位が丁度いいのよ。ではタカオよ、神託を与える・・・・・・タカオよ何が起きても正気を保つこと。決して押し潰されない様に・・・・・・」
何? 遥を目前にしてその神託は何だ? 遥に何か起きてるのか? ダメだ・・・・・・意識が・・・・・・ちょっと待てアル・・・・・・
何やら落ち着く匂いの中で意識が戻って来る。目を開けると・・・・・・あれ? 俺、御者台で寝たよな? 何処だここは・・・・・・
「あ、タカオ起きた?」
「今回はどうだった?」
「・・・・・・俺さぁ、御者台にいたよな」
「うん、そうだね」
「ここは?」
「馬車の中よ。私とルシアで運んだの」
「そうか。まあそれは良いとして、ミカとルシアは何をしているんだ?」
「えっとー・・・・・・」
「・・・・・・うなされるといけないから添い寝してたのよ」
「うん、そ、そうだよ。危ないからね」
「俺の腕を枕代わりにしながらか?」
「「・・・・・・」」
「真昼間っから何をしてるんだよお前達は。皆は? 外か? 一馬と一樹もいるんだぞ」
「皆で食べ物を探しに行ってるわ」
「だからか・・・・・・ほら、起きてくれ」
「えー、もうちょっとー」
「だ・め・だ。ほら起きろ」
ぶつぶつ言いながら、俺から離れる二人。
「で、今回は何か言ってた?」
「ああ、でも皆揃ってからでいいか?」
「そうね、二度手間になるものね。解ったわ。でも困ったわね」
「何が?」
「それだとやることが無いわ」
「・・・・・・そうだな」
「タカオ? さっきの続きを――」
「却下だ」
さっきのいい匂いは二人の匂いか。女性特有の甘い匂い。
「・・・・・・まあいいわ。ここまで来たんだから今は我慢するわ。あと少しだしね」
「そうだね。ここでハルカを救って説得したら、晴れてタカオにだ、抱かれるんだもんね。頑張らないと」
・・・・・・最近そっち方面の事を言って来ないとは思ってたけど。
バシュウッ! と外で音がした。
「ザックとサイガが戻ったみたいね」
ミカが馬車から出て行く。
「お疲れさま、どうだった?」
「俺の方は問題無いが、サイガの方がちょっと問題ありみたいでな」
「何が問題なの?」
「ああ、タカオはいるか?」
「いるけど、何だ?」
「カズマとカズキは?」
「今はいないわ」
「じゃあ今の内のが良いな。まず最初に、目的であるタカオの妻とカズマの女はこの目で確認した」
「おお、そうか! 二人共元気だったか!?」
「・・・・・・」
サイガはばつが悪そうな顔をしている。
「おい、何だよサイガ、その顔は?」
「カズマの女は何の問題も無く、無事だった」
「何だよ、遥に何かあったのか?」
「カズマの女を守る為に闘技場で闘わされていたみたいでな・・・・・・かなりボロボロなんだ」
「は? ・・・・・・ボロボロって? 服とかがボロボロなのか? そうだよな?」
「タカオ、落ち着け。まだ生きているんだ。お前が来ている事を伝えたら、目に光が戻るくらいに――」
・・・・・・まだ生きている? 目に光が戻る? 何だよそれ、どんな状況だったんだよ・・・・・・?
「・・・・・・サイガ、今すぐに俺を遥の所まで連れて行け。今すぐにだ」
「だから落ち着けって。ルード達も一緒に――」
「今いるメンバーで先行するんだ。俺と、サイガと、ミカとルシアで。ザックは後からルード達と来ればいい」
「タカオ、気持ちは解るけど落ち着いて。ルシア、タカオを抑えて!」
「うん!」
「落ち着け!? 落ち着けるか! ルシア離せ! ミカ、お前が俺の立場で俺が遥の立場だったらどうする? 落ち着いていられるのか!? ルシアだってそうだろ!? 俺が! のんびり旅をしている間に! 遥はボロボロになりながらっ・・・・・・」
ガツッと首筋に衝撃を受けて、意識が薄れていく・・・・・・くそ・・・・・・気絶してる・・・・・・場合じゃ無いってのに・・・・・・。




